25話 カーラエルの初戦闘
結果から言えば、ミシェルの先制攻撃で、ワイルドボアは爆散した。
最初は、現実世界にいる猪と同じくらいか、やや小さめのワイルドボアに、剣を片手に勇ましく挑んでいくミシェルの姿を、内心ハラハラしながら見てたんだ。
だって幼児なんだぞ?!
見た目よりしっかりした走り方だったし、全然危なっかしくなかったけどッ!!
………相手はノンアクティブモンスターだし、こちらから手を出さない限り、いくら近付いても襲ってこない。だからミシェルが先制攻撃を当てたら、俺もすぐに加勢するつもりでいたんだ。…まぁ、加勢したところで、俺の筋力5しかないから、大して役に立たなかっただろうけどな。
それに結局、すべて杞憂に終わったし。
「えいっ!」という可愛らしい掛け声とともに、ミシェルが繰り出した一撃で、本当に、呆気なく、ワイルドボアが爆散してしまったからだ。
あまりにも呆気なく終わるので、試しにワイルドボアを《鑑定》してみて、その理由が分かった。
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名前:ワイルドボア
レベル:1
レアリティ:★1
空腹度:0
HP:28/28
MP:7/7
筋力:16
体力:12
知力:3
器用さ:5
素早さ:10
運:4
【スキル】
突進
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弱い。弱すぎる。
同じレベルなのに、能力値に差がありすぎる。これなら一撃で倒せて当然だ。
レアリティが違うだけで、こんなにも能力値に差が出るのか……。
でも、これなら俺でも倒せるかもしれない。
「…じゃあ今度は俺がやってみるかな」
「だめ…っ!」
「ダメぇ!」
「えっ、ルシエル? ミシェル?」
2人は激しく首を横に振って、俺の動きを止めるかのように、足にしがみ付いてくる。
「ままはぼくたちがまもるの!」
「オレたちがママをまもるの!」
えぇー……。2人の気持ちは嬉しいけど、それだと俺、パートナーに寄生してることにならないか?
「う〜ん、でも1度は1人で戦ってみたいんだ」
アバター作成後のチュートリアルでは、付与魔法の使い方しか習ってない。攻撃は実戦あるのみ☆って言われたからだ。
…誰にって?
こんなふざけた言い方をするは1人しかいない。パックだよ、パック!
「まま……けがしない?」
「けがしないでくれる?」
「できるだけ怪我しないように戦うよ」
心配そうに見上げてくるルシエルとミシェルに、安心させるように笑い掛けた。
「うん…」
「けがしないで……?」
渋々頷いてくれた2人の頭を一撫でしてから、ワイルドボアに近付く。
正直、一度もAWOで戦ったことがない俺が、無傷で勝利するなんて無理だ。
多分杖による打撃じゃ、ダメージは与えられないだろう。だって俺の筋力5しかないし。となると、杖に火属性を付与して、ワイルドボアが火傷状態になるまで、延々と打撃を繰り返すしかないか…?
――――結構時間が掛かりそうだな。
ハァ、と息を吐いて、俺は自分の杖に火属性を付与した。
「《属性付与・火》」
杖が一瞬赤く染まり、赤い靄のようなものが杖全体を覆う。これで火属性が付与できた。
《属性付与》は1度属性を付与すると、効果が120秒間も続く。なのに消費MPは、たったの8。しかもキャストタイムとリキャストタイムがないんだ。かなり使い勝手のいい魔法だ。
――――さて、準備は整った。
俺はグッと杖を持つ手に力を入れて、動きを止めているワイルドボアに、背後から襲い掛かった。
「ピギイィッ」
火属性の打撃を受けたワイルドボアは、悲鳴を上げて俺に向き直る。続けざまに何度か攻撃を繰り返すが、ダメージを受けている様子はない。……やっぱり筋力が低すぎると、防御力に防がれてダメージが通らないようだ。それでも、ワイルドボアの毛が焦げているから、火傷状態にはできるかもしれない。
体制を整えるために少し距離を取ろうとして、ワイルドボアが前足で激しく地面を掻いていることに気が付いた。
「やば…ッ」
突進か!
これは――――避けられないッ!!
「く……ッ」
杖でワイルドボアの突進を受け止めようとしたが、受け止めきれずに吹っ飛んだ。大した痛みも衝撃もなかったけど、ノックバック効果があるのか、受け止めた時の姿勢が悪かったせいで、かなり派手に吹っ飛ばされてしまった。
「まま…ッ!」
「ママぁーッ!」
ルシエルとミシェルの悲痛な叫び声が聞こえる。
――――ごめん、2人とも。
やっぱり無傷は無理だった。
俺は無様に地面を転がって、HPが減った。…ワイルドボアの《突進》で減ったっていうより、地面に転がった衝撃でHPが減ったような気がするんだけど、どういうことだ?
…っと、まだ戦闘は終わってない。
ワイルドボアからの追撃を警戒し、体を起こした俺が見たものは――――……、
「……ゆるさない」
「ママをいじめるヤツはゆるさない…ッ!」
怒りで体を震わせるルシエルとミシェルが、ワイルドボアを攻撃している姿だった。
ルシエルの前には複数の魔法陣が同時に出現し、キャストタイムなしで複数の魔法が同時に放たれる。その魔法が放たれるよりも前に、いつの間にかワイルドボアに肉薄していたミシェルは、見たことのないスキルでワイルドボアを滅多斬りにしていた。
「ふ、2人とも……」
それ……完全にオーバーキルだ。
だってミシェルの一撃で、ワイルドボアは爆散するんだぞ? それなのに滅多斬りなんて……。
ルシエルの魔法だってそうだ。ワイルドボアには一発で事足りる。それが複数の魔法を同時になんて……。
――――オーバーキルにもほどがある…!
魔法が着弾する直前に、ミシェルはサッとワイルドボアから離れる。あれが《以心伝心》の効果なんだろう。こんな場面でスキル効果を実感するとは思わなかった。
――――ところで2人とも……そんなスキル持ってましたっけ?
思わず敬語になってしまったのは、忘れてくれ。




