23話 道具屋で一悶着?
ギルドを出て、早速西区の道具屋に向かった。相変わらず子供たちに注がれる視線には何とも言えない気分になるけど、
別に実害があるわけじゃないし、気にしないでおこう。
「ママ、どーぐやでロープかうの?」
「そうだよ。ミシェルが使うロープを買うんだ」
「オレ、ママのためにいーっぱいつかまえるね!」
グッと小さな手を握り締めて、ミシェルが意気込む。
「まま、まま。ぼくもままのためにいっぱいたおす」
ミシェルに負けじと、ルシエルが主張する。
――――俺のパートナーが可愛すぎる…!
頭を撫でてあげたい衝動に駆られたけど、右手はルシエルと、左手はミシェルと繋がっているから無理だ。
「2人ともありがとう」
グッと衝動を抑え込んで、2人に笑い掛けた。
△▼△▼△▼△
9時前にも拘らず、道具屋は開いていた。
店内に入れば、ポーション作りのクエストを教えてくれた店主が、暇そうな顔でカウンターの向こうにいる。時間が時間だから、俺たち以外に客の姿はない。
「おお! アンタか!」
俺と目が合った店主は、足早にカウンターの向こうから出てくると、俺の肩をバンバン叩く。
「ポーションの件は本当に助かったよ。ありがとな!」
「いえ、お役に立てたようでよかったです」
一昨日も、顔に喜色を浮かべなから感謝されたが、むしろ俺の方こそ感謝したかった。何せ、いい時間潰しになったし、《調合》のスキルレベルは上がったし、回復量が多いポーションの作り方は分かったし、3万Gも稼げたんだ。…まぁ、既にその大半を使ってしまってたわけだが。
「それで? 今回は何が入り用で?」
「実は捕縛用のロープが欲しいんです」
「アンタが使うのかい?」
「いえ、この子が―――…」
ふと視線をミシェルに向けると、何故かミシェルは空いている左腕で、俺の足にギュッとしがみ付いていた。そして、可愛らしい顔には似つかわしくないほどの険しい表情で、店主を睨んでいる。
「ミシェル?」
え、急にどうしたんだ?
何か気に障るようなことでもあったのか?
「だめ…。ままにちかづかないで」
突然険しい表情になったミシェルに驚いていると、ルシエルが威嚇するかのような声で呟いた。
「え、ルシエル?」
その声にルシエルを見れば、ルシエルも俺の足にしがみ付いていて、店主を睨んでいた。
――――え、え? 2人ともどうしたんだ?
何でこんなに敵意剥き出しなんだ?
俺の肩を叩いたくらいで、他に何もしてないだろ?
「ママにちかづくな!」
「ミシェル?!」
ホントにどうしたんだ?!
ミシェルもルシエルも、何でこんなに店主を嫌うんだ?
「えっ、アンタ……おん」
「男です!」
目を見開いて驚く店主に、俺は食い気味に否定した。確かにこのアバターは、一見すると―――…いや、一見じゃなくても、女にしか見えない。けど、俺は正真正銘男だ。
「…あ、ああ! なるほどな!」
俺の顔をまじまじと眺め、店主は得心が行ったと言わんばかりに頷く。そんな得心の行き方は止めてくれ。
「その美貌じゃあ仕方ねーな!」
うんうん、と頷いて、店主はガハハハッと愉快そうに笑った。
「…安心しろ、坊主ども。俺はお前らの母ちゃんに手ぇ出したりしねーからよ!」
一頻り笑った後、俺の前でしゃがみ込んだ店主が、やや乱暴に子供たちの頭を撫でた。まだ彼を警戒しているのか、2人の表情は硬い。
――――えっ、ちょ、待って! 手を出すって……俺男だから、そもそもそんな心配いらないんだけど!?
セクハラ防止のために、フレンドであっても、異性には握手やハイタッチ、背中や肩を軽く叩く程度しかできないようになっているんだ。……あ、同性となら肩を組んだり、抱き合ったり、頭を撫でたりできるんだっけ。でも抱き合ったり、頭を撫でたりするのは、女性だけだろ。
そういえば……エルダさんと話してる時も、受付嬢と話してる時も、2人は静かにしてたな。…まぁ、エルダさんの時は、本を読んでたから静かだったのかもしれないけど。
あれってもしかして、2人とも女性だったからか? てっきり人見知りなのかと思ってたのに……。
「ルシエル、ミシェル」
「まま?」
「ママ?」
2人が俺を見上げる。視線を合わせるためにしゃがみ込めば、ルシエルとミシェルは俺の足にしがみ付くのを止め、正面に回り込む。
「俺はね、こんな見た目だけど、ルシエルやミシェルと同じ、男なんだ」
だからママじゃない、と告げると、2人はキョトンとした顔をして――――……
「まま!」
「ママ!」
すぐに破顔した。
「い、いや、だから―――…」
「まま」
「ママ」
ぎゅうっと2人に抱き付かれる。
嬉しそうに抱き付いてくるルシエルとミシェルに、結局俺は――――この子たちの認識を変えることに失敗し、諦めた。
因みに、道具屋の店主が2人を見ても驚かなかったのは、昨夜図書館に向かう俺たちの姿を見て、知っていたかららしい。
今は居心地悪いかもしれないが、暫くすれば拝まれたりしなくなるはずだ、―――とも言われた。




