1話 VRMMORPG『Another World -Online-』
初投稿になります。
拙い文章ですが、よろしくお願いします。
VRMMORPG『Another World -Online-』。通称『AWO』。
VR市場最大手である日本企業の【スロール】が開発したVRゲームだ。
VRが実用化されてから、数多くのVRゲームが販売されているが、これはVR市場の最大手が手掛けたゲームということで、その注目度は非常に高かった。しかも初回生産分は日本のみでの販売で、購入も日本在住者に限られている。
購入者を限定した理由について、スロール側からの説明は特になかった。だけどそれに不満も文句もない。
元々全世界同時発売なんて滅多にないし、純日本製の商品を最初に日本で売るのは、別におかなしことじゃないんだから、説明を求める方がおかしいだろう。……え? 本音? 日本人でよかったっ! 神様、仏様、スロール様! 本当にありがとうございます!!(五体投地)
…ただ、初回生産分は注目度に比べて、数が非常に少なかった。―――たったの3万本だ。しかも店頭販売はなく、オンラインによる抽選販売のみ。
おかげで信じられないくらいの高倍率になり、正直…当選しないだろうと完全に諦めていた。
…――――のだが。
俺はその抽選販売に、見事に当選したのだった。
ある日、スロールから当選を知らせる通知が、郵送で送られてきた。わざわざ書面にしたのは、当選を騙るメールを懸念しての措置らしい。
その懸念はよく分かる。
注目度が高いからこそ、当選の詐欺メールとか横行しそうだもんな。
送られてきた書面には、応募への感謝と当選を祝福する文、商品を購入するためのサイトのURL、購入手続きに必要なIDとパスワードが印字されていた。
俺ははやる気持ちを抑え込みながら、URLを打ち込んだ。
サイトにアクセスすると、パソコン画面に表示されたのは、紛れもなく『AWO』の購入サイトだった。ソフトと一緒に、スロール製のVRギアまで紹介されている。
最新モデルのVRギアは、従来のヘルメットタイプではなく、格好いいデザインのスマートグラスだ。
どう見たってスポーツサングラスにしか見えないのに、これで脳波が測定できて、フルダイブまで可能だって言うんだから凄いよなぁ…。
VR市場の発展は本当に目覚ましい。
最初の頃はベッドマウントディスプレイで、ゲームはディスプレイを見ながら、手元で別のコントローラーを操作するものだった。なのに、20年くらい前に完全没入が実用化され、8年前に完全没入型のVRギアが一般向けに発売されてからは、どんどんコンパクト化が進んで、今ではサングラスになっている。
このまま発展し続ければ、小説や漫画の世界の話でしかなかった、VR空間へ直接アクセスできるようになるチップを体内に埋め込んだり、生身の肉体を捨てたりするのが、当たり前になるのかもしれない。……と言っても、それが本当に実用化されるのは、早くても数十年後だろうけど。
「……あ、これ」
VRギアの紹介と共に書かれていた文字に目が留まった。
どうやらサイトに掲載されている最新のVRギアは、ソフトとのセット販売も行なっているようだ。
「商魂逞しいなぁ…。けど、嫌いじゃない」
俺のVRギアは従来通りのヘルメットだ。この機会に新調するのもいいかもしれない。
――――カチ。
当選した高揚感と最新モデルの格好よさに惹かれて、俺はついついセット販売の方を購入してしまった。
「ま、まぁ…決して安くはない買い物だけど、最新モデルだし、いつか買い換えようと思ってたし、セット販売で少しは安くなってるだろうから、これは決して無駄な出費じゃない!」
――――などと。
あれこれ言い訳を口にしながら、俺は購入手続きに必要なIDとパスワードを打ち込んだ。
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AWOは、ゲームによくある剣と魔法とモンスターの世界で、自分だけのパートナーと冒険したり、仲間たちとパーティーを組んでモンスターと戦ったり、観光したり、お店開いたり、農業やったり、料理したり、釣りしたり、散財したり、とにかく自由気ままな異世界生活を満喫することができるゲームだ。
公式サイトに掲載されていたSSの中には、中世ヨーロッパ風の美しい街並みや、四大精霊たちが治める幻想的な町、可愛らしい妖精たちが飛び交う長閑で綺麗な花畑などの他に、スロットやルーレットなどの賭博場や、PvP用の闘技場などがあるカジノエリア、重々しい雰囲気に包まれたスチームパンク風のエリアなんかもあるようで、結構何でもありの世界観だ。
このゲームの売りの一つである『自分だけのパートナー』というのは、戦闘が苦手なプレイヤーでもAWOの世界を楽しめるように、一緒にモンスターと戦ってくれて、プレイヤーと共に成長していく存在のことだ。勿論戦闘だけじゃなく、遊具などを使って遊んだり、一緒に食事をしたり、スキンシップをしたりして、仲を深めることもできる。しかもパートナーはプレイヤーの数だけ存在し、種族は同じでも、見た目も含めてまったく同じという存在は、モンスターの中にもいないのだ。まさに、自分だけのパートナー、というわけだ。
どんなパートナーが選ばれるのかは、AWOの世界に降り立った後じゃないと分からない仕様で、変更は不可能。……となっているが、アバター作成時に大まかな系統――獣系や爬虫類系など――と、タイプ――攻撃や防御など――が選べるため、ある程度自分の好みに添うようになっている。また、初回のアバター作成時だけ、ポイントを消費することで更に一体、パートナーを増やすことが可能になっている。これは正規版で追加された要素で、β版にはなかったものだ。
どうしてもパートナーが気に入らない場合は、アバターを作り直すしかないのだが、それをするとパートナーの追加はできなくなり、初期ポイント以外のポイントも当然返ってこないので、損しかない。
MMORPGによくあるPK行為についてだが、AWOでは一部の区画を除いて不可能となっている。これは子供や女性プレイヤーへの配慮なのだが、全面禁止となっていないのは、PKが可能となっているエリアが、少し特殊なエリアだからだ。
PKが可能なエリアは、カジノエリア。
β版では解放されなかったエリアで、カジノから連想される闇の部分を反映した結果、一部の区画でのみPKが可能になった。
しかし、PKが可能な区画は本当に一部分で、広さも大したことはない。しかも侵入する際に、警告文と共に侵入の可否を問うメッセージが表示されるため、騙して誘い込むことも、無理矢理連れて行くこともできなくなっている。弱者を相手にPKを楽しみたいプレイヤーには、実につまらない設定だろう。
純粋にPvPを楽しみたいプレイヤーには、同エリアにある闘技場がオススメだ。そこではPvNも可能で、連勝数に応じてレアリティの高い武具やアイテムが贈与され、闘王を決めるバトルトーナメントへの参加資格も与えられる。
PKをしたところで、プレイヤーからは経験値もアイテムも手に入らないのだから、闘技場でPvPを行った方が、よっぽど楽しめるだろう。
その他にも、スリなどの盗み行為も不可能で、その対象はNPCも含まれている。だからNPCの店で盗みを働こうとすると、盗んだ商品の代金が、所持金から自動的に引き落とされるようになっている。所持金が足りなかった場合は、所持金の表示がマイナスになってしまう徹底振りだ。
相手がNPCだからと何度も窃盗を繰り返すプレイヤーは、最悪アカウント剥奪の処置が下るので、注意が必要だ。
ゲームの世界だとしても、犯罪はダメ絶対。買い物はお財布と要相談で。
――――そうそう。買い物といえば、AWOの課金システムは、見た目だけを変えられる着せ替え用の衣装や、ホームの内装を弄るための品物を買う時に使われるだけで、有料の強化アイテムやガチャなどがない。
一応ガチャ自体はあるのだが、いつどこに現れるか分からない、まさに神出鬼没な存在で、一定時間現れた後、煙のように消えてしまう。回すのに必要な金額は、ガチャのレアリティによって違うが、使うのはAWOの通貨なので、課金の対象外である。
あと一つ課金できるものがある。それは、アバター作成時にのみ使えるボーナスポイントだ。30ポイント1万円で、150ポイントまで購入可能となっている。
使用することで種族やクラスを上位のものに変更したり、パートナーを追加したり、初期ステータスを強化したりすることができるので、課金によるアドバンテージは大きい。
課金しなくても初期ポイントとして50ポイントが全員に配られるため、パートナーの追加は可能になっている。ただし、パートナーの追加は50ポイントなので、他を犠牲にしなければならないが。
βテストに参加したプレイヤーは、レベルやアイテムは引き継げない代わりに、所持金と初期化したパートナーのデータを引き継げるようになっている。更に特典として、初期ポイントが100ポイントに増え、βテスト時のパートナーのクラスが、一つ上の状態でスタートする。
βテスターのアドバンテージは大きいが、パートナーと共に強くなっていけば、いつか先達者たちに追いつき、AWOの世界を思いっきり楽しめるだろう。
――――と。
ここまでが公式サイトとβテスターたちのまとめサイトから得られた情報だ。
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最新モデルのVRギアを前に、どうしたってテンションが上がる。口元がにやつくのを抑えられない。
俺は早速真新しいVRギアを装着し、脳波の検出と測定を行った。
ベッドに横になり、目を瞑る。――――1分も掛からずに俺のデータ登録が完了した。
「…はや……」
思わず声が漏れた。今まで使っていたヤツは、脳波の検出と測定に5分は掛かったはず……。
さすが最新だ。
このままAWOにユーザー情報を事前登録してしまおう。AWOは既にインストール済みだし。
ユーザー情報を登録し終わると、ボーナスポイントの購入の可否を問われた。
事前にポイントの購入ができるなら、しておいても損はないだろ。
俺は上限の150ポイントを購入した。
スタートダッシュを決めるには、上限一杯まで買わないとな。
――――さて、事前にできることはすべて済ませた。あとはサービス開始を待つだけだ!




