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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
最終章 ラストミッション

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481.未来に当てれば必中です

 ギガントオーク六体のうち、二体はシアリーズとクシューによって撃破された。

 一体はアキナ班長率いる部隊が、一体はガーモン率いる部隊が担当した。

 よって、残り二体のギガントオークが戦場には存在する。


 クロスベルは降伏したオーク部隊を連れて後方に戻った際にそのまま対策本部の護衛に回されたが、それでも騎士団側は『千刃華スライサー』リーカ、ロザリンド、ピオニーといった単独で大型種に対抗出来る戦力を残している。


 ただし、残りの二体の行動は騎士団にとって大問題だった。


 一体は他のギガントオークより多くの随伴オークを連れて高級住宅街――それこそ王国一の大富豪であるスクーディア家やイセガミ家の在住するエリアに侵攻をかけていた。


 これまでこの地域は権力者たちの私兵や聖靴、聖盾の残党、そしてイセガミ家当主タキジロウと忍者部隊によってオーク部隊との睨み合い状態になり被害のない地域だったが、突如として現れ一直線に住宅街に突っ込んでくるギガントオークによって状況は一変した。


 理由は、オーク側の指揮官であるハイブリッドのせいだ。

 ハイブリッドヒューマンは小柄で顔立ちも幼いながら、荒々しく口の悪い女性だった。


「オラオラオラ!! 死ね、死ね、死んじまえ!!」


 叫びながら煉瓦を手に持ったハイブリッドがそれを人に向けて投擲すると、オーク部隊や彼女に従う別ハイブリッドも瓦礫を投擲する。果てはギガントオークまで周囲の建造物を破壊して投擲する。


 オークの膂力で投擲される瓦礫は建造物を破壊し、町並みを壊す。当然だが当たり所が悪ければ即死だ。応援にきた外対騎士団は嘗て似たようなことをするオークと相対したことがあるため即座に後退を指示したことで犠牲はなかったが、それでも体や手足に投石を受けて負傷者が相次いだ。


 最も危険なのがギガントオークだ。

 身長六メートルの巨体が投擲する瓦礫は他と比べても瓦礫の質量と破壊力が段違いで、当たり所の悪かった民家が一撃で半壊なんて光景を見たせいで士気の低下が著しい。


 遮蔽物越しに敵の様子を垣間見るロザリンド、アマル、ピオニー、タキジロウはこの極めて単純で原始的な射程の長さと破壊力に攻めあぐねていた。


「くっ、近づこうにもギガントオークを囲うように四部隊も展開して即座に対応され、その間に別の部隊とギガントオークが投擲で援護してしまう……こちらの飛び道具では防具で身を固めたオークたちに対して効果が薄い!」

「しかもあの全体に指示出してる緑女、強いんだよねぇ……」


 つい数分前、ロザリンドとアマルは強引に敵の投擲を突破して騎士団お得意の催涙爆竹などを交えながら部隊の足並みを乱そうとしたのだが、この部隊の統轄指揮官らしい女が前に出てきて失敗に終わった。


 世界でも通用するレベルに到達したロザリンドがアマルと連携しているのに、それでも攻めあぐねるほどの手練れ――報告によると嘗て大陸で『六星メラク』級冒険者にまで上り詰めながら、度重なる度を超した規律違反によって冒険者ギルドを追放された存在らしい。

 名前はスールニーヴェ、二つ名は『嵐血』。

 手段を選ばない討伐方法によって味方さえ巻き添えにした狂人だ。

 タキジロウは冷静に相手の戦力を分析する。


「己の立ち回りもそうだが、部下の動かし方を心得た上で行動している。その上でいざとなれば味方の命を犠牲にしてでも勝ちにくるとすれば、将として単純に手強いぞ。歩く投石機まで持っているしな」


 彼の言う通り、スールニーヴェは指揮官として単純に手強い。

 しかも部下の殆どが命令に絶対服従のオークなので士気にも乱れがなく、通常の軍隊であれば躊躇う場面でも躊躇わないのが厄介だった。

 そんな中、ピオニーは別のことを気にしていた。


「しかし、なんでこんなに無秩序に暴れ回ってるんでしょうか? 普通本部を直接叩きません?」

「それはわたくしも気になっていましたが……イセガミ様はどうお考えで?」

「確かにあれは厄介だが、騎士団側の本部を叩くとあらば町の騎士全てを敵に回すこととなる。そうなれば連中は敗北することとなるが、問題はその後の戦略だ。騎士団は集結した戦力で一気呵成に敵の本部を叩くことを考えるだろう。ヴァルナを始めとする戦力が一カ所に集結すれば如何に敵とて勝算は殆どない」


 確かに、ヴァルナとシアリーズの二人が揃っただけでも負ける気がしないのに彼らを援護する騎士団まで勢揃いしたら、いくらオークの戦力でも圧倒的に不利だ。


「敵には成長著しい者がいるのだろう? その者による逆転を狙うにせよ、逃げるにせよ、戦況は混乱して長期化した方が都合が良い。戦力が分散されている今は特にだ」


 成程、と納得しかけたロザリンドの横で、半分ほど話が分かってないであろうアマルが首を傾げる。


「逃げる? ……え、今更逃げるってアリなの?」


 ロザリンドはその言葉にはっとする。

 王都でこれほどの大事を起こした相手が今更逃げる訳がない、というのは彼女の勝手な願望であり、現実にはそのような道は当然として存在する。アマルに言われるまで戦いのことしか頭になかったが、タキジロウは部外者故によく状況が見えていた。


「敵将のシェパーだったか? 彼は人をハイブリッドヒューマンに変える技術を既に持って、民をハイブリッド化させる準備が出来ているのだろう? ならば王都から逃げて片っ端から民をハイブリッド化させればいい。そうすれば我々が王都で対応に追われている間に全国で無辜の民たちは意識をそのままにハイブリッド化していく」


 タキジロウの出身国である列国は人同士の戦争も経験したことのある国だ。故に、タキジロウは国というものの在り方と、それに対してシェパーの取り得る手段に即座に考えが至っていた。


「領主、商人、生産者、消費者、誰でも良い。ハイブリッドだらけになってしまえば、王国はもはや彼らを人外として見捨てることは出来なくなる。彼らを切り捨てれば彼らの親族や友人は王国を憎み強く反発するだろうし、ハイブリッド自身も反乱を起こす。逆に粛正が上手く行っても生産力の大きな低下と社会的混乱に見舞われ、行動の是非を糾弾される。シェパーはそれを更に煽るなり国外に逃げて再起を図るなり如何様にも手段がとれよう」


 逃げれば追えばいいと言ってしまえば簡単だが、オークの兵に囲われたシェパーを確実に追い詰めるには相応の戦力が必要だ。

 追跡に部隊を割けば王都では有毒で腐りゆくオークの死体と傷つき崩れた町、それに巻き込まれた民が残される。最悪の場合は感染症の流行と汚染水によって民がばたばたと死んでいく事態になりかねず、しかし対応する衛兵や騎士団はこの騒動で大幅に動ける数を減らしている。別の事を並行で行う余裕はない。


 当然、サミットが終われば全世界の首脳陣がその光景を目の当たりにし、王国は対応に追われるだろう。そのときに対応する騎士を追撃に出せば、その場を強引に乗り切ったとしても王国の国際的な信用と信頼の失墜は免れない。


 しかも、騎士団を出せないならば全国指名手配というわけにもいかない。シェパーを囲うオークの兵隊のなかにアルディス一人がいるだけで、衛兵や下級騎士たちは勝てないだろう。シェパーは止められず、あたら無駄な犠牲を増やすだけだ。対応するにはただでさえ人数の減った騎士たちを駆り出すしかなくなる。


 どう足掻いても王国は大損害を被るので、逃げられた時点で道義的にも政治的にも勝利はない。

 かといって、被害を最小限にするためにシェパーを見逃せば彼の思惑通りになる。


「もし王国民にハイブリッドが溢れたとして、切り捨てられず彼らの人権を認めれば、それこそシェパーの目標は一部とはいえ達成される。どのような認め方であれ王国は揺れる。ハイブリッドの権利を拡大するために裏で精力的に活動してもよし、旗色が悪ければまた裏社会に潜って海外に逃げれば良い」

「えーと、つまり……まぁとにかくシェパーっておじさんを王都内で捕まえればどうにかなるってことかな?」

「そしてどうにかさせないために今、シェパーは必死の抵抗をしているというわけですわね」

「なるほどなぁ」


 ピオニーは納得したようにぽんと自分の手を叩く。


「……じゃあここでまごついてちゃ敵の思うつぼじゃん! さっさと倒さないと混乱に乗じて逃げられる!」

「そういうことだ。どうにか突破したいが無策では勝てぬ。厄介なことよ……」


 投石が多すぎてファミリヤも思うように動けず、援軍が呼べない。

 四人の視線の先で、ギガントオークが大きな瓦礫を振りかぶる。

 せめてあのギガントオークの動きを封じる手段さえあれば――と、ロザリンドは己の未熟さを噛み締めた。




 ――その、様子を。


 ギガントオークが投石で町を破壊していく様子を。


 ヴァルナに追従してノノカ救出に向かう途中のカルメは、屋根と屋根の間を飛び越える途中に微かに視界の隅に収めた。


(なんだあれ。あんな巨体から投擲されたら、大砲よりタチが悪いんじゃないの? どんどん投げてる。騎士団とぶつかって戦ってるんだ。あんなの相手にやりあってたら、誰か、死んで――)


 昨日まで共に笑い合い、愚痴を言い合い、サミットが終わったら行きつけの居酒屋で乾杯しようと約束した先輩たち。いい酒を奢ってあげると豪語して、カルメ自身が下戸じゃないかと揶揄いながらも頷いた後輩たち。彼らの顔が瞬時にフラッシュバックして、カルメの足はゆっくりと減速していった。


 ノノカの救出という優先事項と仲間の援護を天秤にかける。

 騎士なんて死と隣り合わせで当たり前だし、時間をかければきっと彼らは困難を打開して見せるだろう。ノノカの救出だけでも大いに困難が予想される今、自分が抜けることは決して良い結果を齎さない。


 でも、あそこにはきっと仲間がいて、死の危機に直面している。

 ここで彼らの援護に向かうことは、彼らへの侮辱でもあり、着いてくるよう命令を下したヴァルナへの裏切りでもある。


 しかしカルメは今、遠くで繰り広げられるその光景を見なかったことにできるほど器用ではなく、非情でもなく、小心者の心を捨て切れていない。

 こんなとき、自分に力があれば。

 ヴァルナのように、両立しない二つを強引に束ねる力があれば。


(いや、違う……! あればじゃない、やるんだ! だから先輩は凄いんだ! そして僕は先輩の後に続く騎士なんだぞ!!)


 カルメは足を止め、ドラゴンウェポン『チャンドラダヌス』を抜くとヴァルナに向けて叫ぶ。


「先輩!!」

「どうした、カルメ!!」

「一分……一分遅れます!!」

「一撃で決めてこい!!」


 返答はたった一言。

 そして、カルメにとってはこの上ない激励だった。

 この先輩は、今の状況でカルメが弓を持ち、時間が欲しいと言ったことの意味を正確に汲み取り、カルメならやれると信じたのだ。返答するなりヴァルナはすぐに前を見て走り、キャリバンは戸惑いつつも「遅刻したらなんか奢れよな!」と言い残して去って行く。ファミリヤや魔物娘たちも同じくだ。


 カルメはその場に一人になった。


 なるべく高い煙突の上に立ったカルメは、ふぅ、と息を吐き、弓に矢を番える。

 周囲の被害を抑える細い矢ではなく、むしろ太い矢。

 貫通力ではなく命中時の衝撃が最大になるよう計算されたものだ。


 今朝、訓練でこれを放ったときのことが遠い昔のように思える。

 だが、あの時とは状況が異なる。


(風が強くなってきた。西北西からの風……巨大オークも不規則に移動しながら投擲を行うから狙いが定まりにくい。距離は千二〇〇メートル前後、敵にはまだ気付かれていない)


 カルメは静かに、静かに、きりきりと軋みを上げる弦を引いて構える。

 氣の呼吸が全身を伝い、外氣の感覚が広がっていく。

 失敗は許されないと焦る。

 時間が無いと心が騒ぐ。

 なのに――。


(不思議だ……焦燥は確かに心の中にあるのに、その焦る自分を客観的に観測する狩人としての自分が体を支配している)


 ギガントオークの呼吸を読み取れ。

 常に不規則に動いている獣はいない。

 決められた状況で決められた行動を行う。

 だから獣には無駄がなく、そして狩人はそれにつけ込む。


 ギガントオークの体の半分以上は周囲の家屋に隠れて見えないが、今のカルメはオークの頭の揺れ動きだけでどのような姿勢を取っているのかを読み取れる気がした。


(――見つけた)


 やがて、カルメは狙撃のタイミングを定める。発射してから着弾するまでの時間を換算して、頭が動いた瞬間に先読みするしかない。カルメは現在ではなく未来を射貫くのだ。


(僕は鷹。鷹眼のカルメ。僕の矢は未来へ飛び、すべからく敵を射止める)


 やがてカルメの思い描いた通りに矢は虚空に放たれた。

 ほんの僅かな時間の筈なのに、カルメにはその矢の軌道がゆっくりに思えた。

 やがて軌道を目で追ったカルメは、それ以上は確認する必要がないかのように視線をヴァルナたちの向かった方角に戻し、駆け出す。


 ――それから一秒後、瓦礫を投げる為に腕を振りかぶる瞬間、ギガントオークは姿勢を一瞬固定させた。それはギガントオークが投擲の瞬間に必ず行う動作だった。

 カルメの矢はその側頭部に命中し、貫通力ではなく衝撃によって巨大な怪物の脳髄を破壊した。


「ロザリーこれって、カルメ先輩の……!」

「他に出来る人がいませんわ! 凄い、本当に凄い! 最高の援護です!」


 何が起きたか分からない者が多い中、外対騎士団の人間だけは仲間の最高の援護に心からの感謝を送った。

新年明けましておめでとうございます。

今年こそオークをすべて始末する。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「僕も人間を辞めます! 先輩!」 って感じになってきましたね、カルメも。
[一言] あけましておめでとうございます。 最高の一撃を決めるカルメ、力強いあとがき、かっこいいです。
[一言] あけましておめでとうございます。 本年も無理ない更新をよろしくお願いします。 >今年こそオークをすべて始末する ひえ……。外対魂がこんなところに乗り移ってる……。
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