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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
最終章 ラストミッション

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478.勝利には犠牲が伴います

 王都の中にはシェパーが部下の為に用意したセーフハウスが幾つか点在する。そのうちの一つに滑り混んだアルディスは、慣れた手つきで救急箱を棚から取り出して自分の裂傷に処置を施す。

 処置と言っても大したものではなく、傷薬を裂傷に塗り込み、止血のために治癒師の使う札を傷口に張り付けて魔力を通すだけだ。アルディスは治癒の勉強まで手が回っていないので大した回復力はないが、既に裂傷の出血は治まっている。


 セーフハウス内の非常食を囓りながら、アルディスは物思いに耽る。


「面白い剣だった……」


 オルクスの繰り出した最終奥義は、やって防げない訳ではなさそうだったが、好奇心が勝ってアルディスは自ら斬られた。想像以上の威力で悶絶したのは確かだが、そもそもあそこに襲撃を仕掛けたのは騎士側が優勢だったから抑えるついでに強者と戦いたかったからだ。


「あれは構えや動きを置き去りにした剣。想いの刃」


 根拠はないが、アルディスは『八咫烏』を受けたときにそう感じた。

 剣を通して、女を守ろうとするオルクスの強い意志が伝わってきた。あの騎士は、女の為ならば自分は出来ると信じることによってアルディスを撤退に追い込むほどの傷を与えたのだ。対抗するには同じかそれ以上に強い意志と、伴った実力が必要だろう。


 アルディスは敵の剣を受けたときに感じた印象に絶対の自信を持っており、事実それは正しい。全知全能が戦いに特化した彼の暴力的なまでに純粋な感性は、人間には感じ取れない第六感的なものを帯びていた。

 よしんばそれが人では当てはまらないことであっても、アルディスには当てはまる。

 彼は彼にとっての正解を導き出す天才だった。


「あれを知れてよかった。もっと高みに登る糧となる」


 アルディスは想像する。

 あの奥義を打ち破る方法、或いは自分が会得する方法を。

 そのうちに眠気がにじり寄ってきたので、アルディスは寝ることにした。


 仮眠程度の睡眠だが、アルディスは新しくやりたいことがあるときは一度眠る。そうすると目覚めた時に気分が一新され、より純粋な気持ちで新たな課題にチャレンジできるからだと自分では考えている。傷を癒やすにしても丁度いいことだ。

 壁にもたれかかり、肩に剣を立てかけたアルディスは、自然とにやついていた。


「楽しいな。こんな楽しい日がずっと続けば良い……」


 眠るのを惜しむような声だったが、いざ目をつぶるとアルディスは面白いくらいにあっさりと眠りに就いた。そしてきっと、十数分後には傷を完治して目を覚ますだろう。




 ◇ ◆




 アルディスが手傷を負い、戦場から姿を消した。

 その事実は数分後には騎士団全体に伝達されていた。

 聖靴騎士団もたまには役に立つと揶揄う者、今がチャンスだと奮起する者、弱ったアルディスを今こそ追い詰めるべきだと主張する者――そしてアルディスの成長力を危ぶむ者。


 様々な思惑はあったが、騎士団は次第に『ニューワールド』のオーク部隊を退け始めていた。

 そんな中、ルガーはヒゲを指で弄って唸る。


「司令官が機能しはじめやがったな。やっこさん、損害が大きくなる前に撤退する部隊が増えてやがる。今頃王宮じゃ部隊再編と迎撃準備の真っ只中か……」


 押しているとは言うが、敵戦力の底はまだ見えていない。

 しかもここに至るまでに騎士団内に結構な損害が出ている。

 サマルネスを含む遊撃班の精鋭さえ何人も戦闘不能にされている現状、まだ状況が有利だとルガーは考えていない。


 だから押し返した今、ルガーは残存勢力にあるものを調達させ、地下に居座るオークを全てあぶり出す作戦を進めている。イセガミ家がこの状況を見越していたようにしこたま在庫を抱えており「サービス価格です」と納品契約を持ちかけられた時は流石のルガーも苦笑いした。

 ともかく、一時的とはいえ押し返した隙に一気に進めてシェパーの逃げ場をなくしたかった。


 ヴァルナ、シアリーズは既に解放されて大暴れしている。

 クロスベル、リーカなど実力者たちも未だ健在だ。

 クシューも動き出して聖靴も纏まりを取り戻しつつある。


 状況は好転している。

 だからこそ、いまが一番危険なときだ。

 『ニューワールド』を寝返ったシャンティからの情報で、まだハイブリッドヒューマンには七星に匹敵する実力者が混ざっているという話もある。アルディスの行方も分からなくなったのなら厄介だ。奇襲を仕掛けてこられれば致命的にもなりかねず、後方を守る為に誰かを呼び戻す必要もある。


「さあ、次は何を仕掛けてくるよ? 急がないとこっちも仕掛けちまうぜ?」


 恐らく、こんな勝負は己の人生において最初で最後。

 この一瞬、判断一つ、呼吸さえも充実している。

 ルガーは今、人生でもっとも騎士という職業を楽しんでいた。


「悪童のような面構え也」

「お、ンジャか。お前は楽しくないのかよ?」

「懐旧だ。鉄火場のにおいよ」


 次の指示を与えるために一度呼び戻したンジャは、すっかり健康体どころか活き活きしているようにも見える。昔取った杵柄というべきか、外対騎士団で最も血腥い戦いを知っているのは彼だろう。

 だが、ルガーはンジャの体がどうなっていたかを知っている。


「お前さん、持つのか?」

「持つ。良き邂逅があった……合縁奇縁、ヴァルナの氣の師範だ」

「エロ本師匠?」

「持っていたので間違いなかろう」


 幼いヴァルナに氣を教えたものの、途中で「エロ本を読みながらでも氣を乱さなければ究極の域に至れる」などと意味不明な供述を始めたために絶縁したという謎の男と、ンジャは療養先の温泉街で出会っていたらしい。


「で、一緒にエロ本読んだの?」

「いや、セネガの女湯覗きに挑戦していたため締め上げた。当人はこれも修行のためとか抜かしていたが」

「そんなのとの出会いが何で良き邂逅なんだよ!?」

「氣の達人というのは法螺ではなかった故、技術の伝授と引き換えに一度だけ見逃した也」


 曰く、普段自然に漏れ出す氣を肉体の一部で特殊な循環をさせることでため込む、言うならば氣のチャージをンジャは学んだらしい。今ンジャが使っている氣は事前に溜め込んだ氣であり、熟達して無駄を排したンジャの体技も相まってこれまででは考えられないほど肉体の負担を軽減して戦えるという。


「今日一日は問題ない」

「おいおいつまり騎士共にその技術を教えたら今まで以上に効率よく酷使出来るじゃねえか! 休日が仕事の物理的チャージ期間にもなるからもっと仕事増やしても働かせられるぜウキョーッキョッキョッキョ!!」

「奸智術数も大概にせよ。無から氣は出ぬ。して、何用だ? 暇なら帰るが」


 妖怪みたいな笑い声を上げるルガーに、ンジャは付き合うのが面倒になって先を急かした。




 ◇ ◆




 シェパーとしては、この手は使いたくなかった。

 余りにもオークを道具として使い過ぎていることが一つ。

 市街地の破壊や虐殺に繋がることが一つ。

 短い間しか生きられない儚い命にしてしまうのが一つの、計三つの理由だ。


 しかし、思わぬ反撃で五分以上に趨勢を押し戻された今、ただ部隊を再編成するだけでは足りない。多少の犠牲を払ってでも劇的な変化が必要だった。せめてこの手で敵の主要な戦力のうちいくつかは落としておきたかった。


 『狩り獣のダッバート』然り、『白毛皮のグンタ』然り、オークは巨大化することがある。特異な環境やストレスによる肉体の異常成長を人為的に起こす研究をしたことのあるシェパーは、最終的に一つの結論に達した。


 巨大化因子はオーク因子の影響力を上回ってしまう。

 兵器としては成り立つが、生物種として成り立たない。

 巨大化オークは、もうオークとは呼べない。


 だから、シェパーの信念と道徳としてはなるべく使いたくはなかったのだ。

 あくまで、なるべくの範囲で。


「お願いしますよ、ルーシャー」

「……」


 ルーシャーはシェパーから鞘に収まった剣を受け取る。

 それは、アルディスが持っている剣とまったく同じ造形に見えた。

 しかし、実際には一つ大きな違いがある。


 アルディスが今持っている剣は純粋に剣であるのに対し、ルーシャーの受け取った剣はそうではない。彼女が受け取ったそれは、緋色の石を刀剣の形に削り上げた生物実験用の干渉媒体の価値を持つ剣。


 絢爛武闘大会でアルディスが持っていた『緋想石』の剣だった。

 彼女が剣に魔力を籠めると緋色の光が渦巻く。


「『六連星むつらぼし』の覚醒のときです!!」


 ルーシャーの後ろで他のハイブリッドヒューマンに守られたノノカは見た。

 ルーシャーの剣から放たれた光によって、一際大柄で戦闘に参加していなかったオーク達が苦しみながら身を悶えさせ、その血肉や骨が肥大化していく様を。肥大化したオーク達の肉体を補強するように、戦いで負傷して使い物にならないオーク達が断末魔の悲鳴を上げて肥大化オークに取り込まれていく様を。


『ブギャアアアアア!?』

『タッ、タスケッ、イヤダァァァアアア!!』

『ル゛ージャー、ズデナ゛イデ……ィッ!?』


 ルーシャーの表情に変化はないが、ノノカはオークの悲鳴を聞く度に彼女の耳がその命乞いから逃れたいかのようにぴくぴくと動いているのを見逃さなかった。


 これは、ダメだ。

 ここまでいくと、もう好奇心とかそういう問題ではない。

 生け贄を捧げて悪魔を召喚する儀式をオークにすげ替えただけの、真の意味での生命への冒涜だ。


 ノノカは目の前の光景を見つめるシェパーに視線をやった。


「生み出した以上は責任を持って最後まで導きますよ、ギガントオークたち!」


 シェパーは覚悟を決めた目をしていた。

 この非常時に負傷したオークを抱えていても仕方ないし、自分が指示してやらせたことに自分で躊躇っても仕方ない。彼なりに責任を感じて、非情に徹して合理的に有効活用することを己の責務とすることで納得させているのだろう。

 残酷な所業を実行させられたルーシャーへのフォローが一切ないままに。


(あなたルーシャーちゃんの親なんじゃなかったっけ? 親ならもうちょい娘の気持ちを気にしなさいっての! あー、なんかイライラする!)


 この毒親にあの子をいつまでも任せていてはいけない、と、ノノカはシェパーとルーシャーを引き剥がす算段を立て始めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 駄目親父に見えて、きちんとトップとして認められてるルガーの雰囲気。 [気になる点] ・エロ本師匠だと…!? 他の師匠ズも番外に出たりする!? ・ノノカ先生のじゃがいもへの教育指導はいつ炸…
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