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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
最終章 ラストミッション

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476.二の舞になってはいけません

 議員庁舎の大臣室には今、二人の人間がいる。


 実質軟禁状態のノノカと、ハイブリッドヒューマンのルーシャーだ。


 現場との通信が途絶し、現状を憂いたシェパーはルーシャーに「ノノカ女史の護衛をしっかりお願いしますよ!」と念押しして大きな腹を揺らして部屋を出て行った。状況はノノカにも分からないが、ワイバーンが騎士を乗せて飛び回っていたところを見るにモリョーテ対策をした上での奇襲作戦だろう。


 ノノカを助けに来てくれないかな、とは思わない。

 今の状況でノノカ一人の居場所を特定することは叶わないだろうし、あまり意味もない。なので、ノノカは普通にルーシャーと会話していた。


「下着とはそんな意味があったのか。無理矢理つけられて鬱陶しいとしか思っていなかったが、人間には重要なのだな」

「恥ずかしいとかそういう気持ちないんですか?」

「わからないが、なくても困らない」

「へぇ……でも、もしかしたら第一次性徴がまだなのかも。アルディスくんを見ても何も感じません?」

「オーク混ざりの人間共はアルディスを避けている。わたしは気にしない。アルディスだけが真の意味での同胞だ」


 最初こそ口数の少なかったルーシャーだが、根気強く話しかけていると次第に口を開くようになり、ノノカに自分の分からないことを聞いたり個人的な感想を口にするようになっていた。

 

 ルーシャーは女の子だ。

 骨格から性器まで人とほぼ同じで、オークの要素はかなり少ない。

 ただ、戦闘能力に関しては見た目以上に強い筈だ。

 オークの強靭な肉体と生命力を、人のサイズまで凝縮したという印象で、一見柔らかそうに見える肢体も触ってみると筋肉の質がオークとも人とも違う。


 そんな彼女は見た目こそ成人が近い若者に見えるが、精神はかなり幼い。理知的ではあるが、人の言動の裏に隠されたものを思案したり、疑うという感覚がない。極めてピュアな心の持ち主だ。それが種族としての特徴なのか、それとも彼女の育った環境のせいなのかは分からない。


 最初こそノノカの語りかけに素っ気なかったルーシャーも、今やノノカの言葉を待っているのが分かるくらいには会話に前のめりだ。人と大きく違う感覚を持つ面もあるが、やはりこの子は人と呼んで差し支えない。


(……みんなハイブリッドヒューマンをどう扱ってるかな)


 オーク殺せオーク殺せと年中叫び回っている他称カルト騎士団の外対だが、ハイブリッドヒューマンも殺しているのだろうか。ヴァルナ辺りは殺さず捕えていると思いたいが、実際のところは分からない。


「ルーシャーちゃんはこの戦いで仲間が死ぬかも知れないって不安に思わない?」

「不安というのが分からない。それに、どちらにせよ我々には二つに一つしかない。我らの社会を築くか、淘汰されて死ぬかだ」

「共存の道は?」

「種としての共存は行われない。人は純血を好む。混血を好き好んで生み出そうとはしないし、再びわたしたちを作ることもないだろう。仮に混血が生まれたとて、それは我々ではなく人の理で育てられ、人と交わり、いつか我らの遺伝子は薄れていく。それは緩やかな淘汰、絶滅といえる」

「あなたがそう感じるの?」

「シェパーが言っていたが、矛盾はないと思う。ただ、わたしとアルディスは別にその未来を避けたいと思っている訳ではない。興味が薄いだけだ」


 達観しているのではない。真の意味でも同胞も、受け継ぐべきミームもない彼らは、種の存在意義がよく分からないのだろう。分からないものに夢中になれないだけだ。二つの道があるからとりあえず自分たちが有利になりそうな道を選んだという、それだけだ。

 ノノカは悶々とした。


(……勿体ないなぁ。勿体ないなぁ~~~~!!)


 シェパーの教えが間違っている訳ではないし、むしろ彼はそうした未熟さについてこれから彼らに学習して欲しかったのではないかと思える。しかし、結果としてシェパーが選んだのは存在を賭けた勝負だった。

 ノノカとしては、人間社会が破壊されるのは困るがせっかくこの世界に誕生した新たな種がどのような考えを抱き、どのような道を辿るのか気になって仕方ない。だって、このような瞬間は一生に一度あれば奇蹟くらいの出会いなのだ。


「……うん、決めた!」

「なにをだ」

「もしシェパーさんが計画に失敗したら、生き残ったハイブリッドヒューマンはこのオーク学の世界的権威、ノノカ・ノイシュタッテが保護します!」

「……??」

「異論あります?」

「…………」


 ルーシャーは考え込み、ノノカを見て、再び考え込んだ末に答える。


「わたしは別に構わないが、アルディスはその話に興味を持たないだろう。あいつは戦うことしか考えていない」

「既に自分の存在意義を定めているってこと?」

「いいや、戦い強くなるのが好きだからだそうだ。目の前の欲求を愚直に追い求めている。だからこそあいつは強い」


 部屋の窓から外を見たルーシャーは、遠くで戦う唯一の同胞に想いを馳せる。


「この戦いはきっと、人間の戦力が全て潰えるか、アルディスが潰えるかのどちらかでしか終わらない」


 ――同刻、アルディスが更に三つの騎士団の部隊を壊滅させる。

 その中には、外対騎士団の精鋭サマルネスが指揮する部隊も含まれていた。

 また、彼の回収したハイブリッドヒューマンが部隊を再編成して出撃。

 高位冒険者たちを中心とした遊撃係たちの奮戦を差し引いても、戦局は五分から動いていない。




 ◇ ◆




 クロスベルは困惑していた。

 かなりやる気満々で出撃してオーク部隊を無力化しようとした。

 しかし、現実はまったく逆で――。


「き、教官に剣を向けるだなんて……できましぇぇぇぇん!!」


 敵指揮官のハイブリッドヒューマンがギャン泣きして戦闘を拒否していた。

 他のオーク達も明らかに戦いたくなさそうな顔をしている。


 ――あのハイブリッドヒューマンの名はシャンディ。

 何を隠そう、減刑のための奉仕活動の中でクロスベルが指導したハイブリッドヒューマンの一人だ。才能はあるのに性格的に戦いに向いておらず、しかし他のハイブリッドヒューマンよりオークに好かれやすいという特性を持つがためにやたら訓練を任された相手でもある。


 クロスベルが印象を強く持っているのが自分を打ち負かした相手とこのシャンディであり、他のハイブリッドヒューマンが名前を教えてくれなかったのに対してシャンディは自ら名乗ってクロスベルに懐いていた。


「あー、シャンディ。戦えないなら降伏しても……」

「びええええええええ!!」

「どうしようこれ……どうする?」

『ブギッ……ナキヤムノ、マツシカ』


 思わずオークに話しかけてしまうが、冷静な返事が返ってきた。

 何を隠そうこのオーク達もメンタルよわよわシャンディに散々付き合わされた連中で、クロスベルは余りにも何度も接しすぎてオーク達の個体差が分かるようになってしまったくらいである。今話しかけているのは個人的にボズと呼んでいる個体で、他にはプンチやヤネマーなどがいる。


 今は戦闘中で、もし自分以外の誰かがこの部隊を発見すれば即座に壊滅させられるだろう。それくらいダメダメな状況だ。


 実の所、シャンディは今までメンタルの弱さから壮絶なダメダメ人生を送ってきたらしく、クロスベルの根気強い指導で「教官のおかげでやっと自信を持てます!」と嬉しそうに――そのときも顔は隠していたが――笑っていたくらいだ。

 そんな彼女が自信を持って最初に戦うことになった相手がクロスベルというのは悲劇にも程があるのではないだろうか。この上別の誰かに目の前でオークの部下を全滅させられたら彼女はトラウマを抱えて二度と立ち上がれなくなりそうである。


 クロスベルは考え、思う。

 これは自分が助けてやるしかないのではないかと。

 彼は泣きじゃくるシャンディを胸に抱きしめ、優しく頭を撫でる。


「シャンディ、辛いね。怖いよね」

「ふえぇぇ、う゛ぅ、う゛ぅっ!」


 必死に頷くシャンディの耳元で、クロスベルは囁く。


「大丈夫、俺が守るよ。ずっとずっと、どんな敵が来たって君のこと守り通してみせる。だから泣き止んで、俺の顔を見て笑ってくれ」

「き……教官~~~~~ッ!!」


 シャンディは感涙にむせびながらクロスベルの胸に顔を埋め、やがて涙と鼻水でびしゃびしゃになった顔でクロスベルに緩みきった笑みを浮かべた。


「さあ、行動開始だ! ええと、君ら全員降伏した扱いにするから、そこの雑貨屋にあるリボンでも目立つところに結んで目印にしよう! 騎士団の皆様方には俺から説明するから単独行動は控えるように! シャンディはえーと……計画の情報を教えてくれない?」

「教官のためならば、このシャンディ!! 浮き輪より軽い口で機密を喋ります!! えへ、えへへ……!」


 クロスベルの腕を抱いて胸を押しつけながら、上目遣いに蕩けた目で見上げてくるシャンディ。オークっぽい特徴のある体ではあるが――。


「うん、どう見ても可愛い女の子だ」

「はうぅっ!! き、教官……一生ついてゆきます!!」


 周囲のオークは、理由はよく分からないが「堕ちたな」と思った。


 ――オーク部隊、一つ離反。

 これにより、ハイブリッドヒューマンの中でも特に注意が必要な部隊や戦力の詳細情報が十数分後に騎士団司令部に届けられることとなる。しかしこの間にオーク部隊と交戦していた騎士団部隊のうち一つが音信途絶、一つが撤退に追い込まれる。




 そしてある部隊がいま、解放されたヴァルナの元へと向かっていた。


「王国筆頭騎士様は人質に弱い!! 簡単な勝利方法だ!!」


 そこには、複数の無力化された騎士団員をロープで拘束したオーク部隊。

 人質の数は二〇にも昇り、中には骨をやられて吐血している者までいる。

 拘束されているのは、最初に音信が途絶した外対騎士団遊撃班のメンバーだった。


「ヴァルナ……逃げろ……このままだと、二の舞に……」


 彼らは知っている。

 ヴァルナは何があろうが決して味方を見捨てることはできないと。

 だからこそ、危ういということを。

もう一回遊べるドン!

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― 新着の感想 ―
[良い点] クロスベルはやっぱりクロスベルなんだなって [一言] ヴァルナ激昂フラグが立ちました
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