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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
最終章 ラストミッション

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470.やられたらやり返します

 シェパーとノノカの語らいは、今も続いていた。


「――ですからオークの因子をちょっとずつ特定部位に染みこませたんです。急速に染みこませると患者が死んでしまいますから。まだ初期段階ですが、結果は良好ですよ」

「患者が死ぬというのは拒絶反応でしょうか。強制変異でも起こるんですねぇ」

「起こりますね。特にオークを人にしようとすると激しくて。人をオークにする場合は逆ほどの影響はないのですが……宗国で実験済みです」

「オークが元来持っている魔力などが干渉している可能性はありますねぇ」

「成程。では先天的に魔力適正を持つ種族はオーク化に適さない可能性があるのか。この騒ぎが終わったらしっかりめに調べたい所ですねぇ」


 研究成果をひけらかすように人体実験の結果を語るシェパーに、ノノカは自分の思ったことを返す。人の命を何だと思っているのか、などという台詞を吐かないのは、倫理の問題がなければ人体実験は手っ取り早い手段であると理解しているのと、今更責めたところで死んだ人の命は返ってこないからだ。

 

(それはそれとして、この人ハイブリッドヒューマンが新人類として発展すれば犠牲と帳尻は合うって考えてそうだなー。ま、ノノカちゃんはあくまで学者なので裁きだなんだは別の人にお任せするだけですケド)


 色々と話しているうちにシェパーがノノカに何を求めているのかは分かった。

 これからオーク及びハイブリッドヒューマンの社会を築くに当たって、オークやハイブリッドヒューマン特有の問題が発生する可能性がある。彼はそうした問題を調べて解決方法を提示して貰う為にノノカを確保したのだろう。


 生物が絶滅する要因には、種族的特徴が招くものが多くある。

 しかし、世界で恐らく唯一のオーク研究の権威であるノノカがいれば、問題解決までの速度はずっと速まるだろう。また、人間の視点からオークを観測して客観的な事実を導き出すことも求められている。


 シェパーは他の誰をハイブリッドヒューマンにしても、ノノカだけは生身の人間のまま置いておくつもりだ。それがノノカの考えにも沿っていると考えているし、事実、そうでなくてはノノカ自身が研究の客観性を保てないだろう。

 彼は人の求めるものをよく理解している。

 その上で、叶えられるものは叶え、都合の悪いものは悪いとは思いつつあっさり切り捨てている。


 既に事件発生から一時間近くが経過している。

 放送が正しければ今頃外対騎士団は騎道車のタイヤを取り外し中だろう。

 仲間達はきっとノノカの助言を欲しがっているだろう。

 騎士団の中でも特にオークに詳しい方のヴァルナもいない。

 しかし、ノノカは別に不安には思っていない。


 外対騎士団は何事にも負けずに自分たちの道を突き進んできた。

 突き進むために何が必要なのかも、ずっと考えてきた。


「そろそろですかねぇ」

「おや、何がですか?」

「騎士団が反撃に移るとしたら、そろそろだと思うんですよ。あの人達なんというか、バラエティ豊富ですから」


ノノカが笑うのと、通信機からけたたましい大音量が響き渡ったのはほぼ同時だった。


『הלל כבוד פולחן !הלל כבוד פולחן! הלל כבוד פולחן!』


 何も知らない人間からは出鱈目な雑音がばら撒かれているように聞こえるだろう。しかし、それがナーガの言語であることにノノカは気付く。ルーシャーは耳障りそうに耳を押さえ――ポーズが可愛い――シェパーは慌てて通信機に駆け寄る。


「何事ですか!? 応答なさい!!」

『הלל כבוד פולחן !הלל כבוד פולחן! הלל כבוד פולחן!』

「……人質を殺しなさい!!」

『הלל כבוד פולחן !הלל כבוד פולחן! הלל כבוד פולחן!』

「どうなってるんだ……」


 シェパーは機械を弄って送信先を次々に変えるが、どこに変えても通信機はひたすらナーガの大声を発し続ける。呆然とするシェパーは暫くしてはっと息を呑む。


「王立魔法研究院にナーガ達の姿はなかった……この通信機はナーガの技術協力で作ったもの! まさか、あの平和ぼけした彼らが有事に備えて仕込みをしていたのか!?」


 発想の次元の違いが露呈し、シェパーは己の迂闊さに歯がみする。

 通信機を糸のない糸電話のように単純に考えていた。そこでの会話に別の何かが介在するなど想像すらせず、そのような仕掛けが可能であること自体も知らなかった。なにせこの機械の基本構造はナーガの魔法道具技術で賄われているし、人の知恵はそこに追いついていない。

 警戒心の薄いナーガにこっそり嘘の説明をして通信機を多く納品させたことで上手く行ったと安堵し、警戒を怠った。


「これでは人質の意味が……いや! 指揮官たちには私に何かあったら独自に判断して行動するように命令してある! 早まったな、外対騎士団の皆さん……!!」

「それはそうとシェパーさん、その機械は止められるなら早く止めた方がいいですよ」

「え――?」


 シェパーが振り返ると、そこには苦悶の表情でしゃがみこむルーシャーとそれを介抱するノノカの姿があった。ルーシャーは耳を押さえて何度も首を横に振っている。


「気分が……悪い。耳の奥の奥を引っ掻かれるようだ……う……うるさい……!!」


 訓練も受けて忍耐強い筈のルーシャーが脂汗を浮かべて震える様に、シェパーは青ざめた。ノノカはそんな彼女を落ち着かせるよう背を撫でながら冷静に症状を分析する。


「病気ではなさそうです。どうやら通信の音に人間の耳には聞こえない特殊な高音が混ざっているようです。オークの鋭敏な耳にはさぞ辛いと思いますよ。異様な音が聞こえ続ける環境ではどんな生物も心身に異常を来しますし……」

「ぬぐ……ええい!!」

 

 シェパーは電源を落とすが、それでも音は止まらない。

 やむを得ない、と、シェパーは窓を開けて外に通信機を投げ落とした。

 ルーシャーはやっと耳から手を離すが、ぐったりして息を荒くしている。


 その様子にほっとするシェパーだったが、ふと窓の外に大きな鳥の影が見えた気がして外を覗き――絶句する。


「なん、だ、あれは……何故ワイバーンが王都を飛んでいる!? モリョーテをあちこちで焚いて、まともに飛べない筈なのに!? み、見張りは!? 見張りには万一敵が攻撃してくる動きがあれば信号弾を放つよう指示していた筈なのに……!!?」


 数にして十八騎。

 王国が誇るテイムドワイバーン部隊が、不思議な風に身を包まれたまま陣形とも呼べない塊となって王都の空を悠々と飛んでいた。




 ◆ ◇




 外対騎士団長ルガーはひげを撫でながらにぃ、と悪辣な笑みを浮かべる。


「作戦第一ぬるっとクリア。第二段階の効果や如何に、ってなもんよ」


 作戦の第一段階とは、騎士団を見張るオークの排除だ。

 王都を制圧するために兵士を割いたために見張りの数は控えめだったが、それでも屋根の上に等間隔で十二体のオークが見張っていた。外対騎士団たちが動けばすぐに分かるし、もし見張りの誰かが倒れれば即座に異常を察知できる実に効率的な陣形だった。


 ルガーは作戦の第一段階として、この見張り兵の無力化を指示した。


 実行したのは王宮メイド隊、ンジャ、セネガ、そして――。


「ナギに付き合って王国に来てみれば、まさか『蛇咬じゃこうのンジャ』をこの目で見る機会を得られるとはな……ふふ、人生とは面白きものよ」


 音もなく地面に突っ伏して血を流すオークを足蹴に、男は呟く。

 ンジャと皮膚の色や顔の彫りがどことなく似ているその男の名は、サヴァー。

 コロセウム・クルーズでは『刀剣殺し』の異名を持ち、ヴァルナとも相対したディジャーヤの戦士だ。

 彼はクルーズでヴァルナに敗北しただけでなく謎の襲撃者にも一度は不覚を取り、更には再戦時に逃げられてしまうという失態を犯したことで己を鍛え直す為に武者修行をしていたのだ。


 その最中に同じく武者修行をする槍使いのナギと出会い、意気投合した二人は世界サミットの話を聞いて息抜きに旅行に来ていた。それがこの騒ぎになり、王都内に留まるのは面倒だと解放された人質百名に混ざってこっそり王都を脱出し、そこでサヴァーはセドナと、ナギは兄のガーモンと再会した。


 セドナには、絢爛武闘大会の際に敵の動きを先読みしてサヴァーに再戦の機会をくれた恩がある。そして、その時に取り逃がした犯人がテロ集団『ニューワールド』にいる可能性が高いと聞いたとき、彼は外対騎士団に一時的に雇われることを決めた。

 ンジャに気付いたのはその後の話だ。


 サヴァーはンジャの暗殺の始終を見ていた。

 まるで影の中から這い出てくるように完璧に気配を殺したンジャが見張りのオークの口を塞ぐと同時に喉を最小限の動きで掻き斬り、そして急所を数か所刺して一瞬で即死させる様は、一切の無駄を排した美しささえ感じるものだった。


「第一段階で見張りを潰し、第二段階で敵の通信手段を断ちつつ耳を使い物にならなくする。首都を奪われたとはいえ、なかなかえげつない真似をするものよ」


 ――第二段階は、敵が独占した筈の通信機を逆手に取った作戦だった。


 通信機の開発を主導した建築長ドゥジャイナは、己の偉業を誇るように胸を張る。


「開発者の私だからこそ!! 通信機の操作権を奪取するという発想が湧いてきたのだ!!」

「それも大きかったけど、今回ばかりは……」

「ああ、ベビオンの手柄だな」

「へへっ、俺も伊達にノノカさんのお手伝いしてた訳じゃないんだぜ!! ノノカ様ぁ、貴方の弟子は今、どっかの人質に取られた騎士と違って大・活・躍・してますよぉぉぉぉーーーーー!!」


 ガッツポーズを振り上げて叫ぶベビオンに、周囲も今回ばかりは褒められてもいいだろうと素直に称賛する。


 当初、通信機をジャックして町内放送でオークも耐え難いほどの爆音を流す方向で作戦が進んでいた。通信機や放送設備には元々ドゥジャイナが自分を賛美するための歌が流れるという――なにげに録音と再生、そしてループという革新的な機能だ――自己満足のためだけの機能が搭載されていたのでそれを利用しようという話になったのだ。


 そこでアイデアを追加したのはベビオンである。


『オークの耳にしか聞こえない特殊な高音ってのがあるんですけど、それも纏めて流せませんかね? オークにとっては耳にキーンと響くような高音なので、大音量で流したら相当苦しい筈ですよ!』


 騎士団内ではノノカに献身的に仕えてきたベビオンと、あとはヴァルナくらいしか出せなかったアイデアだろう。しかもベビオンはノノカが手製で作ったオークの嫌がる高音が、学会ではモスキート音と呼ばれる音と同じであることも記憶していた。


 ドゥジャイナはモスキート音をすぐに装置で再現し、賛美の歌と共に垂れ流した。

 ファミリヤが騎士団の元に舞い戻ってルガーに状況を伝える。


『コウカゼツダイ!! コウカゼツダイ!! 人質ヲ手放シテ両手デ耳ヲ押サエテンゼー!!』

「おっしゃ、狙い通り!! あとは第三段階が成功するか……野郎共!! ファミリヤの先導で出発だ!! ワイバーン部隊、騎士ネメシアとミラマール機を先頭に一斉浮上!! 王都の中心部まで一気に突っ込めぇぇぇッ!!!」


 作戦第二段階の成功と同時に第三段階は間髪入れず始まった。

 敵の目と耳を塞いだのなら、やることは一つ。

 オーク達の速やかな鎮圧、そして王宮の奪還だ。


「モリョーテは確かにワイバーン部隊の致命的な弱点だが……過信が過ぎたなシェパーよぉ!! せいぜい目ん玉ひん剥いておったまげなぁ!!」


 シェパーはここでも一つ見落としをしていた。

 ラードン丘陵でのモリョーテ騒ぎは、シェパーが実際にワイバーンにモリョーテを使うとどうなるかを確認するための実験の一環として行われた。しかし、結果が出ればラッキー程度の気持ちで行った実験だったため、実験結果をしっかりと目で確認した人間がいなかった。


 あの事件は、聖天騎士団の不祥事である。

 故にこそ、火消しのためにややグレーな対応もあった。

 ワイバーンにモリョーテという致命的な弱点があるなどという話が世間に広まれば国防上の問題があると判断した聖天騎士団は事件の詳細を記録せず、大雑把な概要だけを報告した。言葉を選ばず言えば隠蔽で、騎士団内でも当事者たる外対と特殊戦術騎士団以外には情報を漏らさなかった。


 聖天騎士団は他の聖騎士団とは毛色が違うため、聖靴派に仲間意識はないし、自分たちの優位性を自ら捨てる真似はしない。かといって隠蔽して見なかったことにもしない。

 彼らは、この事件の詳細な情報が丁度シェパーのような悪意ある人間の耳に漏れることを恐れ、情報封鎖を行っていたのだ。事実、外対騎士団のあの事件に関わった人間にも箝口令が敷かれている。これは聖天トップと外対トップの秘密裏の交渉によるものだ。


 結果だけ見れば、シェパーは騒ぎの概要に目を通して「やはりワイバーンにモリョーテは有効だ」という認識は持ったものの、モリョーテで暴れたワイバーンを鎮圧した方法が曖昧なことは「ヴァルナが不思議な活躍でどうにかしたのだろう」程度にしか考えなかった。

 奇しくも、皆から非常識と言われるヴァルナが隠れ蓑として機能したのは本人が聞けば微妙な顔をするだろう。

 つまる所――。


「騎士ネメシア、準備いいな! お前とミラマールは先導役だ! 第三段階が終わったらそのまま第四段階に移行しろ!!」

「了解!! さあ行くわよミラマール!! 聖天騎士団がモリョーテに何の対策も立ててないと思い上がった犯人たちに、私たちコンビを悪辣な実験で引き剥がそうとした報いも纏めて叩き付けてやるわよッ!!」

『グルルル……グオオオオオオオオッ!!』


 ネメシアの相棒ミラマールが主に呼応して反撃の雄叫びを上げる。

 ここからは、聖天騎士団による逆襲の時間である。

正直なだけじゃ守れないものがあるから。

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― 新着の感想 ―
[一言] なん…だとっ…。 まさかナルシストとロリコンが役に立つ立つ日が来るとは…。 無駄などない、全ては使い方次第…という訳か…。 作者がこちらの要望に応えてきたか…やるじゃないか!! じゃがいも…
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