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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
最終章 ラストミッション

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460.浮かび上がります

 王国の国を挙げた盛大な歓迎を、各国首脳陣は堪能していた。


 整った装備で整然と並ぶ騎士達。

 天高く鳴り響く楽器部隊の大演奏。

 空に上がる花火、整った町並み、歓迎の旗を振る民たち。

 押し寄せる歓迎の声に包まれ、招かれたる客人達は威風堂々と歩みを進める。


 皇王イメケンティノス二十四世。

 宗王ゴウライェンブ。

 他にも名だたる国の王、元首、代表たち。


 無論、彼らも世界的な会議に赴くに当たって最高の護衛を引き連れる。

 その中には『竜殺し』マルトスクや『鬼の一族』バジョウなど、絢爛武闘大会で名を馳せた実力者の顔も見受けられる。

 絢爛武闘大会以降、国内では海外の武人に対する関心が高まっており、国民の一部はそうそうたる顔ぶれに唾を飲む。


 誰もが彼らの事を主役だと思うだろう。

 しかし、歩みを進める彼らを歓迎するように整列する王国の精鋭騎士達の中に、その存在感を食らいかねない尋常ならざる存在が混ざっていることに、多くの人は気付いていた。


 一人は、藍色の美しい長髪をたなびかせる少女――『藍晶戦姫カイヤナイト』シアリーズ。


 あの自由を愛する伝説の冒険者がまさか王国騎士団にその名を連ねているとは、と、多くの来訪者は驚愕した。殆どの国がシアリーズの動向を掴んでいなかったし、彼女や王国もこれまで喧伝してこなかったからだ。


 数々の危険な魔物を討伐し、勇者一行の一人に数えられる世界最強の女剣士を擁している――その一点の事実をして、既に王国という国が曲者であることを知らしめている。


 そして、もう一人。


 王国筆頭騎士、『剣皇』。

 或いは『三代武闘王サードオデッセイ』。

 幾人かの王はその桁外れの実力を目撃したことさえある、世界最強の騎士。


(あれが王国の鬼札、騎士ヴァルナ……!)

(『二代武闘王セカンドオデッセイ』も『竜殺し』も下した……!)

(なんという若さ。なんという、一分の隙も生じ得ない堂々たる立ち姿よ!)


 そこには欠片の緊張もないが、さりとて何一つ侮りもない。

 ただあるがままにそこにいる、余りにも静かな佇まい。

 もしもこれが演劇であるならば、彼は完全に主役を食って周囲の全ての視線を奪い取ってしまうであろう、それほどの存在感であった。


 万が一敵になれば恐ろしいが、今回ばかりは騎士ヴァルナは全面的に各国首脳陣の味方をする。シアリーズと肩を並べるとあらば、たとえドラゴンが王都を襲撃しても彼らは打倒するだろう。


 花火が止んだ後、来訪を祝福するように聖天騎士団の竜騎兵部隊による一矢乱れぬ編隊飛行が行われ、普段ワイバーンを見慣れない市民から歓声が上がり、各国首脳陣も見惚れるような見世物に関心していた。


 地上は騎士で厳重に封鎖し、空はワイバーンによる警備。

 これではどのような不埒な輩も王都内に攻め込めない。

 皆、此度の世界サミットは史上最も警備が厳重で安全なものになると確信した。




 ◆ ◇




 セドナが予測した、ヒュベリオの読み取った事実とは何か。


 彼は実に多くの記録を調べていたようで、当てずっぽうや虱潰しでその調べ物を読み取ることは出来ない。なのでセドナはヒュベリオなら何を考えるかを脳内でトレースした。


 別段の付き合いがあった相手ではないが、彼は機転は利くが物事をこつこつ進めるタイプであるため飛躍した論理で調べ物はしないだろう。ヴァルナに頼まれたとはいえ最優先で根こそぎ資料を調べるほど熱心な繋がりもない以上、初歩的な情報を調べた筈だ。


 国内の人間の海外への渡航記録や外交記録。

 国内オークの出没地点とそれに関連する可能性のある組織や人物の調査。

 セドナはこの二つに予測を絞って資料を読み解いた。


 断崖の町クリフィア、寒村イスバーグ、クーレタリア近辺、シャルメシア湿地、バノプス砂漠……それら王国から見れば僻地と呼べる場所に赴く用事のある人間は多くない。その中で相応の資金力がある人間となると数は限られる。


 そこから更に皇国と繋がりが密であり、宗国にも外交に赴いたことのある人間を絞っていくと、一人の人間が浮かび上がった。


 セドナは荒れる呼吸をすぐに整え、一度深呼吸すると懐に隠したナイフを一度意識し、改めて目当ての部屋を見る。


 そこは王国議員宿舎の一室だ。

 ここに、一人の議員がいる筈である。


 世界サミットは大臣クラスでも参加出来ないほど秘匿性が高く、こんなパレードの中でも議員や大臣の中には暇をしている者も多い。がらんとした宿舎内で周囲を素早く確認したセドナは、ドアの覗き穴を避けるようにドアに耳を当てる。中からは数名の話し声と、ワイングラスのぶつかる音がした。

 氣で探れば中に三人いる。

 ドアの隙間から微かにワインと食べ物の匂いが漏れている。

 どうやらささやかな宴会に興じているようだ。


(気配からしてあのひとは……ここには恐らく……でも、それは逆を言えば……)


 自分のやることには意味がないかもしれない。

 そんな思考が脳裏を過る。


 いつだったか、任務には成功したのに騎士団が市民に酷く罵られたことがある。

 こんな事件が起きる前に未然に防いで民を守るのが騎士じゃないのか、と。

 現実にはあらゆる事件を未然に予測して害から完璧に民を守れるほど聖盾騎士団の盾は軽くも広くもない。否、騎士でなくともそのようなことは絶対に不可能だ。

 罵ってきた市民の言い分は八つ当たりでしかない。

 それでもセドナには彼を納得させる言葉が思い浮かばなかった。

 印象的で、今も忘れられない記憶だ。


 理想と現実にはいつもギャップがある。

 ヴァルナも散々ぼやいていたものだ。

 実現出来ないならばと理想を投げ出して現実的で中庸な選択を続けていれば、楽かも知れない。しかしそれでは進歩がないし、物事の本質に近づけない。そして、真実とは見出すだけでなくそこに生じることもあると彼女は思う。


(踏み出す一歩に言い訳はいらない。無駄だったかどうかは後の私が判断すればいい。そうでしょ? セドナ・スクーディア)


 セドナはドアを丁寧にノックする。


「ウェッソル議員、聖盾騎士団の者です。大至急確認したいことがございます」


 ドンロウ道場総本山に踏み込んだとき以上の緊張感を内に秘めて。




 ◇ ◆




 所変わって、王都の外れに存在する馬車の中継地。

 そこに衰弱した男が一人、運び込まれていた。


 治癒師であり医者でもあるジュドーは彼の容態をてきぱきと見る。

 騎士ロックはその異様な光景に珍しく気圧されながら、ジュドーに彼――ヒュベリオの容態を確認する。


「どうだい、おに……お嬢さん。容態は?」

「打撲痕は別として、多分骨にヒビが入ってる。あとは単純に衰弱してるわ。骨はなんとか出来るとして、問題は当人の体力ね。かなりの空腹状態に脱水症状。下手に動かさずここで回復を待つ方が無難ね。点滴が欲しい所だけど……」

「ジュドーさん、持ってきました!」

「アラ、いいタイミング!」


 リーカが瓶を抱えて店から出てくる。

 一瞬どこの銘柄の酒瓶か見極めようとしたロックは、それが見覚えのある銘柄であることに気付く。正確にはあれは酒ではなく、ロックも飲んだことがあるものだ。


経口補水液オアシスじゃん。そうか、金策班が商品化するとか言ってたっけ……」


 生理食塩水を飲みやすいよう砂糖と果汁で味付けしたその飲み物は、元はヴァルナが医療班のフィーレスに思いつきで「塩分と水分を同時摂取したいなら生理食塩水でも飲ませればいいのでは?」と言ったのをきっかけに開発された画期的な飲料だ。

 乾きを潤すイメージからオアシスという商品名がつけられたと聞いていたが、ジュドーはこれをリーカに探させていたようだ。


「誰が考えたのか知らないけど、理に適った飲み物よね。ほら、飲みなさい。ゆっくり、そう、最初は舌を潤す程度で……」


 ジュドーがもりもりの上腕二頭筋からは想像もつかない繊細な手つきで少しずつヒュベリオに水分を与えていくと、水分と塩分を求める彼の喉が微かに動いてオアシス飲みだす。

 暫くすると、ヒュベリオの目がゆっくりと開く。

 寝ぼけているのか、単純に意識がもうろうとしているのか、彼はただ与えられるがままに水分をちびちびと飲み込んでいたが、ふと視線がヤガラの方に向くと身体を痙攣させる。

 否、弱った肉体を必死に動かしてヤガラの手を掴もうとしている。 

 ヤガラは一瞬ものすごく嫌そうな顔をしたが、ロックが脇腹を突くと渋々彼の震える手を握る。


「王宮記録官ヤガラです。意識はありますか? 貴方は意識を失って倒れているところを発見され、現在治療中――」

「……じ、……ん」

「うん?」


 瞬間、ヒュベリオは弱った身体とは思えない力でヤガラを引き寄せ、掠れる喉を酷使して必死に訴えかけてくる。


「……ぅえ……そる……ぎい、ん」


 それが限界だったのか、ヒュベリオは力尽きたように手を離してぐったりと脱力した。まだ辛うじて意識はあるようだが、もう今度こそ喋る余力はなさそうだ。


 ヤガラは手放された手を何かを振り払うように軽くぶんぶん振りながら、顔を顰める。


「えそるぎいん……ウェッソル議員のことですかね?」

「ウェッソル? スミス・ウェッソル工業大臣か?」

「聞き間違いでなければですが。他にウェッソルといった名前の議員はいない筈ですよ」


 スミス・ウェッソル。

 議員の中では比較的若手の方で、世襲ではない貴重な現場叩き上げ議員の一人だ。

 大臣の中ではどちらかと言うと色々押しつけられて損な役回りという印象がある。


 ちなみに品種改良オークについての報告のためにノノカの助手として議会に赴いたことがあるヴァルナには、顔の形が野菜のカブっぽかったからという理由で『カブ議員』の渾名をつけられている。

 当人曰く、同僚であり農産大臣のシェパー・ウォルゼーボと何かと小声で話をしている姿が印象的だったという。そして、多分シェパーに昔から大分迷惑かけられてるだろうとも独断と偏見で語っていたが、それはさておく。


「スミス工業大臣って言やぁ王国内のインフラを整えるために忙しくて方々飛び回ってる人だよな」

「概ねその通りです。聖靴派閥ではありませんが、王国各地を道路で繋いで人流や物流を加速させるという彼の一大計画は議会内でも重要視されていますねぇ」

「……待てよ」


 王国各地を道路で繋ぐのは重要なことだが、各地を道路で繋ぐためにはどこにどう道路を敷くか計画を建てるために全国各地を測量して回る必要があるし、道路の行き先の町村の代表や地主との交渉もあるため、ほぼ王国中に移動する筈だ。

 当然、それらのためには多くの物資を運ぶし、あちこちの施設の世話になる。

 荷物の中に不要な筈の品が入っていても、一見すると分からないだろう。


「例えば、これは例えばの話だけど……全国を飛び回る大臣がもしもオークを運搬してたとしたら? スミス議員なら道路整備の技術提携や技術交流のためにしょっちゅう海外に行くから、海外にも伝手はあるよな? 大臣クラスとなると検閲もスルーできるし」


 ふと閃いたその予想に、ヤガラは目を見開く。


「……馬鹿な」

「じゃあ何故こいつは襲われたんだ? 何故力を振り絞って口にしたのがスミス・ウェッソル議員なんだ? こいつ行方不明直前になるまで調べ物してたんだろ? スミス・ウェッソルには何かあるんじゃないのか?」

「いや、しかし……そんな肝の据わった男には見えない。野心があるようにも……」


 ヤガラがしどろもどろに反論するが、その声は弱い。

 ありえないとまでは言い切らない辺り、考えたこともないから肯定も否定も確証がないのだろう。ロックも同じく何の確証もないが、スミスならばオークの国内持ち込みも王国各地に不審がられないようオークを解き放つことも出来る。


 可不可で言えば、可だ。

 それも、他よりもかなり色濃く。

 仮に主犯でなかったとしても、共犯の可能性はある。


「……団長に知らせないと。大至急でッ! 奴さんがなにを計画してるのかは知らんが、今なら打てる手があるかもしれん!」

(……貴方もそんな顔が出来るのですねぇ、騎士ロック)


 そこにいるのはいつもの酔っ払いのロックではなく、ヤガラが初めて見る騎士然とした使命を帯びたロックがいた。

※105話参照。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カ、カブ議員…!悪いやつじゃないって、信じていたのに!!
[良い点] 国際かつ公式な場でヴァルナとシアリーズが並んでるところ。 私は三人とも好きです。 他作品はともかく、この作品には誰かを選ばないのはあって欲しくない。 もしくはもうちょっと先の話的に作品中で…
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