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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
第二十章 誰が為に拳を握るか

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416.昔はやんちゃしてました

 宗国観光は皇国観光とは事情が異なる。

 というのも、宗国はどこを見ても目を引くものばかりなのだ。

 民族衣装や建築物に目を取られがちだが、王国にない装いや建築物の色彩も興味深い。


 歓待中も鮮やかな衣装で剣や槍の舞いを披露したり、龍舞という作り物の龍を沢山の人間が動かして踊らせる出し物が行われた。この龍はいわゆるドラゴンとは似て非なるものらしいが、一説には大干ばつに襲われた際にこの地方特有のドラゴンが雨を降らせて以来、龍は縁起の良いもの扱いらしい。

 そんな歓待を思い出したのか、セドナが疑問を呈する。


「魔物が雨を降らせるなんてことあるのかなぁ?」 

「湿気が好きで寄ってきたらたまたま雨降らせてるように見えただけじゃないのか?」


 俺はセドナの疑問に憶測を口にする。

 個人的には、一匹で天候を左右するほどの魔物が居て欲しくない思いもある。もしそんなことが可能なら、それは神とも悪魔とも呼べる存在だ。そんな魔物に万一空を飛んで王国にお引っ越しでもされたら大変だ。

 他愛のない会話をする俺とセドナの横で、アストラエは周囲の風景を眺め、メンケントは地図とにらめっこしている。


 今、俺たちは町の離れにある道場へ向かっていた。

 曰く、そこはドンロウ道場と双璧を為すほどの大きな道場で、今もドンロウ一派に屈していないのだという。将来的に争う可能性のあるドンロウ一派の対抗勢力ともなれば、何かしらの貴重な情報を得られるかも知れない。


 ひとしきり景色を楽しんだアストラエが感嘆したように唸る。


「この辺りの雰囲気的は少しクーレタリアに似ているが、こんな石柱が大量に聳え立つ地形はここでないと見られないだろうな」


 アストラエの言う通り、俺たちの視線の先にはいったいどうやって自然形成されたのか見当も付かない数十メートル級の石柱が大量に立ち並んでいる。正確には岩の柱とでも形容すべきもので、雨風で削られながらも細長い形状を保ったそれは、人の手で作ることは決して出来ない規模だ。


 近くを流れる川に沿って緩やかな傾斜を登っていくと、切り立った崖や滝のある場所に出る。件の道場はそこにあった。

 アストラエがしげしげと道場に掲げられた看板を見る。


「あれじゃないかな? レイフウ道場」

「え……っと。廃墟?」

「セドナ、第一印象をはっきり言い過ぎだぞ」


 そこにあったのは、町で見かけたドンロウ一派の道場の一つより大きくはあるが、それ以外の全てで負けているのではないかというほどくたびれた建物だった。看板だけはなんとか清潔さを保っている辺りに道場としての意地を感じるが、セドナの言う通り何も知らない人が見れば入り口の門だけで廃墟だと思うかもしれない。

 メンケントが納得の表情を浮かべる。


「おかしいと思ったんですよ。ドンロウ一派の総本山から遠くない場所に彼らと反目する道場が堂々とあるなんて。双璧を為していたのも今は昔、実際の所は相手にされてないんじゃないですか?」


 俺もそんな気がしてきたが、物語ではこういう道場には凄い師範がいるのがお約束。それに看板が綺麗だということは一応人はいる筈だ。皆を代表して俺が門をたたく。


「たのもーーー!!」


 直後――俺、アストラエ、メンケントめがけて物陰から人影が襲来した。


 アストラエは咄嗟に迎撃しようとするが、重心を乗せた重い動きで手を弾かれて強引に組み伏せられる。


「ぐあッ!」

「くっ、王子! おのれこいつら……!?」


 メンケントは即座にアストラエを庇おうとするが、飛び出した者の一人に一瞬で組み付かれる。相手はそのままメンケントを締め落とせる体勢に入っていた。


 ここまで気配を悟れなかったことと、二人があっさり鎮圧されたこと。

 両方が、相手が只者ではないことを物語っている。

 そして俺はというと。


「ゴブボォッ!!」

「あ」


 間抜けな声を漏らしたのは俺。

 喉から出ちゃいけない感じの悲鳴を上げているのは、襲撃してきた影だ。


 アストラエとメンケントを助けようと動き出す刹那、背後に誰か回ってきたので咄嗟に体幹を落として手加減抜きの後ろ蹴りをかましてしまった。影はそのまま吹っ飛んで道場の門に激突。門を突き破る形で道場内部に転がり込んだ。


 襲撃者が唖然とした瞬間、アストラエは一瞬で拘束から抜け出すと足で相手の首を取って逆に固めた。


「やるじゃないか、宗国の武闘家。不覚を取ったから取り返してみたが、まだやるかい?」

「ぐあぁぁぁ……っ!!」


 メンケントを拘束していた襲撃者は、こっそり後ろに回り込んだセドナに両耳をあらん限りの力で引っ張られることで絶叫する。


「いぃぃぃあだだだだだだだだ!? 耳千切れる、耳千切れるッ!!」

「メンケントくんを離してくれないとどこまでも引っ張っちゃうよ!」

「いや、離したらこいつ反撃してくるだろう!? あっ、待っ、いだだだだだだだだ!?」


 セドナの攻撃が地味にえげつないなと思っていると、門の向こう側から怒声が飛ぶ。


「何をやっておるか、馬鹿弟子共ッ!!」


 その言葉に込められた気迫に、その場の全員が手を止める。

 そこにいたのは白い髭を長く伸ばしたハゲ頭の老人だった。

 未来から来たひげジジイかと思いきや、表情は武人のそれなので違うようだ。


 老人は俺に蹴りを食らって寝転がる男を一瞥し、俺たちに向けて礼をする。


「レイフウ道場の師範代を務める、ショウ・レイフウと申す。弟子たちが大変な失礼を。ここには時折ドンロウの息がかかった者が嫌がらせに来ます故、弟子たちも過敏になっていたのです……お前達!!」


 礼儀正しい態度から一転、弟子達を睨むショウ師範。

 アストラエたちが拘束を緩めると、弟子達は一斉に師範の前に駆け出し、並んで膝を突いた。


「暫く滝にでも打たれてくるがいい。戦う相手も見極められぬ曇った目を覚ますためにな」

「「「はッ!!」」」


 弟子達が顔を真っ青にして、こちらに深く謝罪の一礼をすると滝に向けて駆け出していく。ここで修行しているだけあって、足の速さも相当なものだ。ふう、と息を吐くショウ師範にアストラエが疑問を投げかける。


「我々がドンロウ一派の者だとは考えないのか?」

「……うちの一番弟子を一撃で沈めるような男がドンロウ一派にいたら、とっくに『拳聖』の称号と共に世間に名が広まっておるよ。そなたらは外国からの客人であろう? 顔立ちで分かる。よければ道場に上がっていってくだされ。こんな寂れた道場でも客人に出す茶くらいはありますのでな」


 こうして、レイフウ道場との接触はなんとか怪我人を出さずに収まった。

 いや、俺が蹴った弟子がもう少し弱かったら怪我人が出てたからあと一歩で俺が戦犯になるところだったけれども。




 ◇ ◆




 レイフウ道場の中は比較的綺麗だったが、人が少なくがらんとした印象を覚えた。


「若い者たちからすれば肩で風を切るドンロウ一派が眩しく見えたのでしょう。全盛期は二〇〇人近くいた門下生も、今では両手の指で数える程度です」


 数名の若者が道場内で稽古をしている。稽古には熱が入っているが、それでもだだっ広い空間に数名程度なのが物悲しい。

 お茶を出したのはショウ師範の、年齢的には孫娘らしき女性だった。


「あの……どうぞ」


 頭の左右に団子のように髪を纏めた少女は、アストラエに一瞬熱い視線を送るも、照れを隠すように盆で顔を隠すとそそくさ退散していった。

 ショウ師範に改めて事情を説明する。


「なんと、王国の……彼の国は剣が中心の武術で格闘術は然程活発ではないと聞いておりましたが……」

「まぁ、我々はある意味特殊な部類だと思いますよ。一般騎士で格闘術に優れているのは少数派でしょう」


 少しばかり武術の話で盛り上がったが、話題はすぐにドンロウ一派の事情へシフトする。


 曰く、ドンロウ一派は数十年前まではレイフウ道場とほぼ互角の格式と規模だったらしい。しかし、バン・ドンロウの弟子であり当時の宗国最強とまで謳われたチャン・バウレンが道場を去ってから波乱があったらしい。


「当時のチャン・バウレンは『凶手』の異名を持つほどの恐ろしい実力者で、彼が武者修行に赴くたびに道場破りで数多の武人が涙を呑んだものです。ドンロウ一派で最強の……いえ、当時の宗国で最強の武人でした。それこそ当時のバン・ドンロウをも凌いでいた。しかし彼は何を思ったか宗国での全ての地位を投げ捨てて一派を去り、彼の実力に惹かれてドンロウ道場にいた数多の実力者も去って行った……それが転機でした」


 自分ではなく弟子の背中を門下生に追われていたバンが当時何を思ったのかは定かではないが、その頃からドンロウ一派は武人の集団から逸脱を始めた。商売に手を出し、道徳から逸れた方法で道場を屈服させ、次々に勢力を拡大していき、今のドンロウ一派となった。


 ドンロウ一派が目指すのは、ただ強さのみ。

 権利も商売も、それを用いて最強の地位に立つためのもの。

 そして最強の地位を利用して、彼らは最強の武術を追求する。


「バン・ドンロウはもはや怪物です。財力や発言力はもとより、師範代クラスの中から選りすぐりの実力を認められ直弟子として扱われる『四拳聖』の実力も本物。そしてドンロウ一派はその武力を惜しげなく宗王に捧げることで地位を確たるものとしている。恐ろしい事です……一個人が王の手にも余ろうとしている」


 ショウ師範の茶を持つ手が微かに震えている。

 俺の見立てではショウ師範はタマエ料理長に並んでもおかしくないぐらい強そうなのだが、そんなショウ師範も恐怖を覚えるほどバンたちは本当に強いのだろう。


(それはそれとして……あの執事なにやってんの!?)


 恐らく若かりし日の当人には特に自覚はなかったのだろうが、まさかの王国執事セバス=チャン・バウレンがバンを狂わせたかも知れないと言われると、そう思わずにはいられない。道理でみんな俺がチャン執事の弟子であることを気にする訳である。

 いや、俺よりメイド長のロマニーの方がちゃんとした弟子で、俺はなんちゃってで付き合って貰っただけなのだけれど。


 アストラエが小声で話しかけてくる。


(どうするヴァルナ。うちの執事長を呼び出してケリつけて貰うか?)

(悲しいことに検討に値するが、まぁこの事態の責任をあの人に取って貰うのもちょっと違うと思うなぁ)


 セドナがぽつりと呟く。


(やっぱり若い頃はやんちゃしてたんじゃん、あのおじいちゃん……)


 俺たちは引き続きこの道場で情報を引き出すと共に、ドンロウ一派にも探りを入れることにした。

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