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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
第十九章 見果てぬ大地へ

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402. SS:この先が見物です

 男は、限界に近づいていた。

 男の駆る愛馬もまた同じく、そうであった。


 旧支配者たちの甘言に乗り、赤銅色の笛を握らされた彼は、何故己がこのような状況に陥っているのかと自問する。


 彼は旧支配者たちから様々なことを聞かされた。


 曰く――その森では元々小規模な『魔物を操る実験』が行われていた。

 曰く――その研究は不完全ながら一定の成果を出した。

 曰く――既に仕込みを始めているから、その仕上げをして欲しい。


 尊敬するアレイン隊長の為に、そして自分自身の未来の為に、男はその役目を請け負った。


 男は『笛吹き男』だ。

 予め別の人間が、ロックバードの住み着いた断崖の下に作られた地下研究施設にてオーク集めをしていたらしい。男はその岩の近辺をうろつく魔物に怯え、冒険者に去れと願いながら必死の思いで研究施設に辿り着き、そこで笛を渡された。


 笛は音階によって繰り出せる命令が違い、複雑な指示はまったく出来ない。それでも魔物を誘導するのは容易だという。オーク限定でという但し書きを聞いた際は男も訳が分からないと首を傾げたが、それは今気にすることではないとかぶりを振った。


 騎士団長ルネサンシウスを懐柔してオーク襲撃の迎撃計画を整えるまでの間に、集合したオーク達は冒険者に随分と訝かしがられてしまったようだ。しかし、冒険者には企みの真相も問題の解決も出来はしなかった。


 出発したのは深夜。

 馬を即座に直進させられる森の外まで移動し、笛を鳴らした。

 男は当初、こんな笛を鳴らしただけでオークが本当に自分を追ってくるのか半信半疑だったが、馬を走らせ始めて数分後にはこの疑問は消し飛んだ。オークの大群が森から押し寄せてきたからだ。


 男は恐怖を覚えた。

 もし馬を操り間違って転倒でもしたら、自分はあの醜悪な亜人の大群に跡形も残らないほど踏み潰されて非業の死を遂げるだろう。その重圧はいくらオーク達との間に距離が開いているとはいっても、並大抵のものではなかった。


 予想外にも冒険者が陣を展開していたときは焦ったが、男は仲間のふりをしてオークの襲来を知らせるという機転を利かせた。何故こんなに冒険者の対応が早かったのかは疑問に思ったが、その冒険者たちも土煙を上げるオークの大群にはまともに当たれば死ぬと理解したのか、あっさり崩れ去った。


 死ぬまで抵抗した者は見当たらず、所詮個人主義のギルドの団結などその程度だ、と男は鼻で笑った。死ぬような思いの任務だったが、いつも比較対象として比べられる冒険者が泡を吹く姿は胸がすく思いだった。それでも数十匹のオークが仕留められたが、もはや第二陣も似たような結末を迎えるのは想像に難くなかった。


 そこから先は、あまり覚えていない。

 気付けば当初四〇〇以上いたオークは三〇〇近くまで減っていた。

 地方騎士と冒険者の追撃部隊による側面攻撃で、少しずつ削られたのだ。

 だが、三〇〇も残っていれば上出来すぎる。


 笛で操られているオーク達は、笛で操り糸を切られると途端に動きが鈍化するそうだ。オーク達もかなりの長期間走り続けたことでスタミナの消費も激しいだろう。ある程度誘導して糸を切ってやれば、オーク達は当初の勢いを失い、全身を襲う疲労と目的の伴わない惰性でだらだらと皇都に接近し、騎士団に全滅させられる。


 幾ら雑兵とはいえ、冒険者たちにも防げなかった三〇〇の大群だ。

 これに即座に対応し、全滅させれば皇王も騎士団の処遇を考え直さざるを得ない。もちろんそれが自作自演であることを隠し通すのが大前提ではあるが、もうここまで来れば隠し通せると男は無責任に可能性を信じた。


 そろそろ、時間だ。


 男は馬の頭に騎士団の馬であることを示す被りものをつけ、大事に持ち続けていた笛で命令の解除を軽く吹き、それを地面に投げ捨てた。視界の先には既にオーク達に十字砲火を浴びせる準備を整えた仲間の騎士たちが構えている。


 彼らには、男がオークを誰より先に偵察しに行った者として伝わっている手はずだ。男は、笛が大地を跳ねて視界からあっという間に遠ざかっていくのを見送り、道を逸れて騎士団の陣の横を通っていく。


「アレイン隊長……栄光を、貴方と、共に……」


 意識が朦朧とするほどに疲労困憊の男は、馬の走る速度を緩めさせながら呻くように隊長の名を呼ぶ。アレインが待っているであろう陣地に向かいながら。


 故に、彼は丁度入れ違いでオークの大群の側面から接近するアレイン隊長の勇姿を、その存在にすら全く気付くことはなかった。




 ◆ ◇




 アレインは眼前に広がる緑の亜人の地獄を見て呻いた。


「おのれ、けだもの共! なんという数と密集具合だ……だが速度は緩んでいるな!! 総員、味方の射撃部隊の間合いを見誤るなよ!! 敵陣背後に回り込んで後ろから削り取る!! 我に続けぇぇぇーーーーッ!!!」


 アレインの号令に騎士たちと軍馬の雄々しき声が続き、数多の蹄が強かに大地を打つ。


 彼らが攻撃を開始した場所は王都からそれなりに離れた位置で、冒険者や地方騎士の追撃部隊も既に脱落していたため、誰も見届けない戦場だった。しかし、アレインの指示と部隊の統率には一切の乱れがなく、彼らはアレインの指示通り動きの緩んだオーク達の背後から襲いかかる。


「滅するべし、異形の輩ぁ!!」

「己が愚行を悔い改めよッ!!」

『ブギャアアッ!?』

『グギョオオオオオ!!』


 味方のそれぞれが全く無駄のない位置取りで馬上から槍の刺突を手際よく繰り出す様はまさに美事みごと。オークが暴れて道を逸れても臨機応変に位置取りを変え、全体としての陣形に乱れはない。オーク達もいきなり背後から襲いかかった騎馬隊の動きに大わらわだった。


 とてもヴァルナに大恥をかかされた部隊と同じには見えない連携ぶり。

 しかし、そもそも対ヴァルナのような戦場は特殊であり、こういった場面でこそ騎馬隊の実力が光るのは確か。アレインは問題のある指揮官ではあるが、環境さえ整えば常人以上の実力を発揮する男であった。


「見たか、これぞ騎馬隊の真骨頂よッ!!」

「流石はアレイン隊長!! 我らも遅れを取ってはならぬ!!」


 皮肉なのは、指揮するアレイン当人は騎士団長とその背後にいる者たちの思惑を全く知らずに無視したことで、逆に実力を発揮出来ていることだろう。旧支配者たちとしては華のある騎馬隊には人の目があるところで活躍して欲しかったのだが、これは印象操作ばかり考えて騎馬隊の特性を鑑みなかった連中が悪いだろう。


 オーク達は背後からの予期せぬ襲撃に混乱しつつ、尚も直進を続ける。

 騎馬隊の快進撃は暫く続いたが、なにせオークの数と味方の射撃の射線上に入れないという問題から、途中で撤退を余儀なくされる。アレインはその点、引き際も知っていた。


「総員、口惜しいが撤退だ!! 遅れることは許さぬぞッ!!」


 尤もそれは、間違っても自分たちの馬を味方に傷つけられたくないという思いからでもあるが……。なんにせよ、その引き際は別部隊にとっては有り難く、アレインの部下達も血気に逸って追撃せずにしっかりと退いた。


 だが、騎馬隊が離れて射撃部隊の一斉射が降り注ぐまでの間に、オーク達の頭に異変が起こる。


 突然オーク達が激しく痙攣し、頭頂部がもこもことせり上がる。

 そして、何かが皮膚を突き破った。


「ブギ……キキ、キ?」


 それは、誰がどう見ても双子葉類の芽。

 知る者に言わせれば、アルラウネの新芽であった。


 それは、人間達はもとより、オーク達も、オークに寄生するように根を張るアルラウネの種にとっても予期し得なかった出来事であった。


 幾ら魔物が尋常の存在ではないとは言え、まるで酔っ払いの夢でも具現化したような衝撃的な光景。オークとの距離を測っていた測量者たちは自分の顎が外れないようにするので精一杯だった。


「なんだありゃ!? 連中に何が起きてる!!」

「おい、芽が生えた瞬間移動速度が……!!」


 ――このときは誰も知り得なかったことだが、これはオークの生存本能とアルラウネの寄生種の生存本能、そしてあの笛による強制操作が長時間続いたことの三つの要素が重なって偶発的に起きた出来事だった。


 そのメカニズムを正しく理解出来る者はその場にはいない。

 そも、これを即座に解明できる人間が前線になどいるわけがない。

 なので、彼ら騎士もその時点では、なぜオーク達が加速したのか理由を想像できる段階にすら至れていなかった。


「とにかく撃つしかなかろう!! カノン砲斉射!! 弩弓、よく狙いを定めろ!!」


 怒号と共にカノン砲が一斉に火を吹く。

 しかし、練度不足が響いたか、高い維持費のかかるカノン砲の弾は盛大な爆音を立てて鉄塊を発射したはいいものの、見事にオークの群れを逸れ、無駄に大地を抉っていく。対魔物兵器としては最大の火砲も、これでは宝の持ち腐れだ。


 原因は、カノン砲の足場。

 彼らは整地された平らな地面でしか訓練をしたことがなかったが、今回は諸々の事情があり未整地の足場に固定したことで、仰角の調整にズレが発生していたのだ。

 しかも、オークの進行速度からして弾の再装填は間に合わない。

 砲手たちはこの絶好の機会を活かせなかったことに項垂れる。

 オーク達はこの音に過敏に反応し、進行方向がばらける。

 されど、騎士達も唯では済ませない。


「弩弓、えぇぇーーーーッ!!」


 カノン砲の失敗直後から角度を微調整していた弩弓たちは役割を果たす。陣の端から、空気を貫く音を立てて大量の矢が放たれる。オークの位置が多少ばらけはしたが、この兵器の威力は見事に命中したオーク達を絶命させていった。


 長弓による攻撃は効果が薄かったが、弩弓で死にかけたオーク達にトドメを刺す程度の効果はあった。騎士達の迎撃により、皇都の騎士団が接敵した時点から百のオークが仕留められ、残りは二百となる。


 これに顔を青くしたのはディアマント参謀だ。


「なんたること……! 想定より皇都に侵入するオークの数が多い! おのれ、やはり戦を知らぬ老人共の情報などあてにすべきではなかったか……!!」


 ディアマントは、事前にルネサンシウス経由で皇都に近づいた時点でオーク達は大幅に弱体化するという情報を知らされていた。ただし、ディアマントとしては魔物のコントロールにもその予測にも大いに懐疑的であった。

 しかし実際にオークが急接近しているものは仕方なく、また、この裏話から省かれていた騎馬隊と重装歩兵隊以外の部隊長たちが別の作戦立案を強烈に拒んだため、仕方なくこのような作戦を立てざるを得なかったのだ。


 騎士達の十字砲火を潜り抜けたオーク達が一斉に地響きを立てて通り過ぎ、まっすぐに皇都スラムに突っ込んでいく。その動きはまるで何か思惑を超越した大きな使命に突き動かされているかのようだ。

 部隊はギリギリまでオークに射撃を繰り返したが、結局、約二〇〇の狂った亜人の群れは栄えある皇都を土足で踏み荒らした。

 ここから先の市街戦は地獄だろう、とディアマントは思う。

 この前代未聞の大失態の泥を一体誰が被るのか見物だとも。


「我が国にも英雄たらん者がおればな……」


 世界最強騎士ヴァルナの勇姿を思い出し、ないものねだりが漏れる。

 実際の所、彼とよく似た顔の勇者があと少しでそれになったかもしれなかったのだが、あの時ばかりはディアマントは偉大なる皇王の衣服のセンスに呪詛を漏らしたものだ。


 ただし、希望はまだ潰えていない。

 オークのせいで荒れた大地を突っ切るように、複数の馬の影が緑の軍団を猛追していた。

見事と美事は同じ意味で使える。

また美事はびじとも読み、その場合はちょっとニュアンスが違う。

何故そんなことを書くかというと、美事を使うとだいたい誤字だと主張する人が出てくるのを分かっていてそれでも使いたいからである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 皇帝に忠誠を誓う騎士さえドン引きって、皇帝がどんな服を勇者のために用意したか気になってきた。
[一言] ヴァルナ君のやり方に反発してたけど、アレイン隊長は(騎士団内で『騎馬隊こそ絶対』で『些事は他のところがやればいい』みたいなところはあれども)プライド高いがゆえに正々堂々を好む(結果を飲み込め…
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