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最強剣士、最底辺騎士団で奮戦中 ~オークを地の果てまで追い詰めて絶対に始末するだけの簡単?なお仕事です~  作者: 空戦型
第十七章 愛に正解ありや

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326.因果応報です

活動報告にてちょっと感想についての話をしてます。

流し読みで結構なので一読お願いいただければと思います。

 マモリはヴァルナが帰った後の時間、ずっと書斎に籠って紙媒体と睨めっこを続けていた。当然、その理由はヴァルナにこれ以上迷惑をかけずに問題を解決するためだ。


 マモリとてヴァルナの求める情報が容易に渡せるほど軽々に扱えるものではないことくらい知っている。仮にこのままマモリが家督を相続したとして、ヴァルナに恩があるからというそれだけで簡単に渡せるものではない。


 故に、マモリは抜け道を探した。

 探して探して、食事も忘れて探し続けた。

 更に、調査と同時にイセガミ商事の書類も持ってきて、なんとか中身を調査した。マモリにとってこの数字の羅列との勝負は容易ではなかったが、見えない協力者のおかげでなんとか内容を理解できた。


「ありがとう、コメット……!!」


 プレセペ村にて何かとマモリの世話を焼いてくれた親友、コメット。

 マシンガンセールストークを得意とする彼女は慈善活動団体『ネイチャーデイ』の秘書的存在でもあり、この手の書類を家でもよく処理していた。自分が甘えられる数少ない存在であったコメットの為にその書類仕事を手伝った経験が今に活きている。

 それはそれとして彼女の部屋の汚さはどうかと思うが。


「やっぱり、四億の借金はほぼ先行投資……100%ではないにせよ、ある程度は回収の目途がついている……」


 借金を話が告げられた際はまさか彼に払わせる訳にはと思って話を打ち切ったが、蓋を開ければ恐らくそれもコイヒメの罠だったのだ。勿論商売の世界ゆえに絶対ではないが、これからイセガミ商事が生み出す利益と照らし合わせれば四億の借金はさほど致命的ではない。


 借金の件は、ヴァルナがいなくてもいずれ何とかなる。

 であれば、残る一つの探し物に専念するのみ。


 イセガミ家が任を全うしたことで、現在のイセガミ亭の書斎にはイセガミ家の管理していた書物に加え、列国よりイセガミ家関連の書物が沢山送り込まれている。そこにはマモリがそれほど詳しくなかったイセガミ家の歴史や、列国の歴史が記されている。


 マモリは探して、探して、途中で使用人が持ってきたお菓子とお茶の存在さえ忘れて探し尽くし、夕暮れが部屋に差し込み始めた頃になってやっと目当てのものを見つけた。マモリはその写しを取り、必要な書類を大至急で用意し、そして全てを終えると同時に床に突っ伏した。


「良かった……見つかった……けど、もう、疲れた……」


 疲労困憊だったマモリは何とか立ち上がってお菓子とお茶を口にした。絵を描くのと同じくらいの集中力の消耗だったが、その甲斐はあった。

 ただ、最後には恐らくマモリは母と戦わなければならない。

 知恵でも気迫でも、本気になったコイヒメ相手ではマモリは勝てない。

 しかも、あちらは当主だ。

 命令されれば逆らえない。


 最終手段に関しては一抹の不安があるのは確かだが、ざわめく心はヴァルナの事を思い浮かべると自然と鎮まっていく。不安に駆られる度に励ましてくれたヴァルナの為なら、マモリはこの不安を覚悟によって押し止めることが出来る。


「ふふ、ヴァルナ……喜んでくれる、かな……」


 これで何とか明日ヴァルナにいいい知らせが出来そうだ。

 マモリは安心するとなんだか眠くなって、ついウトウトしてしまった。


 そんな眠気が吹き飛ばされたのは、それから暫くしてのこと。

 突然窓を叩くような衝撃が外で発生し、マモリは飛び起きた。

 すわ敵襲かと急いで書庫を出たマモリは、そこでやっと外で自分の想像を絶する出来事が発生していることを使用人に知らされる。そして、明日来るはずのヴァルナがもう来ていると耳にしたマモリは自ら用意した資料と母より賜りし狐耳を装着し、今まさにヴァルナの下に馳せ参じたのであった。


 ――なお、マモリが目を覚ました理由である衝撃の正体はシアリーズとボクっ子新人メイドのアストライアが衝突した際に発生したものだが、それをマモリが知るのは後になってからのことである。




 ◇ ◆




 張り詰めていた場の空気が、一気に変わる。


「ふぅっ、はぁ……恩返しに来たよ、ヴァルナ!!」


 紙束を握って現れたマモリは、何故か俺に嗾けられた狐装束を再び身に纏っている。ネメシアは「え? この浮かれたっていうかイカれた格好の娘がマモリなの!?」と予想を裏切る装いに混乱し、セドナは「あの服可愛いかも……じゃなくてっ!!」と勝手に気を反らして勝手に修正している。


 俺はちらりとコイヒメさんの方を見た。

 表面上は何も反応がない。

 だが、予定通りという顔もしていない。

 マモリの襲来を予想していたならここで無反応というのは変だ。

 故に、あの無表情は娘が何をしに来たのかを見極めようとするものだと俺は解釈した。

 マモリは急いで俺に駆け寄って、一枚の書類を差し出す。


「これにサインして、ヴァルナ!!」

「これは……養子縁組届じゃないか」

「絶対に後悔させないから、だから!!」


 その一言にコイヒメさんは薄い笑みを浮かべ、ネメシアとセドナの顔から血の気が引く。イセガミ家は遂に母子揃ってヴァルナを攻め落としに来たのだと。俺自身、何故これを差し出すのか理解に苦しむ。これでは婿養子になるのを推奨しているようなものだ。


「マモリ、これは――?」

「……」


 マモリは何も言わないが、その目には見覚えがある。

 プレセペ村で一人親の仇を追い続けていた彼女の、真剣そのものの目だ。

 酔狂や自棄ではなく、彼女は本気で俺に後悔させないと言っている。

 彼女は嘘も演技も出来ない筈だが、具体的にどうするのか何も言わずに行動を促すのは、口に出したら嘘になるからという可能性もある。説明を促しても言わないのに信用しろとは土台無理な話だ。


 だが、俺はペンを握る。

 精一杯で頑張ってきたマモリを信じてやるために。


 はっとしたネメシアとセドナが同時に俺の腕を掴むから、仕方ないのでペンを口に咥えて歪な名前のサインを書く。これで俺が貴族なら名前を書き切れなかったところなので、人生で初めて短い名前に感謝する。


「ほれ、これでいいだろマモリ。俺の期待を裏切らないでくれよ? お前を呪いたくはないからな」

「……大丈夫。ヤヤテツェプを釣るよりは、きっと簡単だから」

「あ、ああああああ!! ヴァルナくん、何で書いちゃうの!?」

「どう考えても罠でしょう!! ええい、こうなったら力づくでも――!!」


 悲鳴を上げるセドナをよそに、遂に書類そのものを破壊しようとネメシアが手を伸ばす。しかしそれより一瞬早く、コイヒメが書類をテーブルから掠め取った。その表情は、今日初めて勝ち誇ったような鼻の高さだった。


 その書類はマモリが用意したものであったのかコイヒメさんのサインはなかったが、彼女は迷いなく流麗な筆捌きで自分の名前を記入欄にしたため、ひらひらと仰ぐようにそれをネメシアとセドナに見せつけた。


「これで、お話はお終いですね?」


 セドナとネメシアは絶望したように口元を歪め、俺は事の成り行きを見守り――そしてマモリは、ぽつりとつぶやく。


「そう、これでお終い……母上は欲を出し過ぎた」


 その瞬間、コイヒメのひらめかせた紙がめくれ上がってもう二枚の紙が出現し、そのうちの一枚がはらり、とテーブルに落ちる。サインの筆圧の跡が見える黒い紙に最初は誰も答えを導き出せず、やがてネメシアがもしや、と首を捻る。


「……カーボン紙? 書類の写しを取るときに使うために最近開発されて、国の正式書類に使うものとして採用されるかもしれないってお父様が……」

「そう。紙の下にカーボン紙を挟んで、その下に書類を置くと、上の書類で書いた文字が筆圧によって下の書類に転写される。つまり、母上はその養子縁組届の裏にあった書類にもサインしたことになる」

「な――なんですって!?」


 婚約攻防戦が発生してから初めて聞く、コイヒメの焦った声。

 彼女が慌てて二枚目の書類を確認しようとした刹那、セドナが横合いから素早く手を伸ばして書類を掠め取り、その内容を読み上げた。


「私、マモリ・イセガミはここにイセガミ家の家督相続権を永久に放棄することを宣言する……当主の許可欄に、カーボン紙で転写されたコイヒメさんのサインが……!!」

「なぁっ――マモリ!? 貴方、自分が何をしたか分かって――いいえ、そもそも王国法に照らし合わせたら当人の許諾なくサインをさせるのは違法の筈でしょう!! その書類は無効です!!」

「別に王国法では無効でもいい。私はこれを列国の客人に見せる。カーボン紙の存在を知らない列国では、この書面は有効になるから」

「くっ、う、ううううううう!?」


 断固たる決意を見せるマモリに、コイヒメは頭を抱えて唸るしかない。

 そう、家督相続放棄の書類は列国基準で書かれていたのだ。


「過去の文献を漁って知ったことだけど、列国では稀に家督相続権で無用な揉め事を起こさないために相続権を放棄するというやり方がある。そして過去にイセガミ家でも同じことが起きた記録を見つけた。当時の書類がどんな形式で書かれていたのかも。お家を継げないのは少し不安だけど……ヴァルナになら、家の未来を任せてもいい。責任も一緒に取る」

「娘の覚悟を見誤ったか……コイヒメ・イセガミ一生の不覚ッ!!」


 ここに今、立場が逆転した。

 天を仰ぐのはコイヒメの方だ。


 イセガミ家の跡取りはマモリのみ。

 そのマモリが今、家督相続権を放棄した。

 すると、今現在イセガミ家の次期当主として正当な人物は誰か?


 答えは、養子となった俺である。


「マモリ、お前スゴイこと考えつくな……殆ど詐欺だぞこれ」

「ごめん、ヴァルナ……母上からサインを引き摺りだすにはこの方法しか思いつかなかったの。でもこれで大丈夫……母上がどんな策を弄そうとも、明日までにはこれは覆せない。これでヴァルナは情報を知る正当な権利を得たし、まだ結婚しなくてもいいよ。ただ養子になっただけだから」


 養子縁組によってあの書類が正式に受理されれば、俺はヴァルナ・イセガミになる。しかし、養子は養子で婚姻は婚姻だ。養子と結婚は決してセットではない。今回、コイヒメさんが俺に当主になってもらうために欲を出して用意した養子縁組の書類が彼女自身の首を絞めるとは、皮肉な話である。


「ありがとな。頑張ったな、マモリ……!」


 俺は思わずマモリを抱きしめてその頭を撫でた。

 彼女にとって相続権の放棄も母を罠に嵌めることも、内心では相当な葛藤があった筈だ。そこまでして狐の恩返しをしてくれたマモリの健気さに、俺は目頭が熱くなった。


「わ、私だってやるときはやるもん……えへっ」

 

 恩返しができたことが本当に嬉しかったのか、堪えきれないように嬉しそうな笑みを浮かべるマモリ。やはり彼女はやると決めたらやり遂げる、強い意志の持ち主だ。


「ま、まだよ……まだ終わらせないわっ!!」


 と、諦めたかと思っていたコイヒメさんが血走った目で再起動する。


「依然、当主は私!! そして家の存続に不都合な判断を簡単にさせる訳にはいかない!! マモリ、その家督相続の書類をこちらに寄越しなさい!! これは当主としての命令よッ!!」


 凄まじい執念だ。その体からは戦士のそれとはまったく違う情念のような異質な気配が噴出し、口から放たれる一言一言が重い。気を抜けばその言葉に屈服してしまいそうな程だ。

 しかし、ここでネメシアとセドナが勢いを取り戻した。


「この期に及んでまだそんなことを!! 往生際が悪いわよ、コイヒメ・イセガミ!!」

「そうだよ!! もうマモリちゃんの意思は表示されたじゃない!!」

「黙らっしゃい、これは家庭の問題です!! さぁ、マモリ!! いい子だからッ!!」

「……母上」


 マモリはすっと目を細め、書類を手にコイヒメの下に歩み寄る。

 あまりにも自然な動きだったためにネメシアもセドナも止める暇なく彼女はコイヒメの横に立ち、コイヒメはそこで今までの執念が一瞬で掻き消えたような清々しい笑みを浮かべる。この相反する感情を瞬時に切り替える様は、商売人としての非凡さだろうか。


「いい子ね、マモリ。さぁ、その書類を――」

「母上」

「はい?」

「マモリはこれまでずっと頑張りました。父上がいなくなっても、母上が病床に伏しても、マモリはイセガミ家の為に身を粉にして頑張りました」

「……本当に、貴方には苦労をかけました。しかし、故にこそ貴方には立派な殿方を迎えて欲し――」

「雨の日も、風の日も、何年も何年も……私は口が下手で、愛想も悪くて、多くの人が私と多く関りを持たず、私も持てず、不安で……寂しくて……悲しくて……でも、父上の仇は是が非でも取りたくて……それが出来れば僅かでも健やかな日を取り戻せると信じて戦い抜きました」

「……っ!!」


 己の過去を語り続けるマモリの瞳には、涙が溜まっていた。


「母上、マモリは旦那様などと大きなことは望みません。家族二人、健やかに過ごせればそれだけで幸せです。でも、もしもマモリのこの奉公に報いる御恩が頂けるのであれば――」


 マモリは、俺にそうしたように指で狐の顔の形を作り、コイヒメの胸をつついた。


「マモリは……ま、マモリギツネは、お兄ちゃんが欲しい……こんっ」

「ぐっはぁぁぁあぁぁぁァァアァァァァァァァァァァッッ!!?」


 コイヒメは吐血してキュン死した。

 娘に何もしてやれなかった負い目が、またしてもコイヒメを裏切ったようだ。

 貴方の言う通りマモリは本当に可愛いので、貴方も俺と同じ衝撃に悶え苦しむがいい。


 こうして俺の長い長い一日に、やっとゴールが見えてきたのであった。


「母上ぇぇぇーーーーー!?」

「ぐふっ……娘のコンコン狐甘え、自分の身で味わうことになるとは……!! だ、大丈夫よマモリ。これは血じゃなくて試作タンタンメンの汁を衝撃の余り嘔吐しただけだから……」

「汚いよっ!! ええと、使用人さんバケツと雑巾を!!」

「ていうか何この赤さ、どんな量の香辛料が入ってるのよ……じゃなくて、そうだ!! ヴァルナ、急いで屋敷の前の戦いを止めにいかないと!!」

「うおっ、忘れてた!!」


 ……訂正。まだ今日という日はどたばたと騒がしく続きそうである。

王国最強騎士、血のつながらない妹が出来る。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ、ヴァルナは自分の親に売られた認識は無かったのです……?
[良い点] ぐっはあぁぁぁぁ!! コンコン狐甘えの余波がこんなところにまで…!! なんという攻撃力だっ!!
[良い点] 親に売られた点までリセットしてしまったァ!w
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