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始(ハジマリ)

書いていたら冗長になってしまって、あわてて削りました。

それでも結構な長さがまだ…。

何はともあれ、ROM専から踏み出す一歩、ゲーム世界に異世界トリップ、始まります。

無駄に長いのでご注意ください。







「「「リーンちゃーん! お疲れーー!!」」」


 いつもと同じ部活上がりの帰り道。

 校門を抜けるまでに何人もの生徒がオレに声をかけてくれた。中には遠くから大声で手を振ってくれる女子もいる。

 明るい笑顔に黄色い?労いの言葉をかけてもらえるのは嬉しいことは嬉しい。でも。


「呼ばれてんぞー、リンちゃん(笑)」


 相変わらずのこの呼び名。どうにも恥ずかしすぎてちょっと困る…ってのは言えない話。

 隣でかっこ笑いをつけてるだろうチームメイトに肘鉄のふりをしつつ、オレは彼女たちに手を振り返した。すると更なる笑顔と悲鳴?が聞こえる。


「きゃー、可愛い!!」

「リンちゃん、またねー」

「バイバーイ!」


 ……うん、まあ、いいけど、とりあえずオレも男の子だから可愛いって言われてもね……いいけどさ、うん。


「さすがお茶の間のアイドル、好感度バッチしだな」

「それいつまで言う気?」

「永遠のレベル」

「やめて」


 苦笑いとため息しか出てこないんですけど。






 高校1年生、バスケ部所属、性格は真面目で努力家。

 好きな科目は文系と家政、得意なことは炊事洗濯家事手伝い。

 普通に黒い髪と、普通に黒い目と、普通に特徴のない普通の顔。中学の時に他クラスの男子から「モブ顔」って言われて納得した、まさに普通すぎる普通な顔。

 オレこと室戸花櫚むろとかりんについて説明すると、大体こんな感じで終わると思う。

 これといって特別な所があるわけじゃない人間なオレを、やけに周りがかまってくれるのには一応理由があるらしい。




 オレが通う学校は、関東でも有名な進学校だ。

 東大への特に高い進学率を誇り、お金持ちの子女が多く在籍していて、教室はもちろんのこと体育館、図書館、部活棟、学食まであらゆる設備が贅沢に整ってる。

 私立だから当然と思われるかもしれないけど、オレからすると信じられない位だ。

 何で昼ごはんに2000円もかかるの? っていうかそれが並定食なの? 特上とかどこの三つ星?

 そんなお金持ちの世界の中で、オレの位置づけは貧乏一路な勤労奨学生、だ。


 家族は母1人子1人の親戚ふくめて後は誰もいない、いわゆるシングルマザーってやつ。

 母さんは総合病院で看護師長を務めていて、毎日忙しそうに働いてる。

 夜勤が多い母さんのために、基本家のことはオレがやっている。家事とか家計簿とかいろいろね。

 2人で暮らす2LDKのマンションは繁華街から少し離れた所に建っていて、立地がいいからそれなりに高い。子供を抱えた女1人では、普通じゃあやっていけない場所だ。

 だけどこの部屋は家族みんなで生活していたころの思い出が強すぎて、母さんは何が何でも手放したくないらしい。…オレだってもちろん嫌だ。

 そんな具合にあれこれ抱えた我が家の家計を、頑張る母さんを助けたいと思って、オレは小学校に上がる前から医者になると決めていた。

 オレが目指すのは、外科、それもできるだけ需要が高そうな心臓か脳のどちらかに進もうと思ってる。

 この時点で気づいてるかもしれないけど、医者になるのって……お金がかかるんだよね。

 子供の頃は勉強にどれだけお金が必要になるかとか分かってないから、ただ儲かりそうなものを選んだだけだったんだ。でも、そうじゃないって知ったのは小学3年生の時。

 そこからがもう大変だったよ。

 医者になるには頭がよくなきゃ。とにかく勉強をやってやってやってやる。オレは奨学金のために主席入学で私立の中学と高校に進んだ。

 医者になるにはお金もいるって。それなら仕事もやってやってやってやる。オレは近所の商店街で頼み込んで小遣い稼ぎのような仕事をさせてもらった。

 そうして今では指折りの進学校に通う、FXや株も扱う勤労奨学生になったんだ。

 あ、株なんかはもちろん母さん名義だし、月に1、2万稼げる程度の本当にちょっとしたものでしかないけどね。


 そんな貧乏モブ顔のオレが主席入学を果たした高校は、初めの数ヶ月厳しいものだったよ。

 いじめとか普通にあるし、まず何より生徒の間での無関心っていうのかな?

 成績と進路のことしか頭にない自分本位な空気、居場所がないどころじゃない。

 だけどオレは自己紹介に挙げた通り、真面目で努力家だったからさ。

 日々の予習復習から休み時間を利用した自主学習、授業でも積極的に質問して、気になる所はとにかく聞いて調べて確認して。そしたら成績のことでかみつかれるのは減っていった。

 問題は学校生活の方。

 オレ、物心ついたころからバスケが好きで、医者を目指すと決めた日にバスケも学生の間だけって自分の中で決めてたから、学生でいられる間だけは尽くせる全力で臨みたくて中学も高校もバスケ部に入ってたんだ。

 モブ顔なオレは運動神経もモブでした。人波っていうか、平均値っていうか、……うん。

 体育の授業、小遣い稼ぎの新聞配達、家に帰ってからも家事と課題と予復習後の自由時間。使える時間は全部使ってオレは体を鍛えて練習して、バスケに挑み続けたんだ。

 でも想像して欲しい。進学校の体育会系の部活動ってどんなものだろうか?

 …想像つくよね、そんな感じ。

 方針が文武両道だから全生徒部活動あるいは委員会参加必須、所属のために所属してるバスケ部員って幽霊じゃないだけましな程度。

 練習は疲れないように怪我をしないように。大会は参加記録のための予選1回戦敗退。

 そんなの、オレがやりたいバスケじゃなかった。

 誰にも理解されなくていい、別に独りだっていい、オレはオレに真面目でありたかった。

 成績をキープし続けたまま、朝練と放課後と休日と、バスケ部の活動時間は全部参加した。顧問の先生にお願いして個人練習もさせてもらった。十分楽しかったしそれで満たされていた。

 気が付いたのは夏休みが終わって、2学期に入って少し経った頃。

 体育館でいつもと同じシュート練習してたら、誰か知らない女子生徒が数人、こっちをのぞいて拍手と声援を送ってくれたんだ。

 ものすごく動揺したけどなんとか笑顔でお礼言って、すぐに練習に戻った。

 その日から日ごとに観客?応援??が増えていった。

 廊下や教室でまで声をかけられるようになってくると、今度は部員達まで態度が変わってきた。

 1人、2人とオレの練習に交じるようになって、いつの間にかバスケ部全員が本気で練習に臨むようになって、ついには顧問の先生指導の下に勝利目指して試合へ臨むにまでなった。

 もう混乱でしかなかったよ。

 練習の内容がチームの連携に焦点を置くようになった日、終了のあいさつの後、思わずみんなを引き止めてオレは尋ねていた。

「何で、何でみんな、バスケをやってくれるの? オレの所にくるの?」

 返事をくれたのは、一番最初にオレの個人練習に参加してくれた部員、同じクラスのタイチだった。

「お前がバカだったから」

 先輩も顧問も、全員オレを見てた。

「学年トップの勉強バカだったから。その上部活全力のバスケバカだったから。どっちもできない自分たちの方がもっとバカだって気づいたから、だからバカに混ざりにきた」

 人前で泣くのは嫌いだから、歯を食いしばって涙を耐えた。

「チームになってくれないか? お前は部長じゃないけど、バスケ部の中心にはお前がいて欲しい。…お前とチームが組みたいんだ」

 バスケ部に入った生徒は、成績のためにバスケをあきらめざるを得ないやつばっかりだったらしい。笑って、うなづいて、オレ見たく泣きそうになりながら、っていうか本気泣いてる人もいて。

 タイチ以外誰も何も言わなかったけど、みんなしてオレの頭ぐちゃぐちゃに撫でてかき回して、叩いていった。

 バカなオレはつらい現実を見ないふりして、思い込みでどうにかしようとしてたんだ。

 理解されないのは嫌、独りぼっちは嫌、オレだけ真面目でも意味がない。

 本当は、誰でもいいから理解して欲しくて、独りはすごく悲しくて、オレは、誰かと一緒に頑張りたかったんだって。

 泣きそうなオレをからかうタイチと教室に戻ると、よく話すようになったクラスメートが残っていて、顔を見合わせると一斉に拍手をしだした。

「一生懸命な君のこと、私たちが応援してもいい? それでできれば、君のこと応援したいみんなと友達になってください!」

 涙がこぼれなかったのは奇跡だと思う。

 そこから先は怒涛の勢い、学校全体の雰囲気がすっかり変わって、今では敷居の高い私立進学校なんて思えない位に明るくて楽しい場所になっていった。

 バスケ部も、冬の全国大会では優勝を狙えるんじゃないかってくらいに実力を伸ばした。

 オレは、この毎日が、高校生活が幸せでたまらない!


 ………しまった、熱く語りすぎた(汗)

 えっと、とにかく、そんな具合に、オレは分不相応な位あちこちで構われるようになったみたいなんだ。

 らしいとか見たいとか他人ごとに話してるのは、自分でもよく理解できてない所が大きくてね。

 頑張ったことには自信を持つけど、そんな可愛がられるようなタイプじゃないと思うのに。

 あー……ちなみにだけど、リンちゃんってあだ名はいつかの練習試合で、応援に来てくれた女子たちが選手入場してコートに並ぶ時にそう声をそろえて叫んだのが切欠。

 ………今でもよく分からないんだけど、「リンちゃんなう」って何?

 さて、いろいろあってのオレの結論は。

 この学校、根がまっすぐでいいやつが多いんだろうなきっと、うん。






 通いなれた通学路を、バスケ部の友人3人と歩く。

 課題のこととか、次に試合のこととか、昨日のテレビのこととか、適当に話しながらオレたちはバス停に向かっていた。

 オレとタイチはバス通学だからおかしい所はどこにもない。けど、マサとシュウは学校近くの住宅街だから本当を言うと途中から真逆に進むことになる。

 2人でも平気だし遠回りをさせて悪いからいいって何度も言ったのに、マサもシュウも「大丈夫」って笑うばかりで、結局いつも一緒にバス停までついてきてくれる。

 そりゃ確かに4人の方が楽しいけど、時間を無駄にさせてないか気になって仕方ない。

 でも、オレの気も知らず盛り上がる2人を見ていると、その笑顔に救われているように感じてきた。


「いいやつらだよね…」

「何か言った?」

「え、何? どったの?」


 ぽそっとつぶやいたつもりだったけど隣にいたタイチには聞こえたみたいで、話を切ってオレの方を振り向いた。つられてシュウもこっちを見て、残るマサも同じく。

 一連の動きにおかしくなって笑いながら、オレはさっきと同じ内容をタイチに答えた。


「うん、マサとシュウがいいやつだなーっと改めて。タイチも思わない?」

「え゛? ………あー…、そう評価してやらんでもない、かな?」

「だよな!」


 うんうん、タイチもよくわかってる!


「タイチももちろんいいやつだけどね!」

「………」

「「………」」


 と、ここで目的地バス停に到着した。変だな、並んでる顔触れがいつもと違う…。


「そっか、今日は早目に練習切ったから。バス1本前のに乗れそうだよ」

「…そーだな」

「「………」」


 タイチの返事がやけに軽く聞こえて顔を上げれば、その後ろでは2人が頭抱えて唸っていた。

 オレはとりあえず、半笑いで宙を見上げてるタイチに声をかけてみた。


「タイチ? 何か、2人が」

「気にするな、よくあることだから」

「よくある…?」


 よくも見ないよなと思いつつ、頭を抱えたままうつむく2人に近づいて様子をうかがった。

 ぼそぼそと話し合っているようだがよく聞こえないのでもう少し近づく。

 隣ではタイチが大きくため息をついている。


「ちょ、オレらのアイドルマジ癒し系」

「オレらのアイドルが癒し系過ぎる件について」

「はげどー」

「………」


 だーかーらー、アイドルとかオレに似合う形容詞じゃないってのに!

 もっと顔が整ったやつを捕まえて言ってくれないかな、そういうのは。

 ってゆーか今タイチ混じったよね? 混じったよね??


「言ってることを分かりたくない」


 自分の顔がお世辞にもかっこいいだなんて言えないのは自覚してる。ましに見ても中の中か下だろうし、それでどうしてアイドルなんて単語が出てくるのさっぱり理解できない。

 オレが微妙な顔をしているのに気付いたタイチがへらりと顔を緩ませた。


「いーじゃん、好かれてるってことだろ」

「すさんだ学園に迷い込んだ1輪的な?」

「花ってかむしろお花ちゃん的な?」

「学園組織を内側からレボリューション的な?」

「訳が分からないよ」


 お花ちゃんって頭がお花畑って事か? それ思い切りバカにされてるとしか。

 生ぬるい顔でオレを囲む3人に悪意はないようだし、からかわれてるだけなのかと判断して、とりあえずオレは話をそらして3人の意識を遠ざけることにした。

 悪気があろうとなかろうと、この話題でいじられるのはやっぱりちょっとやめて欲しい。


「バス何分発かな? そろそろだと思うんだけど、マサ、見える?」

「んー? ちょっと遠いな、待ってろ」

「この路線どこに停まるっけ? せっかくなら途中までついてって遊んでかね?」

「オレ今日かてきょー」

「ちぇー」


 列を離れて時刻表を見に行くマサを、路線図を確かめにシュウが小走りで追いかけた。あいつら結構中いいよな。


「リンー、タイチー、もう2、3分らしー」

「さんきゅマサ!」

「ありがとう!」

「オレらついでに帰んね? また明日」

「おう」

「お疲れ」

「ばいばーい」


 次に発車時間を調べて現在時間を確かめたマサとシュウは、オレたちにそれを伝えると、手を振って帰宅を告げた。

 部活疲れの様子もなく元気そうな姿に、思わず笑みがこぼれた。

 タイチと並んで2人を見送っていると、突然マサが向きを変えてかちらに駆け戻ってきた。


「どうした」

「タイチっ、リンに今晩のイベ説明して絶対こさせろよ! ぜってーな!」

「ああ、そういやそんなこと言ってたな…分かった、バスん中で話しとくよ」

「よろしく! んじゃ今度こそ、じゃーなー」


 慌ただしく走り去る背中をもう一度見送ると、オレはタイチに首をかしげた。


「何の話?」

「ゲームの話」


 どのゲームだろうかと思考をめぐらせる俺に、楽しそうな顔でタイチが教えてくれた。


「VariousOnlineヴェリアス・オンラインだよ」




 すべては、この話から始まったんだ。







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