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幼馴染みは色気がだだ漏れらしいのですが、私にはわかりません。  作者: 燈華


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兄への報告と相談

今日は兄が夕食までに帰ってきたので一緒の夕食となった。


今日のことはきちんと報告しておいたほうがいいだろう。

だが食事の時にしたい話題でもない。

兄には話があるとだけ告げておく。

食事中にしたくないと言えば察するところがあったのだろう。

神妙な顔で頷いていた。





夕食は和やかな雰囲気の中で過ぎていった。





夕食が終わった後で二人で家族の居間へと移動する。


「お兄様、今日カティラス様にお会いしたわ」

「カティラス様、というと?」


兄の眉が寄る。

確かにアナスタシアの言葉が足りなかった。

カティラス様だと誰だかわからない。


「三男の方よ」


兄の表情が険しくなった。


「何故会ったりしたんだ? 近寄らないように言ってあっただろう」

「出掛けた先で偶然会ったのよ」


兄が近くにいた侍女を見る。

彼女はアナスタシアが出掛けた時についてきていた侍女だ。

彼女ははっきりと頷いた。


「はい。本日は予定のない外出でした。そこで声を掛けられておられました」

「そうか」


兄はアナスタシアに視線を戻す。

その顔が心配に曇る。


「大丈夫だったか?」

「少し、話しただけよ」

「話か。具体的には?」


アナスタシアは思い出し、思い出し、話す。

兄の口から溜め息が漏れた。

その気持ちはわかる。


「一応、妹が迷惑をかけた、とはおっしゃっていたわ」

「建前だな」


「そうね」

それくらいはアナスタシアだってわかっているのだ。

そもそも最初に触れたくらいでその後は特に触れることはなかったのだから。


遠回しな文句も言えなかった。

すべてわかってやっていたのだろう。


どこまでも相手のほうが上手(うわて)だ。

できれば二度と会いたくはない。


兄が一つ溜め息をつく。

兄もたぶん似たようなことを思ったのだろう。

アナスタシア一人ではまったく太刀打ちできない。

付け焼き刃ではどうにもならないほど経験値が離れている。


「今日は挨拶、と言っていたからまた来るつもりなのだと思うの」


マティスと一緒の時を狙ってくるかもしれない。

一応アナスタシアは顔見知りということになってしまった。

(はなは)だ不本意だし、まったくもって望んでもいないのに。


兄の眉根が寄る。


「お兄様、どうすればいいかしら?」


無視すればいいのか。

もっと果敢に言い返せばいいのか。


どちらも問題な気がする。

だけど言われっぱなしもよくない。

それに、悔しい。


兄は真面目な顔でアナスタシアを見る。


「今日のような対応でいい。できるだけ関わらないようにしておけ」

「わかったわ」


アナスタシアでは勝てない。

せいぜい言質を渡さないことくらいしかできることはなかった。

その手のひらの上でころころと転がされないようにじっとしていることしかできなかった。


ロンバルトの言った通りだった。

アナスタシアではとてもではなく歯が立たなかった。

マティスはよく躱せたと思う。


「一応マティスたちにも話しておこう」


また怒られるとは思ったが後で知られるよりはいいだろう。


「ええ」

「明日二人を呼ぼう」

「ええ」


こういうことは早いほうがいい。

明日は学園が休みだった。

兄の休日とも重なっていた。


「午前中だとすぐに応じられるかわからないから午後にするからな?」

「ええ」


明日は一日屋敷にいるつもりなので問題ない。

むしろ朝一番と言われるほうがつらい。


「連絡しておく。ヴィクトリア嬢には?」

「後で私から言うわ」

「そうか」


心持ち残念そうなのは気のせいだろう。


「まあきちんと伝えておくようにな」

「ええ」


ヴィクトリアにも相談するように言われている。

それに万が一にもヴィクトリアのほうに行かれた場合、知っているのと知らないのとでは対応に差が出るだろう。


「他にはないな? 大丈夫だな?」


相手が相手なだけに兄も慎重になっているようだ。


「大丈……」


大丈夫と言いかけて思い出した。

もう一つ告げていなかった重要なことがあった。


「あと名前呼びを許可されたわ」

「は?」


兄が目を見開く。

どういう流れでそうなったのかわからないのだろう。

アナスタシアもわからない。


「カティラス様と呼ぶとカティラス侯爵令嬢と区別がつかないから、と」


そもそもアナスタシアはどちらとも関わるつもりはないというのに。


「呼び分ける必要があるのか?」

「やっぱりそう思うわよね?」

「ああ。家としての付き合いも個人としての付き合いもない」


暗にこの先も付き合うつもりがないと言っている。


「そうよね」


やはりそれなら呼び分ける必要もない。

兄は苦虫を噛み潰したような顔だ。


「……許可されたところで呼ぶかどうかはアナの自由だ」


苦肉の策だろう。


「呼ぶつもりはないわ」

「それがいい」


どんなに求められても呼ぶつもりはない。

カティラス侯爵令息の恋人たちや彼に想いを寄せる者に勘違いされるのも御免だ。

カティラス侯爵令息が何を考えているかはわからないがそれだけは避けてみせる。


そんな決意を込めてアナスタシアはしっかりと頷いた。


読んでいただき、ありがとうございました。

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