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幼馴染みは色気がだだ漏れらしいのですが、私にはわかりません。  作者: 燈華


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甘くて苦い

アナスタシアは足を止めた。


マティスがエスメラルダと立ち話をしている。

お似合いだ、と言われているのは聞いたことがあった。

エスメラルダの婚約者候補だという話も聞いている。


だけど。


こうやって二人で話しているのを実際に見たのは初めてだ。


談笑している二人は、まるで一幅(いっぷく)の絵のようだ。

よく似合っている。

お似合いだと言われるのも納得だ。

子供っぽいアナスタシアとは大違いだ。


「エスメラルダ様は、平気なのだわ」


ぽつりと呟く。

少なくともマティスの色気に少しは耐性があるのだ。

談笑している姿を見た人がいるのだから、十分考えられるはずのことだったのに。

少しも考えたことがなかった。


アナスタシアはくるりと二人に背を向けた。

そのまま足早にその場を立ち去った。






「まあ、そんな顔で淑女が歩いていては駄目でしてよ」


聞き慣れた声に顔を上げる。


「ごきげんよう、メイナー様」


メイナー伯爵令嬢は何故か周りを睥睨(へいげい)してからアナスタシアに歩み寄ってくる。


「何かあったのですか?」

「別に何もありませんよ」

「何でもない、という顔ではありませんけど。もう、仕方ありませんわね」


メイナー伯爵令嬢はポケットからごそごそと瓶を取り出した。

中には色とりどりの丸いものが入っている。

その瓶の蓋をぽんっと音を立てて開け、中から一つ取り出した。


「さあ、口をお開けなさいな」

「結構ですわ」

「つべこべ言わずに開けなさいな」


反論のために開いた口にメイナー伯爵令嬢がやや強引に丸いものを放り込んだ。

ころんと舌先で転がす。


それは、飴だった。


メイナー伯爵令嬢は自分も一つ()めながらアナスタシアを見る。


「今回は特別ですからね。まったく、いつも元気なのが貴女の長所でしょうに」


そんな長所を主張した覚えはない。


「あ、ほら、お迎えが来ましたわよ」


アナスタシアの後ろを見たメイナー伯爵令嬢はさっと瓶をポケットにしまった。


「アナ」


呼ばれて振り向けばマティスがいた。


「やあ、メイナー嬢、アナのことありがとう」


メイナー伯爵令嬢は少し頬を赤らめる。


「わたくしは何もしておりませんわ。それでは失礼しますね、バレリ様、クーパー様」

「あ、ありがとう。メイナー様」


鮮やかな微笑()みを残してメイナー伯爵令嬢は立ち去っていった。

見事な引き際だった。


「マティス、どうして?」


エスメラルダ様とせっかく一緒にいたのに。

とは言葉に出せなかった。


「アナがこっちに歩いていくのが見えたから。声かけてくれたらよかったのに」

「エスメラルダ様とお話されていたから」

「あの後ロンも来たんだよ。アナも来たらよかったのに」


邪魔にならないようにしたのだ。

同性の友人であるロンバルトならともかく、異性の友人であるアナスタシアが行っては気分を害するかもしれない。

これでも気を遣ったのだ。

だがそんなことは口にできない。


(おそ)れ多いわ」


結局言えたのはそれだけだ。


「エスメラルダ様は気さくな方だよ」

「マティスとも話せるみたいだしね」

「頑張って五分が限界だけどね。さあ、帰ろうか」


差し出されたマティスの手に少し躊躇してから手を重ねる。

少し引き寄せられてそのままエスコートされる。


ころんと飴を口の中で転がした。


甘い。

甘いのに苦い。

苦くて甘い。

まるで今のアナスタシアの心を表しているようだった。


読んでいただき、ありがとうございました。

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