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幼馴染みは色気がだだ漏れらしいのですが、私にはわかりません。  作者: 燈華


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学園のカリキュラム 2.ダンス2

札を引く。


「十二番」


札の番号を読み上げると近くにいた令息が近づいてきた。


「僕がパートナーですね。ダリル・ウードと申します。よろしくお願いしますね」


ウード家は確か伯爵家だったはずだ。


「こちらこそよろしくお願いします。アナスタシア・クーパーです。」


一応説明しておくと、令息が先に札を一通り引き、令嬢が引いた札を読み上げると同じ番号を引いた令息が令嬢を迎えに来ることになっている。

そしてきちんと名乗り合う。

これも出会いの一環なのだ。


アナスタシアはウード伯爵令息とともに札を教師に返し、彼にエスコートされてその場を離れる。

ウード伯爵令息は普通の令嬢よりも小さいアナスタシアの歩幅にきちんと合わせてくれる。


エスコートし慣れている。

きっと婚約者がもういるのだろう。

婚約者の方には悪いが授業の一環として諦めてもらおう。


彼にエスコートされて辿り着いたのは、ちょうど先程までマティスと踊っていたのと対角にある辺りだった。

どこで踊るか、踊り始めるかは特に決まってはいない。

マティスだけは一応窓際の端っこと決められているが。


「大丈夫でしたか? 速くありませんでした?」

「いえ、大丈夫です。合わせてくださってありがとうございました。大変でしたでしょう?」

「慣れているから大丈夫ですよ」


婚約者の方はアナスタシアのように小柄かあるいは少し年下なのかもしれない。

ふむと勝手にアナスタシアが納得しているとウード伯爵令息が微笑する。


「僕には弟妹がいるんですよ」

「うちは兄がいます」


なんだか本当にお見合いみたいだ。

何故かウード伯爵令息は苦笑する。


「妹のエスコートをすることもあるので慣れていると言いたかったのです。婚約者は残念ながらいません」

「あっ、ごめんなさい」


自分の勘違いが恥ずかしい。


「あ、いえ、僕のほうもちゃんと言わなかったのが悪いんです。それに、アナスタシア嬢のことが一つ知れてよかったです」


優しく微笑(わら)ってそう言ってくれる彼はきっといい人に違いない。


「私もウード様のことが一つ知れました」

「どうぞダリルと呼んでください」


えっと、こういう時は断ったら失礼よね……?


初対面のよく知らない相手を名前で呼ぶのに躊躇したが、断る理由も見つからず、アナスタシアが頷こうとした時ーー


「ああ、わたくしには無理です……」


さほど大きくはない令嬢の声が不思議とホール内に響いた。

みんなが何だ何だとそちらを見る。

もちろんアナスタシアも見た。


視線を集めたのはマティスとそのパートナーになった令嬢だ。

マティスのパートナーになった令嬢がふらりとし、そのまま床に座り込んでしまった。


教師が慌てて駆け寄る。

マティスは彼女を助けることなく少し離れた。


男性教師が彼女を近くにある椅子に座らせる。

女性教師が急いで水を持ってきて彼女に飲ませた。

彼女には少し休んでいるように言い、男性教師がパンパンと手を叩く。


「さあ、令息諸君。パートナーをダンスに誘うんだ」


どうやらいつの間にか全員が札を引き終わっていたようだ。

改めてウード伯爵令息と向かい合う。


「可愛らしいご令嬢、私に貴女と一曲踊る栄誉をくださいませんか?」

「はい」


差し出された手に手を重ねる。

ウード伯爵令息の手が腰に回る。少し、緊張する。


「えっと、足を踏んでしまったらごめんなさい」

「大丈夫ですよ」

「たぶん、踊りにくいと思います」

「妹で慣れていますから」


どうやらウード伯爵令息は妹のダンスの練習相手も務めているようだ。


「優しいお兄様ですね」


ウード伯爵令息にまた苦笑される。


「だから大丈夫ですよ。なんなら足を踏まれても大丈夫です。慣れていますから」


それにはアナスタシアも思わず笑った。


「踏まないように頑張りますね」


ウード伯爵令息の苦笑が微笑みに変わる。


ふと視線を感じた。

視線をそちらに向けると、その視線の主はマティスだった。


「何かバレリ伯爵令息は機嫌が悪いようですね」


ウード伯爵令息がマティスに視線を向けたまま言う。


確かにマティスは機嫌が悪そうだった。

壁に寄りかかり、こちらをじっと見ている。その顔にいつもの微笑みはない。


「そうみたいですね。目立つことが嫌いだから注目を集めたのが不本意なのかも」

「ああ、でしたら毎日大変ですね」


わかってくれる人がいた!


思わずアナスタシアはにこにこと微笑(わら)う。

ウード伯爵令息も柔らかい微笑みを浮かべた。

マティスの視線がさらに突き刺さった気がした。


後でウード伯爵令息の言葉を伝えてあげよう。

きっと喜ぶ。


不意にウード伯爵令息が耳を澄ますような動きをした。


「ああ、始まりますね」


言われて耳を澄ませば楽器の音が流れてきていた。危うく聞き逃すところだった。

そしてそのまま音楽に耳を澄ませて、(のが)すことなく最初のステップを踏んだ。




ウード伯爵令息は言葉通りリードが上手く、アナスタシアは彼の足を踏むことなく軽やかに踊りきることができた。




授業後に、


「あまりマティスに負担をかけるな」


ロンバルトに叱られた。

()せない。


読んでいただき、ありがとうございました。

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