peace.10-5
僕は真っ暗な洞穴の前に立たされている。シロさんに背中を押されながら――。
「シロさん!? 絶対無理! 僕一人だなんて絶対無理!!」
その洞穴は、とあるモンスターの巣なのだそうだ。
なんでもこの穴の中に住んでいるモンスターは、とってもおいしかったらしい。
「罰ゲームは絶対だ。へなちょこ、これ以上ごねると、縛りあげて穴にぶちこむぞ」
「縛られたら手が使えないじゃん!? 逃げられないじゃん!!」
「だったら黙ってさっさと行けって言ってんだろ。前に食ったけど、うまかったぞ。お前も食いたいだろ? 一緒に食おうぜ?」
「じゃあシロさんも一緒に行こうよ!」
「そしたらへなちょこの罰ゲームになんねえだろ。
大丈夫だ、ちゃーんと出口までおびき出したら俺が仕留めてやるから。お前はまず中にいるやつをここまで連れてこい。おら、早く行け」
シロさんに思いっきり蹴っ飛ばされた。
「いったっ! ……もう、ひどいなあ」
暗がりの中、僕はシロさんに言われたモンスターの姿を探す。
怖い。……怖い。…………っ怖い。
そんなに大きくないって言ってたから――。
そんなに速く走らないって言ってたから――。
もし見つけたら、すっごく遠くから石とかぶつけて、それからダッシュで逃げよう。
あとはシロさんにおまかせだ。きっとなんとかしてくれる。
だけど、すぐに行き止まりになった。
もうこの先には進めそうになかった。
あれ? ってことは、この巣は留守だったってことか。はは、ビクビクして損した。
壁に手をあてると、――柔らかくて、僕の手が壁に沈みこんだ。
……すごく認めたくないけれど、その壁はあったかかった。そして暗がりでよくよく目を凝らしてみると、……毛が生えている。
そして、壁が動いた。
もう僕は即・Uターン&猛ダッシュした!
シロさん……っ! 嘘つき!
メチャクチャでかいんだけど――っ!!
だってもう天井まで届くサイズだったよ! 穴のサイズめいっぱいの大きさだったよ!
僕は今までの人生で、死ぬかもと思ったことは、けっこうたくさんあった。
シロさんに蹴られたときとか、シロさんに吊るされたときとか、……あれ? シロさんばっかりだな。おかしいな。
まあ、とにかく、いま僕は死ぬかも、という恐怖に襲われながら、全速力で逃げていた。
すぐ真後ろにモンスターの気配がある。モンスターの息づかい。真後ろで大きな手が僕めがけて振り下ろす風圧。風を切る鋭い音――。
「シ、シ……っ、シロさああぁぁぁぁああんっ!!」
僕は洞穴の出口に向かって叫んだ。
あと少し――! ここを出れば、シロさんが後ろのこいつをやっつけてくれて、そしたらこいつの肉を焼いて、おいしいごはんが食べられる。
洞穴を飛び出す。まぶしさに目がくらむ。
「シ……シロさ……!?」
シロさんが、――いない!?
「ウソだぁぁぁあぁぁあぁっ!?」
なにこれどうすればいいのっ!? もしかしてこいつのこと僕一人で倒せってことっ!? 無理だよ! まだちゃんと姿見てないけど! 絶対すごく大きかったもんっ!
でも――もしかして、僕はシロさんとの筋肉を目覚めさせる特訓のおかげで、実は強くなってるとか? シロさん的には、僕が一人で倒せるくらいの力試しとしてあえてここに挑戦させたとか?
『行け! へなちょこ! お前なら倒せる!』とかそういう感じ? ついに僕の目覚めた筋肉が覚醒して真の強さが目覚めちゃうとか、そんな感じ? ……よし、やってやるぞ!
僕は勇気を振り絞って、剣を手に取り、ふり返った。
目の前のモンスターは4つ足で毛むくじゃらの獣だった。真っ赤な目をして、大きな牙と爪を持っている。
こ、怖い……! でも、負けるもんか!! 目覚めろ! 僕の筋肉!!
「てやああああっ」
僕は剣を振りかぶって、立ち向かった。
べちーん!!
そして、あっという間に吹っ飛ばされた。剣も飛んで行ってしまい、僕は地面に転がった。僕は全然強くなっていなかった。
ゆっくりとモンスターは僕に近づいてくる。よだれを垂らし、一歩、一歩近づいてくる。
【エサになる】
急に罰ゲームのカードに書かれていた文字が頭に浮かんだ。
待って。僕、こいつのエサになっちゃうの?
「ちょっと待って。僕へなちょこだよ? おいしくないよ? 見逃してくれない?」
ダメもとで話し合いに持ち込もうと思ったけれど、僕の体はモンスターの前足に押さえつけられ、もう逃げられなかった。
食べられる? 僕、食べられちゃうの? セリちゃんに会えないまま?
――嫌だ! セリちゃんに会えないままで死ぬのは嫌だ!!
セリちゃん! セリちゃん助けて――!!
モンスターの大きな口が僕に迫る……!
「うわぁぁあ!! セリちゃぁぁあんっ!」




