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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第10章 鍛練の白 ~submission~
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peace.10-3



「ぬあああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 森の中に僕の気合が響く。


「……でああああぁぁぁぁぁっ!!」


 なんかもういろいろ限界だ。頭がガンガンする。でもここで諦めたら、たぶん僕は死ぬ。


「……ふえやぁぁぁ……!」


 なぜかというと、僕は今、逆さに吊るされているからだ。足首を縛られて、木に吊るされている。


 ここからなんとか自分の腹筋を使って体を持ち上げ、足の縄をつかまないといけない。そして縄を解いて脱出しなければいけない。


 そして、僕をこんな目に遭わせているシロさんはというと、必死でがんばっている僕の顔めがけて、木の実をぶつけて集中できないように邪魔をしている。本当にひどい。


 しかも目の近くとかを狙ってぶつけてくるから、たちが悪い。いじわるすぎる。


 ああ、ダメだ。ちょっともう本気でヤバい。もうヘロヘロだ。


 もう、次が最後のチャンスだった。足はしびれて感覚はないし、頭がガンガンしてるし、景色がおかしな色になっている。たぶん、死にそうなのかもしれない。


「ふおおおぉぉぉぉぉ……っ! ――ふぎゃ!」


 最後の力を振り絞って、僕は腰からセリちゃんの斧を抜いた。そして足を縛っている縄を切った。


 当然、頭から落ちた。でもなんかもう、限界すぎてよく分からない。頭が痛いのもよく分からない。だって落ちる前から痛かったし。


 でもとにかく、助かったという安心感だけはあった。


 シロさんが倒れている僕を見下ろして言った。


「道具使ったからズルな。あとでペナルティカード引いてもらうから覚悟しとけよー」


 本当だったら、自分の足を縛っている縄をよじ登って、結んである木の枝で、体勢を整えてから解くのが正解。

 だけど僕は全然筋力が足りなくて、逆さでぶらんぶらん揺れるのが限界だった。


 あ、でもシロさんが邪魔しなければ、もしかしたら1回くらい成功するのかもしれない。きっとそうだ。絶対にそうだ。


 ちなみにこれは、シロさんにいじめられているのではなくて、僕が強くなるために、シロさんが考えた『目覚めよ、へなちょこ筋肉メニュー』なのだ。


 つまりこれは、僕が強くなるための特訓なんだけれど……なんか、自信がない。

 やっぱり、いじめられてるだけなのかもしれない。


「……あいつも、よく逆さで吊るしたなあ……」


 シロさんが遠い目をしながらつぶやいた。


「……あ、あいつって……?」


「ん? お前の大好きなセリちゃんさ。まあ、あいつの場合は、へなちょこと違って、完全簀巻(すま)きにして逆さ吊りだったけどなー。縄抜けがヘタクソなんだよなー、あいつ。

 たしか……あんまり下手すぎて、10秒おきに蹴っ飛ばしてたら、鼻血出しながら気ぃ失って……ふふっ……、殺しちまうところだったなあ……。ふふっ、懐かしいなあ」


 シロさん……それ、笑いながら言うことじゃないから……。


 きっとシロさんは僕のことを脅かそうとして嘘を言ってるんだ。


 だって逆さにした上に蹴るなんて……しかもシロさんの蹴りは本気で痛いし……。それを女の人にするなんて、人としてどうかしている。いくらシロさんでも、そこまでひどいことをするなんて考えられなかった。


 でも、もしかしたらセリちゃんも昔、シロさんに意地悪されたことくらいはあるのかもしれない。


 やっぱりシロさんは絶対にセリちゃんの王子様じゃない。もし本当に呪いを解いてくれる王子様だったとしても、絶対に素直に呪いなんか解いてくれないに決まってる。それだけはわかった。


 危険だ。危険すぎる……。絶対にセリちゃんと近づけるわけにはいかない。


 僕の目的は、いかにセリちゃんをシロさんと接触させないようにするかということに変わっていた。


 セリちゃんを見つけたら、もう超スピードでセリちゃんと二人ですぐに逃げる。即・逃げる。


 もう呪いとかそういうのはとにかく置いておいて、まずはシロさんから逃げる。即・逃げる。


 それから改めて態勢を整えて、それから呪いとか毒とかのことについて考える。

 とにかくそうするしかない。


 まずは第一はセリちゃんと会うこと。次はなによりも安全確保が最優先だ。


 僕は少しずつ、セリちゃんと合流したあとの計画を考え始めていた。


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