peace.10-1
朝起きて、僕はまず下を見た。そしてモンスターがいなくなってるのを確認してほっとした。
なんとか無事に生き延びることができてよかった……!
シロさんの真似をして幹と自分を結んでいた縄をほどき、恐る恐る木から降りようとして、――落ちた。
「あだだっ! ……いったぁ~!」
「……うるせえ……」
頭上からシロさんの機嫌の悪い声が聞こえる。
僕は打ちつけたお尻をさすって、焚き火を起こす準備をする。朝はまだ寒い。シロさんは毛皮にくるまって寝てるから快適だろうけど、僕は寒かった。シロさんはずるい。
……そういえば、朝ごはん、どうしよう。
麦はあるけど、水がない。水辺を探しに行くのは、モンスターに会うかもしれないから、一人で行くのは怖い。
野盗だって、もしかしたらまだ近くにいるかもしれないし……。
シロさんが一緒に来てくれるなら心強いけど――。
でも……シロさんを起こすのは、もっと怖い。
「ロバリーヌがいてくれたらなあ……」
ため息をつきながら、ロバリーヌの乳の味を思いだした。
甘くて、おいしかった。乳粥もおいしかったけど、そのまま飲むのもおいしかった。
突然、ロバの鳴き声がした。振り返るとそこには――。
「ロ……ロバリーヌ!?」
僕が驚いて声をあげると、ロバリーヌがもう一度、返事をするように鳴いた。やっぱりロバリーヌだ。
「ロバリーヌ! 無事だったんだね! 良かった! いまちょうどロバリーヌのことを考えてたんだよ!」
僕がそう言うと、ロバリーヌはなんとなく嬉しそうな声で鳴いて、僕にすり寄ってきた。
僕は体にいっぱい葉っぱや枝をつけていたロバリーヌの体をなでてあげた。
うん、大丈夫。怪我はしてないみたいだ。
「……うるっせえなあ……」
上から、またシロさんの不機嫌な声が聞こえた。
「シロさん! ロバリーヌが帰ってきたよ!
朝からまた、おいしい乳粥食べれ……いったぁ!」
硬い木の実が飛んできて、僕の顔にぶつかった。
寝起きのシロさんは機嫌が悪い。だからといって、人の顔に木の実をぶつけていいわけではない。痛いし、ひどい!
「うるせぇ。……寝かせろ」
木の上で毛皮にくるまったシロさんが文句を言っている。
ふんだ。先に僕がお腹いっぱい、ロバリーヌの乳粥食べるからいいもんね。シロさんの分なんて残してなんてやらないんだ。
シロさんなんて、ずーっと寝てればいいや。
でもシロさんは、粥がちょうど煮えたあたりで起きてきたのだった。
「……お、ロバンペラ。帰ってたのか、いい子だ」
シロさんが眠そうな顔と声で木から降りてきた。でもシロさんは、僕みたいに木から落ちたりしない。……ずるい。
そしてロバリーヌの名前が毎回違うのは、僕はもう気にしない。僕は気にせずロバリーヌと呼ぼう。
「……ん? お前、顔、腫れてるぞ? どこかでぶつけたのか? だっせえの」
「…………シロさんのせいだけど」
まさか覚えていないなんて――。
僕は信じられない気持ちでシロさんを見た。もしかして、僕に木の実をぶつけたときは寝てたのだろうか。
「は? 知らねえし。そんなことより……」
シロさんが目を細めて、僕を睨む。でも僕はシロさんを先回りして、指を指した。
「お茶ならそこ! ちゃんと見て!」
「……お。やるじゃん」
シロさんはだるそうに腰をおろすと、お茶に口をつけ――。
「……冷めてる。……28点」
すごーくマズそうな顔をした。
「淹れてもらって文句って……! じゃあ自分で淹れるか、ちゃんと朝起きてよっ!
僕は声かけたよ、ちゃんと! だけどシロさんが怒って僕に木の実をぶつけるんじゃないか!」
それを……! なに28点って……! 点数つけるなんて、失礼すぎる!
「……うるせぇなあ、朝からキャンキャン叫びやがって」
シロさんは、耳に指を突っ込んで顔をしかめた。
もう! ホントやだもうシロさんは!
シロさんに比べれば、ステラは全然マシだった!
ステラは一応、出したものに文句を言ったことなんてなかった。
ステラ、めんどくさいって思ってゴメン! ここにもっとすごいめんどくさい人いた! シロさんに比べれば、ステラは全然普通の人だったよ!
僕はステラに心の中で謝った。




