piece.9-8
突然ロバが鳴いたので、僕は驚いた。
茂みが音を立て、暗い森の中から人が出てきた。
「お、ずいぶん弱そうな二人組だな。
命は助けてやるから、荷物とロバ置いてどっか行きな」
大きな剣を抜き身で持った男たちが、5人も出てきた。……囲まれてしまっている。
野盗だ。逃げなきゃ。
僕は思わず腰を浮かせた。だけど――。
「そうそう、こういうやつなー。
こういうのを見るとさあ、もう嬉しくってしょうがなくなっちまうんだよなあ。わざわざ狩りに行ってくるとか言って、お気に入りを連れ回して、遊ぶんだぜ? 悪趣味だよなあ」
シロさんはまったく気にした様子もなく、僕に説明を続ける。
……いや……あの……シロさん……? 大ピンチですよ?
「俺はどっちかって言うと、穏健派ってやつ? いくらクズでも殺すのはかわいそうじゃね? って見逃してやる方なんだよなあ。それで団長様に目をつけられちまってさあ。すっげえ面倒くせえのなんのってさあ」
無視された野盗たちが苛立ち始める。
「おい、なに一人でしゃべってんだテメエ!」
「こいつ、びびって俺たちが見えないふりしてんですよ、アニキ」
「ガキ相手に偉そうに講釈垂れながらか? へっ! とんだカッコつけ野郎だぜ!」
野盗のリーダーがシロさんのことを蹴り飛ばした。僕は恐怖で体がすくんでしまった。
大変だ! シロさんを怒らせたらダメだ!
でも、シロさんは僕の予想とは違って、蹴り飛ばされた姿勢のまま動かない。
「――シロさんっ?」
嘘でしょシロさん。強いんじゃないの……?
「口ほどにもねぇ男だな、そのへんで転がってろよ。
うまそうなロバだなあ、ぶっ殺して食おうぜ。おい、そこのガキ! 持ってる食料、今すぐ全部出しな!」
僕はロバリーヌを背中にかばった。このままじゃロバリーヌが殺されちゃう。
「ロバリーヌ、早く逃げて!」
野盗たちが下品な声で笑う。
「ロバリーヌだってよ! 名前なんかつけてやがる。じゃあお前らの目の前で、このロバリーヌちゃんを生きたまんまバラしてやんよ! 一緒に食おうぜ! ロバリーヌちゃんをよお!」
野盗が手をのばす。僕はロバリーヌになんとか逃げてもらおうと、ロバリーヌの体を押しながら、もう一度逃げるように声をかけようとして――。
――ぼとっ。
なにかの、落ちる音がした。




