piece.8-10
セリちゃんはまだナナクサと会ってるのかな。ちゃんと話ができたのかな。
……というより、シロさんは本当にセリちゃんの呪いを解く王子様なのかな……。
「……こ、このあと……合流するの?」
僕がそう聞くと、シロさんは僕のことをじっと見つめた。笑うでもなく、睨むでもなく……。
シロさんの無表情は怖い。睨まれた方がまだマシかもしれない。何考えてるか分からなすぎて怖い。
それにしたって、やっぱり目の前に立たれると怖さの迫力がすごい。
別に体が大きいとか、強そうとか、そういうのじゃないんだけど……。
蹴られたときの怖さを、僕の体が覚えてるせいなのかな。それともシロさんの性格の悪さがにじみ出てるからなのかな?
たしかにちょっとした呪いなら吹き飛んでいきそうな気はする。
ただ……もっと怖い呪いをかけられそうな気はするけど……。
やっぱり、シロさんがセリちゃんの王子様になるのはやめてほしい。
「……そうだなあ、どうすっかなあ。
たしかに、なんかコソコソしてたっぽいしなあ。俺たちに隠れて誰かに会ってんのかもなあ」
やっぱりそうだ。ナナクサもセリちゃんと話をしたかったのかも!
「まだお呼びはかかんねえけど、こっそり誰と会ってんのか、見に行ってみんのもおもしろいかもなあ」
「……ぼっ、僕も……!」
シロさんが僕を静かに見おろす。目が合って、一瞬だけ背中がぞくっとした。
「僕も……ついていっていい?」
ステラは言ってた。僕には迎えが来る星回りだって。それはきっとシロさんのことだ。
シロさんについていけば、セリちゃんに会える。
僕はそう直感した。
「……ああ、そうか。
お前がベソかいて呼んでた『セリちゃん』が、団長様の逢引相手か……」
薄笑いのシロさんに、僕は言い返した。
「ベソなんてかいてない!」
「かいてただろ? 『ぐすっ、セリちゅわあん、セリちゅわあん、ボクぅ、ボクぅ……』って、聞いてるこっちの背中が寒くなるような泣きべそかいてたぞ、お前。うえ、気色わりぃ」
「そんな声出してない!!」
「ついてくんなら勝手にしな。俺は待たねえし、ついてこられねえやつは置いてく。
……じゃあな」
そう言うとシロさんは、そのまま歩き出してしまう。
「ま、待って! 荷物取りに行くから! ちょっとだけ待って!」
シロさんはすごくめんどくさそうに僕を振り返った。
やばい! 絶対に待ってくれなさそう……!
「なら40秒で支度しな。1……2……3……」
え!? 秒!? 短すぎ! しかももうカウント始まってる!!
「は、はい!」
僕は大慌てて家に戻り、うるさいステラに適当な言い訳をしながら飛び出した。
絶対に40秒は過ぎてると思ったけれど、シロさんは待っててくれた。
「時間超過の罰として、お前この荷物持てよ。
繊細なもんも入ってるから、落としたらお仕置きな」
シロさんは大きな荷物袋を指差し、すぐに行ってしまう。
「待って、シロさ……! ――は!? なにこれ!? おっも!!」
あわてて荷物を手に取ったけれど、重すぎて持ち上がらない。
なにこれ? いったい中身なに!?
「シロさん!? シロさん待って!!
これ重すぎて……! シロさん!? シロさぁぁぁぁあんっ!」
しかしシロさんは、聞こえてるはずなのに振り向いてくれない。
「くっ! このっ……! ぬおおおおおぉぉぉぉっ!!」
僕は全ての力を結集して、荷物を背負った。体が潰れてしまうんじゃないかってくらい、荷物はずっしりと重たかった。
「おっも!! なにこれおっも!! なに入ってんの一体!?」
でもシロさんは聞こえてるはずなのに返事をしてくれない。
「シロさん! 待って! もうちょっとゆっくり歩いて!! ねえ! シロさん!?」
僕はとんでもなく重たい荷物を背負い、シロさんを追いかけた。
きっとこの先にセリちゃんがいる――。
僕は、そう確信していた。
第8章 稟質の紫
<HINSITU no MURASAKI>
〜incubation〜 END




