piece.8-4
ステラは、ほとんど杖にしがみつくような状態で必死で歩いた。セリちゃんが支えてくれることはなかった。
でもセリちゃん自身も、重い荷物――と言ってはいけないのかもしれないけれど――を持っていたから、そこまで早くは歩けなかった。
セリちゃんは、ずっと話しかけていた。ステラではない、別の誰かに向けて――。
ステラが話しかけても、セリちゃんには聞こえないのか、返事をしてくれることはほとんどなかった。
野営をするとき、セリちゃんは必ず人数分の食事を並べていた。セリちゃんとステラと、……もう七人分。
「ねえ、その子たちをどこへ連れて行くつもりなの?」
ステラが懸命に何度も声をかけると、何日か経ってようやくセリちゃんはステラに返事をしてくれた。
でもセリちゃんはステラがいたことに、いま初めて気がついたみたいに、とても驚いていたらしい。
セリちゃんは虚空を見つめながらつぶやいた。
「どこ……? どこへ連れて行ってあげればいいんだろう……。
どこに行きたい? って聞いても誰も返事をしてくれないの。誰も答えてくれないの……。
私のせいで……、だからみんな……何もしゃべってくれない……私のせいで……」
そのままセリちゃんは静かに泣き出した。ステラは優しく静かな声でセリちゃんに声をかけてあげた。
「私ね、『星読』っていって……その人にとって一番いい未来を選ぶ手伝いをしてきたの。
あのね……? その子たちの心は、もうとっくに星の仲間になって空を回っている。
その身体が、土に還って、水に溶けて、また生き物に宿る――そういうふうに、また世界を巡っていかないと、その子たちの星になった心は、身体に縛られて自由になれないの。……わかる?」
ステラの話を聞いたセリちゃんは、真っ赤な目をしてステラへ尋ねた。
「そしたら、みんな……こんな苦しい顔……もうしなくて済む……? また……笑ってくれる……?」
「ええ。ゆっくりと休める素敵な場所を見つけてあげる。きっと、穏やかな気持ちで空に還れるわ」
そのあとはステラがセリちゃんを先導して、小高い丘に案内した。
そこを子供たちのお墓にするために――。
「その子供たち……どこから連れてきたのか、もちろんあんたも気になると思うけど……さすがの私でも、訊けなかったわ……」
ステラが僕のことを見て、小さく息をついた。
「未だに訊けない……。ううん、今だから、もう訊けない。
もうセリに、思い出させたくない……。あんな顔のセリ、もうさせたくない」
ステラは、気を引き締めるように強く息を吐くと、ふたたび語りだした。
――――ステラはセリちゃんの星を読んで、セリちゃんの星にまとわりついている黒い影が、少しでも小さくなるような場所をお墓に選んであげた。
ステラが僕に説明してくれる。
「私がノームのことを知ったのは、そのときね。一晩明けたら、丘一面が立派な花畑になっていたわ。
私には姿を見せてくれないけど、星が教えてくれた。セリは人間以外の種族との縁が深いって。
セリは花の送り主の正体がわかって、泣いて喜んでたわ。少しだけ、セリの星に光が戻ってきたのを感じたの。
子どもたちの亡骸を埋葬してようやくね……ようやく、セリが私の名前を聞いてくれたの。『いまさら!?』って私が言ったら、『ああ、そっか、悪かったね』って……ようやく笑顔を見せてくれたの、ちゃんと私の目を見ながら――。
でもね、私もセリの名前を知らなかったから、ここでようやくお互いを名前で呼び合えるようになったってわけ。ふふ、長い道のりだったでしょ?」
ステラの笑顔は、どこか誇らしそうだった。
僕の胸は、なにかでいっぱいになっていた。
ありがとう。
泣いてるセリちゃんを笑顔にしてくれて。
ありがとう。
泣いてるセリちゃんの傍にいてくれて。
そんなことを僕がステラに言うのは、変だろうか。
あんた生意気、とステラに怒られるだろうか。
結局僕は、その言葉は口にしないで、心の中だけでステラに伝えることにした。




