piece.7-12
ノームにもらったカブの種を植えて一晩寝たら、ばっちりカブが生えていた。
ハーブと一緒に煮込んでると、ロキさんが鳥を仕留めてきてくれた。早速さばいてもらってスープに入れる。今日は朝から、肉が入った豪勢なスープだ。すごく美味しそうだった。
「……カイン、その剣どうしたんだ?」
ロキさんが僕の剣にすぐに気づいた。ピッカピカに磨かれて、新品のようになっている僕の剣に。
「……あー……えーっと……」
実はノームに注意されたばかりだった。
グートのように、小人を捕まえて自分の欲望を満たそうとする人間はたくさんいる。
特にノームの作った金属の細工は、人間たちの中では高価な値がつけられ、売り買いされるという。
だから、ノームが剣をピカピカにしてくれたなんて言ったら、大変なことになってしまう。
僕が答えに詰まっていると――。
「大地を統べる地の女神が、カインの美しさに心を奪われてしまったの……」
もっともらしい顔で、ステラがとんでもない嘘をつきだした。僕が否定しようと、口を開くより先に――。
「なんだって!? そいつはすげえ! その女神さんって美人だった? 大地の恵みたっぷりだった?」
「なるほど。女神さんはこういう系統の顔が好きなわけか。しかもメンクイな上にショタ……さすがは母なる大地と言うわけか……やられたぜ」
ロキさんとワナームさんが、その冗談に乗っかった。ステラはまだ続ける。
「地の女神は、自分にちっともなびいてくれないこのボウヤに、もので釣る作戦に出たわけなの。それがその剣よ……」
「女神、俗っぽい手を使うな! 大地の恵みが有り余ってんな!」
「もので釣った愛なんて所詮はかりそめだ。俺が本当の愛を教えてやるから、俺の剣も磨いてくんねえかな〜」
スープを食べつつ、二人とも律儀にステラの冗談につきあう。ブライトさんも穏やかにうなづいている。
なんとなく空気感で、誰もこの話を真剣にしている人がいないということは分かった。みんなふざけてるだけだ。
「と、言うわけでボウヤはその剣を高値で売り飛ばして、換金して来なさい。
あんたにそんな立派な剣はもったいないわ。どうせ素振りしかしないんだから、重いだけが取り柄の鈍らで十分よ!」
「好き勝手なことばっかり言うな! これは僕の剣なんだ!」
僕は怒鳴って席を立つと、食事もそこそこに畑を耕しに外へ出た。
本当は鳥肉入りのカブスープを、あと2杯はおかわりしたかったけど……。
だけど、ステラと話しているとイライラしてしまって、一緒にいたくなくなる。
セリちゃんがいたら、きっとこんなにイライラしたりしないのに。
きっと笑いながら、場を和ませてくれて、僕はお腹いっぱいスープを食べてるはずなんだ。
セリちゃん……。
今どこにいるんだろう……。
ナナクサには会えたのかなあ……。ちゃんと話ができたのかなあ……。
セリちゃん……早く会いたい。
「話は聞いた」
僕が考えごとをしながら畑を耕していると、ノームが土の中から突然顔を出してきた。
僕は危うくノームの頭の上に鍬を振り落とすところだった。
「危ない! ちょっと! 出てくるとこ考えて!」
僕はしゃがみ込んで、小声でノームへ注意した。幸い近くに人はいない。
「売ってもよいぞ。というか暇つぶしに適当に錆びたもんがあれば磨きたいだけなんじゃ。なんか錆びてるもんおーくれ♪」
「え? いいの?」
「磨くまでが楽しいんじゃよ。終われば知らん。なんか錆びたもんあるかい?」
「うーん……何でもいいの? じゃあ、農具とかでもいい?」
僕とノームは、その日から少しずつ、村の人たちの農具を順番にピカピカにしていった。
お礼なんかいらないって伝えているのに、服を譲ってもらったり、食べ物を分けてもらえたり、お金をもらえることもあった。
僕がノームにそのお金を渡そうとしても、人間の金なんか使わんからいらん、と言われてしまった。たしかにそりゃそうだ。
村の人たちの農具がすべてピッカピカになるころ、村の作物はノームの魔法がなくても、十分な収穫ができるようになっていた。
そしていつの間にか村中に、僕が大地の女神さまとラブラブだという噂が広まってしまっていた。
この村の人たちはみんな、人の噂話を信じすぎだと思う。




