piece.6-5
セリちゃんが、かなり大きな音を立て続けたにもかかわらず、この屋敷に忍び込んでるかもしれない泥棒たちは、この場所に寄ってきそうな気配はなかった。
もしかしたら、小人たちがすでに全員眠らせたあとなのかもしれない。
「どうしたセリ?」
「なんか見っけた?」
セリちゃんの立てた音に集まってきたのは、みんな小人たちだ。
「……当たり。抜けたよ」
がこん、と音がして、床に接してる壁の石レンガが抜け落ちた。抜けたレンガはかなり下の方へ落ちた音がした。
「誰かのぞいてきてくれる? 一応、高さが分からないから……これ、命綱ね」
セリちゃんが縄を出してきて、小人たちを振り返る。小人の一人がその縄を受け取ると、自分の体に結び付けた。
「よし、じゃあおれが行ってくるから、ポイント……」
まだ話してる途中の小人に向かって、セリちゃんが早口でかぶせてきた。
「ちなみにここを見つけるきっかけになったのは、ここにいるカインだから。もしこの中にレプラホーンがいた場合の全ポイント加算はカインにつくから。そこんとこヨロシク」
まわりの小人たちが一斉にブーイングし出す。
「えー! なにそれ、ずっるー!」
しかしセリちゃんはまったく譲らない。
「ずるくない。悪いけど夜明けが来たらもう私は手伝えないよ。早く仲間を助けたいでしょ? 種族は違えど、小さき者たちの同盟的な関係なんでしょ? 助けに行かないの? ポイントの方が大事? へー、そうなんだー。仲間よりポイントなんだー。へー、ピクシーってそういう種族なんだー。わーひどーい」
「あーもう! わかったよ! ちぇ、セリには敵わないなー」
命綱を縛った小人が、文句を言いながら穴の中へと入っていった。
しばらくすると、「セリー! 大当たりだ! たくさんいるー!」と声が聞こえた。
「よし、急いで助けよう。おじいちゃん! 穴広げて」
セリちゃんが声をかけると、小人のおじいちゃんがやれやれと重い腰をあげた。
「どらどら……。広げてもいいが、建物が崩れても知らんぞ。ここで仲良く潰れてもいいなら、このあたりの壁をみんな土に還すが……」
「結界張れたでしょ? おじいちゃん二人で穴の拡張。残りのおじいちゃんはここ一帯の結界。急いで。時間がない」
「いつにも増してノーム使いが荒いのう……」
僕がポカンとしてセリちゃんと小さいおじいちゃんのやり取りを見ていると、子供みたいな見ための小人たちが僕に近づいてきた。
「はじめましてー! ねえねえ、あなたセリのニュー彼ピッピ?」
「……え?」
彼ピッピの意味が分からず、僕は返答に迷う。僕のまわりに小人たちが一気に集まってきた。
「うおー、セリやるじゃん。今度の男はだいぶ年下だな!」
「ついに年下の男か……セリも年とったってことだな……。うんうん、成長を感じるなあ」
「あらあらどうもぉ! うちのセリがお世話になってますぅ! うちの子ちょっと性格キツイけど、根はいい子なんですよぉ! 仲良くしてあげてくださいねぇ!」
どうしよう……。なんて返事すればいいんだろう……。怖い……。
「こら! 勝手に私の保護者みたいなノリやめて!」
セリちゃんが僕たちの方に文句を言いながらやってきた。た、助かった……。
「セリちゃんは、小人と友だちだったんだね」
僕の質問に答えたのはセリちゃんじゃなくて、小人の方だった。
「チッチッチッ、おれたちを小人でまとめて欲しくないね! おれたちはピクシー、あのじいさんたちはノーム、お前のはいてる靴を作ったのはレプラホーンだ。どうだ! 全然違うだろ?」
どうしよう……。全然わかんない。みんな同じに見える。白髭が生えてる人がノームだってことだけが、かろうじて区別できた。
あれ? でも黒い髭が生えてるのもいるなあ。あの人はノーム? ピクシー? レプラホーン? どうしよう。やっぱり区別が難しい……。
「今夜はみんな迷彩で黒い服着てるから私でも区別つかないよ。ほら、崩れるから、みんな結界の中に入ろう。おじいちゃん、お願い」
セリちゃんが僕たちを結界の中に誘導する。
ノームが壁に魔法をかけた途端、壁が柔らかく崩れて大きな穴があいた。
建物が崩れるかもって言ってたけれど、グートの屋敷はほんの少し揺れただけで、上から天井が崩れ落ちてくる気配はなかった。




