piece.6-4
グートの屋敷は真っ暗だった。セリちゃんが小さな声でようやく経緯を説明してくれる。
グートの屋敷のどこかに、レプラホーンが大量に閉じ込められている場所があるらしい。
前に立ち寄った休憩所で、小人を攫おうとしていた悪い男たちに気づいたセリちゃんは、夜中にレプラホーンの住処を見つけ出して、逃げた方がいいと教えてあげたらしい。
その時に、グートがレプラホーンの仲間たちを閉じ込めているという話を教えてもらったそうだ。
そして僕がレプラホーンに作ってもらった靴は、セリちゃんがグートから仲間を助けると約束したことで、お礼として作ってもらったものだったのだ。
そういうことなら僕も靴のお礼に、がんばらなくっちゃいけない。
セリちゃんが暗がりを指さして、僕に注意をする。
「見てカイン。このどさくさに紛れて、金目のものを盗もうとするやつらが入り込んでるみたいだ。だいぶ荒らされてるから、足元に気をつけて。……まあ、間違ってふんづけても、起きたりしないとは思うけどね」
僕たちが進む先は、すでに小人たちに眠らせられた大人たちが、いびきをかいて眠っていた。
油断していると、つまづいて転んでしまいそうだ。
僕の隣でセリちゃんが、「むぅ……着実にポイントを稼ぎに来てるな……。やばいなぁ……」と小さくつぶやいている。
でもセリちゃん……なんとなく楽しそうなのは、僕の気のせいかなぁ……。
暗くて顔がよく見えないけど、なんとなく声が楽しそうなんだよね。
でも、小人とダンスをするのは危険だって前に言ってたし……。恐怖の耐久なんとかって言ってたし……。
大変だ。がんばってポイント稼がなくちゃ。
僕はルールを思い出す。
えーと、小人ひとり救出につき5ポイント……だったっけ?
「ねえ、レプラホーンはどういうところに閉じ込められてるのかな?」
「人に見つからないようなところだろうね。
グートは、使用人たちに小人のことを正直に話すようなやつではなさそうだったしね。
私の勘だと、グートの自室のどこかに隠し部屋みたいなのがあるんじゃないかって思ってるけど……」
つまりセリちゃんが向かっているのは、グートの部屋ということだ。
「ねえセリちゃん、グートは小人に何をさせようとして捕まえてたのかな?」
「うーん、レプラホーンは靴作りの名人ってことで有名だけど……靴コレクターだったのかなあ?
あ、ほら見て。豪華な細工の靴がいっぱいある。
……あーあ、こいつの袋、グートのお宝でいっぱいだね。詰め込んでるところをピクシーにやられたみたい」
セリちゃんがあちこちに飾られている靴を見つけた。ということは、ここはグートの部屋なんだろうか。
セリちゃんの足元には、むにゃむにゃと寝言を言っている男が転がっていた。袋の中には燭台とか花瓶みたいなのが、たくさん入っている。
「こんなに靴があってどうするの? 足は2本しかないのにさ……。全部はけないよ?」
僕の言葉にセリちゃんはおかしそうに笑った。
「そうだね。はかない靴なんか靴の意味ないのにね。
もしかしたら、グートの正体は百本足のモンスターだったりしてね。
……ホントに、強欲な人の考えることって……分かんないね……」
急に僕の足がつるっと滑った。
「うわ! いてて」
「カイン大丈夫?」
「うん……。どうしたんだろ……。なんか急に足が引っ張られたみたい……」
「引っ張られた?」
セリちゃんが僕の足元に屈み込む。でも真っ暗であんまりよく見えない。別に床がツルツルするわけでもない。
「もしかしたら、仲間の作った靴に反応して、レプラホーンがいたずらしてきたのかもしれないね。近くにいるかな?」
セリちゃんは剣を鞘ごと抜くと、鞘の先で壁を叩き始めた。
『あん……! 痛い……!』
……ん?
「……セリちゃん……? いま変な声、聞こえなかった?」
「ん? 気のせい気のせい」
セリちゃんはものすごい勢いで、壁のレンガを連打している。けっこううるさい音だけど、いいのかな……。泥棒がこの音で集まってきませんように……!
僕はそわそわしながら、セリちゃんの行動を見守ることにした。




