piece.34-4
「ねえ? おじさん?」
僕はとっておきの笑顔で行商のおじさんに笑いかけた。
おじさんは目に見えてびくついた反応をする。
「あれかなあ? 火鼠の毛皮って嘘ついて偽物を売ろうとしてたこと、ディマーズの人たちには黙っててあげた方がいいのかなあ、僕」
おじさんはコクコク必死でうなづいている。
「あっれ~? でも〜、もしかして~、他の売り物も〜、実は噓ついて偽物を売ってたりするのかなあ?」
おじさんは今度はブンブン首を横に振る。
「そんなことは断じて! 火鼠は会話のちょっとした潤滑剤で!」
そこへレネーマが織物に手を伸ばした。
「ん? この模様、ツルーク地方の織り方に似せてるけど偽物だねえ。ここの縦の柄は1本しかないもんねえ。人の店にケチつけるくせに、ずいぶんと目利きのなってない商人もいたもんだねえ」
しれっとレネーマが言い放ち、底意地の悪そうな笑みでおじさんを見つめた。
せっかくなので僕もレネーマに便乗して、意地悪な笑顔でおじさんを見つめる。
「あっれ〜? じゃあおじさんはやっぱり正真正銘の偽物売りの人ってことなのかなあ? それはあんまり良くないなあ。街の人が騙されないように、おじさんのことディマーズに連れて行っちゃおうかなあ」
「わ、分かりました! 見逃してください! お好きな生地、お安く売らせていただきますから!」
半泣きのおじさんにすがりつかれながら、僕はレネーマに視線を向けた。
「だってさレネーマ、この中に欲しいのある?」
「じゃあ、この毛織を二巻きだね。折り柄は別にどうでもいいとして、毛自体の質は良さそうだからね。
……ああ、そういえば、うちは客が全然来てくれない貧乏な服屋なんだよねえ。
いくら格安でも、うちみたいな金のないボロ服屋は、質の良い商品を売ってる行商から商品を買うなんて、身の程知らずもいいところだよねえ? 格安なんて言われても、金が足りるかどうか……。ああ、残念だねえ。なんてったってうちは誰がどう見てもボロ店だからねえ……」
おそらく行商のおじさんに言われた言葉を、そっくりそのまま返したんだろう。
行商のおじさんは、不味い草を食べさせられた人みたいな顔をした後、がっくりと頭を垂れた。
こうして僕たちは偽物だったことを抜きにしても、相場の毛織物よりも――ほとんど無料も同然なほどの――格安で防寒着の生地を手に入れたのであった。




