piece.34-3
「見てくれ。これはフレネーラ地方のブリュー織だ! 保温性が高くてコートにすると最高さ! 他にもこれなんかどうだ? いい革だろ? 西の方に生息してるジーピスの革の一枚物だ。こんなレアものでこの値段は他じゃあ見たことがないくらい良心的な価格だよ! どうだい?」
いろいろ説明をしてくれるけど、何がどうすごいのか僕にはさっぱりだ。
レネーマの顔をうかがうけれど、難しい顔をして真剣に悩んでいるようにも見える。
おじさんのセールストークはどんどん過熱していく。
「そしてこれがうちの今回の大目玉商品だ! ものすごく珍しい希少品も希少品! これがあの幻の火鼠の毛皮さ!
正真正銘の本物だ! 見てくれこの艶! この毛並み! 稀少中の稀少だからね! 小さいもんだが、これを袖口なんかに装飾にして仕上げたコートといったらもう高級感が違うね! そんなの着た日にゃあ貴族だって一目置くこと間違いなしだ!」
あ、さすがにこれは分かった。
これ、真っ赤な偽物だ。
「レネーマ、ここで買うのはやめて市場で買おう。偽物を売るような人からは買わない方がいい」
僕はしゃがみこんで真剣に悩んでいるレネーマを立たせた。
怪訝な顔をするレネーマよりも先に、行商のおじさんが僕に怒鳴りつけてきた。
「はあ!? おいおい、なんだよガキのくせに! お前みたいなガキにこの毛皮の良さが分かるわけねえだろ? 本物を見たわけでもあるまいし! 俺を嘘つき呼ばわりたぁ黙ってられねえなあ!」
そんなこと言われてもなぁ。
「僕、持ってるんで。手触りも全然違うし。そんなに怒るならここでそれ燃やして見せてくださいよ。本物なら燃えないはずですよね?」
「……っ!」
おじさんが動揺している。
「一応、僕のはディマーズのレミケイドさんって人が火鼠の毛皮だって鑑定してくれたんですけど、僕のとそれは全然手触り違うから。
まあ、レミケイドさんが間違ってる可能性もありますけど」
「……ディ……ディマ……? レ……レミ……?」
ディマーズと聞いて、おじさんの顔色がどんどん蒼くなっていく。
どうやらあんまり真っ当な行商じゃないおじさんみたいだな。
僕はレネーマを見た。
「どうする? この人から買いたいやつある?」
レネーマはすっかり興味が失せた顔で、広げられた商品を一瞥する。
「このゴージアの毛織物なんかは、まあまあいいと思う」
「そのゴージアって毛だと何がいいの?」
「丈夫さだね。どうせあんたら危ない橋を渡るようなところに行くんだろ? 防寒だけじゃなく、強度も必要なら、順当な選択だね」
「それはありがたいけど、別にそんな危ない橋なんて渡る気ないけどなあ」
「何言ってんだい、ブラッドバスの二代目って呼ばれてるくせに」
「ブラ……ッ!?」
おじさんの目が飛び出しそうに見開いた。顔汗も半端ない。
困ったな、どうしよう。
こんな反応を見てしまうと、シロさんと買い物していた時のことを思い出してしまう。
自分の中で、もやもやと変な気持ちが湧いてくる。
ここにいないはずのシロさんが、にやにやしながら僕に悪い言葉を囁く気配がする。
気配だけのシロさんが、肘でつつきながら僕のことをそそのかし始めるのだった。




