piece.32-12
メトトレイさんが鋭い眼光で僕を見つめている。
僕の心の奥底まで貫くみたいに。
でも僕は怯まない。
ここまで来たら覚悟を決める。
僕は同じくらい力を込めて見つめ返した。
ここで意見が決裂したら、僕らは敵同士だ。
シロさんを助けるために、僕はセリちゃんを連れてここから逃げなければいけない。
「……なるほどね。私たちが信用できなくて黙っていたってわけ。ずいぶんとディマーズをなめてくれたものね。
馬鹿にしないで頂戴ね。私たちディマーズはどんなに悪い子でも更生させるギルドなの。悪い子だから殺してしまうなんて、それは私たちディマーズの仕事を奪う商売敵も同じよ。
ねえジセル? 商売敵はどうするのが正しいのかしら?」
「もちろん叩き潰しますね」
勝ち気に微笑み合う二人を見て、その言葉に嘘偽りはないと思えた。
「協力してもらえる、ということでしょうか?」
「もちろんよ。でもすっごく心外ね。
私、エイジェンのような排他的な考えは嫌いよって、前にあなたに話したはずだけど……全く信じてもらえていなかったようね」
わざと冗談っぽい言い方でメトトレイさんは言う。僕を責めているわけではないらしい。
「資金援助を受けているって言ってたので。
ディマーズみたいに規模が大きいギルドだと、お金もたくさん必要なんだろうし、だから援助者の機嫌を損ねるわけにはいかないんだろうなって。
あとは……さっきまでいたカシアって女の人も、もしかしたらエイジェンなのかもって思ったら、不用意に話せなくて」
「なかなか賢いわねカインくん、あなたディマーズに入らない?
メトトレイさんがウインクをしながらそんなことを言う。
きっと場を和ませようとしてくれてるんだと思う。
実際にこの場から張り詰めた空気が消えたことで、僕はすっかり緊張の糸が切れてクタクタだった。
この程度でくたびれていたら、とてもじゃないがディマーズは務まらないだろう。
「もしこの一件が片づいたら、考えておきます」
そんな社交辞令を返して、僕も笑った。




