piece.32-10
「ふーん、二代目はあの現場の主と知り合いってわけか。会っても殺されないくらいには仲がいいってことね。そりゃ大したもんだ」
焦る僕とは対照的に、のんびりした声で会話に混ざってきたのは他でもないジセルさんだった。
「ジセルも、行ってくれたんだね」
セリちゃんの言葉にジセルさんはうんざりした顔をした。
「レミケイドのやつ俺と目が合った瞬間、『来い』とも『行くぞ』とも言わず、顎でしゃくって呼びつけてったんだぜ? なあ、あいつ、俺のこと家来か何かだとでも思ってんのかな?」
「あはは、でもそれでついてっちゃうのがジセルだよね」
少しだけ和らいだ空気になったのを、再び緊迫したものに戻したのはメトトレイさんだ。
「死者は2名、先ほどまでご招待していたカシアさんのお父様とご主人のみ」
メトトレイさんの言葉を受けて、ジセルさんがまじめな顔で補足する。
「ええ、妙な現場でしたよ。一人は無傷のくせに壮絶な形相で死んでましたし、もう一人はこれでもかってくらい斬られてズタボロなのに、安らかな顔してて。どうなってんだよって感じでした」
ジセルさんのあとをメトトレイさんが引き継いだ。僕に向かって説明する。
「レミケイドたちが到着した時にはすべて終わっていたそうよ。屋敷の使用人や家族はみんな眠らされていて、その二名以外は全員無傷。もちろん実行犯が内部にいる者の可能性もあるから、今日は一人ずつ聞き取りをしていたの。カシアさんは別邸に住んでいたけれど、殺された二名の関係者でもあるから、聴取と安全確保も含めてお呼びしたの。
結局、屋敷内の人間にはナナクサにつながるような怪しい者はいなくて、そこにちょうどあなたが街で怪我人と接触してるって情報を手に入れたってわけ。
さあ、こちらの持ってる情報は出してあげたわ。次はあなたの番よ」
ここまで来たら腹をくくるしかない。
黙っていても事態は変わらない。新しい情報を得るために、僕はシロさんからの情報を提供することにした。
「アドリアという人の正体を聞きました」
僕はまずそれだけ言ってみんなの様子をうかがった。特にジセルさんの。
ジゼルさんは僕の視線の意味を理解したらしく、片眉を上げて反応した。
「レミケイドから軽く聞いた。ものすごーく簡潔にだけどな。エイジェンってやつだろ? でもあのおっさんがそういうことできそうなやつには到底思えないけどな〜。特に体型とか」
僕はうなづくと言葉を選びながら次の情報を口にした。
「その人が今まで何をしていたかを聞きました」
メトトレイさんがうなづいて僕へ「話せる?」と先をうながした。
「セリちゃんの毒が悪化する可能性が高いです」
僕の言葉を聞いても、セリちゃんの表情は変わらなかった。
怯むことなく、真剣な目をして僕の話を聞いている。
メトトレイさんが部屋を移動するか尋ねても、セリちゃんはこのまま話を聞き続けることを望んだ。




