piece.31-4
背中側には怪我はほとんどない。全部、前側につけられた傷だ。
命の危険がありそうな深い傷ではなさそうだけど、数が多すぎる。
その傷が、誰かと戦ったことでついたものだということは僕でも分かった。
「カイン食いもんは? 肉は? 肉食いたい肉。この前食ったあの肉出せ」
「その店はここからじゃ遠いから買ってないよ。えーっとね、その代わりに薄切り肉がいっぱい挟んであるパンがあるよ。あとはリンゴと……ちょっとシロさん、お酒は飲むために持ってきたんじゃないんだってば」
僕がパンを渡してあげようと目を離した隙に、シロさんは余っていたお酒に口をつけていた。
「もう消毒は済んだろ? なら本来の用途で使ってやるのが酒のためってもんだ」
「そんなに怪我してるときにお酒なんか飲まない方がいいと思うけどなあ」
「ちっ、たいして残ってねえじゃん。なんでもっと酒買ってこなかったんだよ」
「ふーん、なら着替えの服を売り払ってお酒に買い直してきてあげようか? その血だらけの服で街の中歩くことになるけどいいの?」
そこまで言われると返す言葉がないらしく、シロさんは黙ってパンにかぶりつく。
傷口に軟膏薬を塗り、包帯もギリギリだったけれど、途中で足りなくなることなく巻き終えた。
シロさんは僕が包帯を巻いている間、一言も文句も言わず、されるがままになっていた。
傷のせいで具合が悪いのか、ただ単に空腹だったのかは分からないけれど、黙々と買ってきたパンを食べきり、リンゴもきれいに芯だけ残して完食していた。
最後に僕が持ってきた服に着替える。
どう見たってサイズぴったりなのに、シロさんは「ちょっと足が短いな」とか言っている。絶対にそんなことないと思う。
僕とシロさんの身長も体格も、ほとんどそんなに変わらないんだから。
シロさんに持ってきた着替えは、前に僕がディマーズに侵入する前に買い足しておいたものだった。
万が一の時に備えて、買い貯めしておいたものをレッドの家に残しておいて助かった。
「さあて、ようやく日の下に出られる格好になれたぜ。カイン、礼におごってやるよ。飲みに行こうぜ」
気持ちよさそうに伸びをして、シロさんが立ち上がった。
「お礼はいいよ。貸しにしておく」
僕はシロさんが先に行ってしまわないように、進路を塞ぐ位置に立った。
「へえ、一丁前の口利くようになったじゃん」
「まあね、だからその貸しを今返してほしいんだ」
僕の言葉に、シロさんが僕を見る目の温度が下がるのを感じた。
緊張が高まり、僕のお腹がぎゅっと痙攣する。
「へーえ……一丁前の口利くようになったじゃん……」
圧を増すシロさんの低い声に、嫌でも背筋が寒くなる。
だけどここで引き下がるわけにはいかなった。




