piece.31-3
再びシロさんのいる路地に戻ると、さっきの場所にシロさんはいなかった。
もしかしてもうどこかへいなくなってしまったのかと心配になったけれど、もっと奥に移動しているだけだった。
細路地のつきあたりは周囲の建物の所有者たちの物置となっているのか、少しだけ広くなっていた。
屋根から差し込む光も多少は増えている。
これくらいの明るさだったら、まあなんとか怪我の手当をするのに支障はなさそうだった。
すぐに使わなそうな道具などが、無造作に置かれている。共有のスペースなのか、個人の私有地なのかはよく分からなかった。
シロさんは僕が戻ってきたことが分かると、何も言わずに服を脱ぎだす。
その重だるそうな動作から、シロさんが決して軽症ではないことが分かった。
「……それ、誰にやられたの……?」
僕の問いかけにシロさんは答える気はないらしい。無言で手を差し出してくる。
僕が持ってきた薬や包帯の催促だ。
僕はあきらめて荷物袋の中から持ってきたものを出していく。
手持ちのお金が少なかったこともあるけれど、僕があきらかに僕自身に不必要な買い物をしているのを巡回中のディマーズに見つかりたくなかったのもあり、悩んだ末に僕はレッドの店に立ち寄った。
レッドとレッドの奥さんは、なんとなく僕の雰囲気を察してくれて大きなカバンの中に僕が欲しがっているものを一式詰めて渡してくれた。
この中身にかかった費用は、レッドの家に残してきたお金から清算してもらうことになっている。
「どういう怪我してるか分からなかったから、消毒用にお酒もあるけど……」
そう言うとシロさんはようやく笑ってくれた。
「でかした。それは俺が飲むからよこしな」
シロさんが笑ってくれたおかげで、僕の緊張も少しほぐれた。
「もう、飲んだら意味ないだろ? シロさんに任せてたらダメな気がしてきた。オレがやるから。怪我した場所はここだけ? 足は? 怪我してない? もう面倒だから上だけじゃなくて下も脱いじゃってよ。どうせ着替えるでしょ?」
「なんだよ、俺の下半身狙ってんのか? いやーん、カインのえっちー」
そういう冗談は嫌いだから無視する。
シロさんはズボンを脱ぐ気はないようだけれど、僕が手当てをすることに異論はないらしい。
シロさんに近づくと、その怪我が刃物で斬られたものだということが分かった。
適当な布に酒を浸み込ませ、消毒のついでに体中についていた血もふき取っていく。
「痛くない?」
「酒が飲みたい」
質問の答えになっていないけれど、我慢できるということだと解釈して消毒を続けることにした。




