piece.30-3
その様子を見守っていたメトトレイさんが、「続けるわよ?」とセリちゃんへ声をかける。
セリちゃんはまっすぐにメトトレイさんを見つめ、深くゆっくりとうなづく。
それを確かめると、メトトレイは再び静かに語り出した。
「エイジェンたちの中には、少数だけれど独裁者の考えを良しとしない一派がいたの。『恐怖と暴力で民衆を支配することは間違ってる。この世界は独裁者だけのものではない』って、そう考えるエイジェンたちがね。
少しずつ年月をかけて、独裁者寄りのエイジェンたちの数は減っていった。
そして、ついに独裁者の一族の最後の一人が消えたの。
だからこうして、今の私たちの時代がある。独裁者のいない、私たちの世界が」
これで終わりのような言い方をメトトレイさんはしているけど、それで終わりなら今こんな話にはなっていない。
『暗殺の技術を絶やさないように』
『素質のありそうな子供を見つけては自分の子供として』
メトトレイさんの言葉で浮かんだのは、いつかのシロさんの声だった。
――『拾ってくるんだよ。消えても誰も悲しまないような、雑草みたいなガキをさ』
まだ続いているんだ。
独裁者がいなくなったのに、まだエイジェンたちは人殺しを続けている。
跡継ぎを見つけて、人殺しを続けさせている。
『きれいな世界のために、そんな汚れ役やりたいか?』
シロさんの冷たい目の奥にあった黒い光。
あれは、きっと――怒りだったのかもしれない。
レミケイドさんがセリちゃんのカップにお茶を注ぐ。
かなり煮詰まって黒っぽくなってしまっているお茶に、セリちゃんはゆっくりと口をつけて顔をしかめた。
「……ありがとレミケイド。あは、すっごく苦渋でマズ……。
でも、これくらいの方が頭が冴えるや」
大きく長い溜息をつくセリちゃん。
震えは止まったみたいだった。
「わかりました、メティさん……」
セリちゃんの静かな声が、妙に部屋の中で響いた。
「私を拾ってくれたキャラバンが、そのエイジェンってことなんですね……」
メトトレイさんを見つめるセリちゃんは、とても悲しそうな顔で微笑んでいた。




