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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第30章 首魁の黒 〜tradition〜
331/395

piece.30-3



 その様子を見守っていたメトトレイさんが、「続けるわよ?」とセリちゃんへ声をかける。


 セリちゃんはまっすぐにメトトレイさんを見つめ、深くゆっくりとうなづく。

 それを確かめると、メトトレイは再び静かに語り出した。


「エイジェンたちの中には、少数だけれど独裁者の考えを良しとしない一派がいたの。『恐怖と暴力で民衆を支配することは間違ってる。この世界は独裁者だけのものではない』って、そう考えるエイジェンたちがね。

 少しずつ年月をかけて、独裁者寄りのエイジェンたちの数は減っていった。

 そして、ついに独裁者の一族の最後の一人が()()()の。

 だからこうして、今の私たちの時代がある。独裁者のいない、私たちの世界が」


 これで終わりのような言い方をメトトレイさんはしているけど、それで終わりなら今こんな話にはなっていない。


『暗殺の技術を絶やさないように』

『素質のありそうな子供を見つけては自分の子供として』 


 メトトレイさんの言葉で浮かんだのは、いつかのシロさんの声だった。


 ――『拾ってくるんだよ。消えても誰も悲しまないような、雑草みたいなガキをさ』


 まだ続いているんだ。


 独裁者がいなくなったのに、まだエイジェンたちは人殺しを続けている。

 跡継ぎを見つけて、人殺しを続けさせている。


『きれいな世界のために、そんな汚れ役やりたいか?』


 シロさんの冷たい目の奥にあった黒い光。

 あれは、きっと――怒りだったのかもしれない。


 レミケイドさんがセリちゃんのカップにお茶を注ぐ。

 かなり煮詰まって黒っぽくなってしまっているお茶に、セリちゃんはゆっくりと口をつけて顔をしかめた。


「……ありがとレミケイド。あは、すっごく苦渋(にがしぶ)でマズ……。

 でも、これくらいの方が頭が冴えるや」


 大きく長い溜息をつくセリちゃん。

 震えは止まったみたいだった。


「わかりました、メティさん……」


 セリちゃんの静かな声が、妙に部屋の中で響いた。


「私を拾ってくれたキャラバンが、そのエイジェンってことなんですね……」


 メトトレイさんを見つめるセリちゃんは、とても悲しそうな顔で微笑んでいた。

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