piece.29-7
談話室で待っていると、レキサさんがフィルゴさんに支えられながら戻ってきた。
「……セリ姉。さっきはごめん、僕……混乱してて、もしかしたらひどいこと言ったかもしれない。……だとしたら、ごめんなさい」
セリちゃんは優しく微笑んで首を振った。
「ううん、レキサは何もひどいことなんか言ってないよ。それよりレキサ、寝てなくて大丈夫なの? 具合は? 吐き気とかはない?」
「だるいけど、大丈夫だよ」
レキサさんは疲れているように見えるけど、顔色はそこまで悪くはなさそうだった。
談話室にいるみんながレキサさんに注目していた。
レキサさんに――というよりもレキサさんからの状況の詳細報告を待っていた。
レキサさんもそれが分かっているようで、みんなを見回すと話し始めた。
「母さんと買い物をしているときに、急に甘い匂いを感じて――そこで意識が途絶えて、痛みで目を覚ましたら知らない部屋にいたんだ。
場所は普通の人が住んでいる普通の家。誘拐や監禁目的に使用されている雰囲気はなかったよ。日常的に家が使われている形跡はあったけど住人は不在。母さんも僕も、住人の寝室みたいな場所で拘束されていたんだ。……その時に、母さんに意識があったかどうかは、ちょっと覚えてなくて……。
でも、僕たち以外に部屋にいたのは女が一人だけだった。こっちでは見かけないような珍しい服を着て、とても長い髪を独特な結い方で束ねていて……僕が目を覚ますと、自分からナナクサだと名乗ってきたんだ。
そのあと、僕だけすぐに解放されて、家の外に出されて――……」
そこでレキサさんはいったん言葉を切った。
「最後にナナクサが僕に言ったんだ。『早く助けを呼びに行った方がいいよ。でないとあなたのお母さん、アタシが殺してしまうかも。急がないと間に合わないよ』って。だからすぐにでも誰かに伝えなくちゃって思ったんだけど、体が全然動かなくて……だから這いながら、なんとか巡回ルートまで合流して、誰かに見つけてもらわなくちゃって……」
誰かが手をあげてレキサさんに質問した。
「レキサのその傷は、ナナクサに?」
レキサさんは困ったように口ごもった。
「ああ、これは――……旧市街地でごろつきに絡まれちゃったときの怪我。動けない相手なんて格好の餌食だもんね。あれですごく時間をロスしちゃった」
「……お前……そんな状態でよく逃げられたな?」
「えーっと……これはあんまり大っぴらにしてほしくないから、母さんには黙っててほしいんだけど。
ちょっと強めの毒消しの技を思いっきりお見舞いさせてもらうことにして、なんとかその場から逃げたって感じ」
みんなから安堵の息がもれる。
「ごろつきなんて毒持ちみたいなもんだ。セーフセーフ。黙っとけ」
「そうだな。そいつらは仲間内でもめて同士討ちでのされちまっただけだ。レキサはそこにいなかった。それで決まりだな」
みんな聞かなかったことにしてくれるらしい。
「大丈夫だよレキサ、それこの前レミケイドもやってたから」
セリちゃんの一言にみんなの顔が明るくなった。
アダリーさんだけ露骨に眉を寄せてたけれど。
「なんだ。じゃあ合法だな」
「レミケイドがやらかしてんならもう誰がやってもおとがめなしだな」
「じゃあ緊急事態には一般人に毒消し発動可ってことな、覚えとくわ」
レミケイドさん=ディマーズのルールということをこの瞬間、僕は学習した。




