piece.29-1
ディマーズの門の前は、騒然としていた。
セリちゃんがレキサさんの名前を呼ぶ悲痛な声が夜のリリーパスの街に響く。
レキサさんの着ている服は泥まみれで、あちこちに血もついていた。
「状況を説明しろ」
騒ぎを聞きつけ現れたレミケイドさんの声に、動揺していたディマーズのメンバーたちの顔が一瞬で引き締まった。
レキサさんを抱えていたメンバーが報告する。
「街を巡回中に、ボロボロの怪我人が這いながら進んでいるのを見かけて声をかけましたところ、レキサでした。レキサによればボスが捕まっているから助けてほしいと……。
道中で見かけた仲間にはその場所を伝え、先に向かわせてあります。しかし、ボスを捕らえるほどの手練れであれば応援が必要と判断し、レキサを担いで至急ここに向かった次第です。
ボスが囚われている場所は旧市街、モルビー船着き場から北側、住宅地の一番奥とのことです。至急応援願います」
レミケイドさんはそれを聞くとすぐに指示を出した。
「自分が行く。オルミアとジセルも来てくれ。陽動の可能性がある。中の指揮はアダリーに任せる。備えてくれ」
同じくここに駆けつけていたアダリーさんが、怒りに震えながらレミケイドさんへうなづいた。
「私の代わりに、その身の程知らずの阿呆に地獄を見せてやれ。ボスを頼む」
頷きもせず、すぐに門の外へと駆けていくレミケイドさんを追いかけようとセリちゃんが腰を浮かせた。
「――私も……っ」
私も行くと言いかけたセリちゃんを、アダリーさんが黙らせる。
「どこに行くつもりだ。お前が役に立つ数少ない機会だろうが半人前エヌセッズ。レキサを救護室で手当てしてやれ」
セリちゃんは目に涙を浮かべたまま、苦しそうにうなづく。そしてディマーズの男に人たちに担がれたレキサさんと一緒に建物の中へと入っていった。
僕もあとをついていこうとすると、大きな音が響いた。
「……くそ!」
アダリーさんが荒々しく門を蹴りつけた音だった。
今まで見たことがないくらいに、ディマーズの人たちが動揺しているのが分かった。




