piece.28-10
「戻ったか。再現症状が出ていたぞ。危なかったな。あいにくボスはまだ帰っていない。なるべく早くボスに報告して、しかるべき対処を施してもらえ。
原因はこの菓子か? ならこれは没収する。貴様が部屋に戻ってくるまでには処分しておくからな。わかったな」
アダリーさんは床に落ちたものまで一粒残らず回収すると、怖い顔でセリちゃんを見下ろして言った。
「顔の腫れくらい自分で治しとけ。エヌセッズの得意分野だろ。これ見よがしに部屋に戻って見せつけてきたら……わかってるだろうな」
セリちゃんは腫れ上がった顔を手で押さえながら、力なくほほえんだ。
「うん、腫れが引いてから部屋に戻る。ありがとうアダリー、助かったよ」
アダリーさんが砂糖菓子の袋を持っていなくなってしまったのを見届けると、僕はセリちゃんの尋ねてみた。
「セリちゃんって、アダリーさんと同室なの?」
「うん、もともとディマーズって女の人が少ないから部屋は余ってるんだけどさ、私を個室にしておくとろくなことしないからってアダリーと同室になっちゃったんだよね。
街の子たちと部屋で隠れておやつ食べたりしてたしね。ふふ、あの時はいっぱい怒られたなあ」
もうセリちゃんの顔色は悪くない。
顔はアダリーさんがひっぱたいたせいで赤くなって腫れてるけど。
「セリちゃん……再現症状って?」
僕が尋ねた途端、セリちゃんの表情が曇った。
「ごめんねカイン、今は思い出すと毒が暴れだしそうだから……。メティさんが帰って来て、治療をしてもらってから話をしてもいいかな。そしたらちゃんと話すよ」
「う、うん」
急に外が騒がしくなった。
「おい! レキサがケガしてるぞ!」
「ボスは? ボスは一緒じゃないのか?」
レキサさんが怪我?
僕が反応するよりも早く、セリちゃんが建物の外へと飛び出していく。
追いかけるように外へ出た僕が目にしたのは、血と泥まみれになったレキサさんの痛々しい姿だった。
「……早く……! 母さんが殺される――! お願い……急いで……!」
レキサさんはそれだけ言うと、力尽きるように意識を失った。
真っ黒な空に、血みたいに真っ赤な三日月が出ていた。
不気味な事件の幕開けだった。
第28章 裂罅の黒
REKKA no KURO
~junction~ END




