piece.28-4
しかしここにはそれなりに人が出歩いているにもかかわらず、救いの手を差し伸べてくれる人は誰もいない。
どちらかといえば、僕たちの会話に一切興味を持たずに通り過ぎていってくれた方がありがたい。
「つーかさあ、お前ってさあ、本当にヤってる最中に『しゅきしゅきだいしゅっき』って言うのな。さすがに吹いたわ」
「ぎゃあああああああああっ! ふわああああああああっ! ひよおおおおおおおおっ!」
「うるせえよ黙れよ周りのやつらが見てんだろうが恥ずかしい」
シロさんの拳が僕の肩にめり込んだ。だがしかし痛みを感じるような余裕は僕にはない。
レミケイドさんとゼルヤさんに聞かれただけでも大ダメージなのに、まさかよもやあろうことかシロさんにまで……! 最悪すぎる……! もう終わりだ! おしまいだ!
「おーい、屋台の通りまで来たぞー。さっきの肉はどこの店だよ。顔おおってないで店を教えろ店を」
シロさんが僕の服の裾を引っ張るけど、僕にはもう顔を上げる気力すらなかった。もうおしまいだ。恥ずかしすぎる。この世の終わりだ。
「そこ……左の3つ先……」
「ふーん。じゃ、ごちな」
僕の腰のあたりがふっと軽くなった。顔を上げたときには、時すでに遅し。
「あ! シロさん! それ僕のお金!」
屋台に向かうシロさんの手には僕のお小遣いをいれていた革袋が乗っている。
一瞬ですられた! 最悪だ!
「ぼさっとしてるやつが悪い」
シロさんは舌を出し、完全に僕を馬鹿にした笑みを浮かべている。
もう最悪だ! 油断も隙もあったもんじゃない!
「ぼさっとしてたわけじゃない! さすがに怒るよ!」
僕はあわてて、性格も手癖も悪いスリの背中を追いかけるのであった。




