piece.27-6
え? 誰この人、何者? この人もディマーズのメンバーなの?
っていうかここ男性部屋なのに女性メンバーが勝手に入ってきていいの? 逆はだめだって聞いたけど?
「か……母さん……! 来るのが早すぎだよ……まだ、ほら、えーっと二代目に部屋の説明も全部終わってないのに……」
「あら! ごめんなさいね! 久しぶりにレキサと二人でお出かけできると思ったら、嬉しくってじっとしてられなくって。
あらあら初めまして。ご挨拶がまだだったわね。私はメトトレイ、ディマーズの責任者よ。あなたが二代目って呼ばれてる子ね? うふふ、うちのレキサと仲良くしてね」
「え? あ、はい。どうも……はじめまして……」
突然登場した迫力美人な女の人は、僕の手を両手で包み込むと、かなり至近距離で僕の顔をのぞき込んできた。
完全に圧倒され、僕は何も言葉が出なくなる。
これだけの圧は久しぶりだ。ナナクサしてるシロさん並みのプレッシャーだ。この女の人、絶対ただ者じゃない。
……ん? あれ? 今、レキサさん、この人のこと母さんって呼んだ……?
それって……つまり……?
「――え!? この人、もしかしてディマーズのボスの人!? すっごく怖くて強いって言われてるあのボスの人!?」
しまったと思ったときにはもう遅かった。心の声が垂れ流しだった。
またもや丸聞こえ案件だ。
レキサさんのお母さんな人であるディマーズのボスの人は、にっこりと笑みを深めた。
この笑顔を見た瞬間、僕の頭の中によぎったのは、罰ゲームの執行を宣言するシロさんである。
僕の脳裏に『死』の一文字が浮かぶ。
「うふふ、やあねえ。誰がそんな根も葉もないことを言ってたのかしら。誤解を解かないとだからあなたにそれを言った人のことを教えてくれる?」
もし名前を言ったが最後、その人は消される――。
なんだか分からないけどそんな予感がして僕は震え上がった。
ピークにまで高まった恐怖を救ってくれたのはレキサさんだ。
「母さん、二代目が怯えてるからやめてあげて。悪ふざけが過ぎるよ」
「あらやだ。ごめんなさいね。うふふ、冗談よ」
そう言ってレキサさんのお母さんな人であるディマーズのボスの人は笑うけれど、僕にはもう罠を発動する直前のシロさんにしか見えない。
もう恐怖でしかない。もしかして実はこの人シロさんなんじゃないかとすら思えてしまう。
だってシロさんみたいな人が、あちこちに何人もいたら世界は大変なことになってしまうはずだ。シロさんはシロさん一人で十分だと思う。
あれ? 一体僕はなんで今シロさんのことを考えてるんだろう。動揺しすぎて頭がおかしくなってるのかもしれない。
そんな僕のことなんかお構いなしに、ボスの人は上機嫌で語る。
「レミケイドが戻ってきてくれてから、私の仕事をどんどん片づけていってくれてね。おかげで久しぶりにゆっくりお休みが取れるの。
親子水入らずでお買い物なんて何年ぶりかしら。嬉しくって昨日は眠れなかったわ。
ね、レキサ、早く出かけましょ! 急がないとお休みが終わっちゃうわ!」
リリーパスの街を半壊させたという恐ろしいボスの人は、はたから見ていると(強めな圧はあるけど)お上品な貴族の女性にしか見えない。
よくよく見ると、レキサさんとも見た目の雰囲気が確かに似ている。でもレキサさんには全然圧はない。
「はいはい、分かったよ。
ごめんね二代目、また帰ってきたら話しようよ。夜には帰れると思うから」
苦笑いのレキサさんと、上機嫌で今にも歌でも歌いだしそうなボスの人を見送ってから、僕はレキサさんのベッドに腰を落とした。
一気に力が抜けてしまったせいだ。
これは完全にボスの人の気迫に負けたせいだと思う。
「……はー……、こわかったあ……」
思わずそんな言葉がもれる。
「怖いって誰のことかしら? 二代目さん?」
ひとりごとのつもりだったのに、まさかの返答が返ってきて血の気が引いた。
いなくなったと思ったボスの人がいる。でもレキサさんは一緒じゃない。
「忘れ物を思い出したの」
そう言ってディマーズのボスは、静かに部屋へと入ってきた。




