peace.26-6
見張りという名目で僕とセリちゃんは一緒の部屋にしてもらえた。僕は一日中、ずっとセリちゃんと一緒にいてもいいことになった。
僕たちが過ごす部屋は、客室――外から来た偉い人が泊まるときに使われることがある部屋だ。
もともとセリちゃんがここにいたときに使っていた部屋もあるみたいだけど、客室の方が都合がいいということで、レミケイドさんが使用許可を取ってくれた。
客室の壁は防犯上の理由で、わざと薄くしてあるのだそうだ。だから両隣の部屋へ音がよく聞こえるようになっていて、少しでも異変があれば隣部屋に待機している護衛の人がすぐに駆けつけられるようになっている。
四六時中の見張りまではできないけれど、客室の隣部屋にはディマーズの人たちが交代で入ってくれることになっている。もしセリちゃんの体調が急に悪化したり、毒が急に強まるような事態が発生したときはすぐに助けに来てくれる。
偉い人が泊まるための部屋だけあって、広いし家具も高そうだった。
前に貴族の人の別荘に泊まったときを思い出して――そして芋づる的に嫌な予感がしてきた。
……まさかシロさん、ここに泥棒しに侵入していたのでは?
リリーパスの街は物価が高いって聞いたし、もしかして持参金が尽きたから何か良からぬことをしているのでは……。
あー……なんか急に心配になってきたぞ。大丈夫かな、酒場でケンカなんかしてないかな。暗い路地裏でその辺の人を恐喝とかしてないといいけど……。
騒ぎを起こしたらすぐにディマーズに見つかっちゃうし、そしたらシロさん、ディマーズのお兄さんを拷問した罪で捕まっちゃうかもしれないし。頼むから大人しくしててよね、シロさん……!
僕がシロさんのことで頭がいっぱいになっていたそのとき――。
「セリ姉!」
客室の扉を開け、元気いっぱいの声と共に走ってくるレキサさん。
「レキサ! ――おっとっと……!」
勢いよく抱きつかれたセリちゃんはバランスを失って倒れそうになる。
「ご、ごめんねセリ姉、嬉しくてつい……。でも良かった、前に見たときより顔色も良くなってる……。ごはんは? ちゃんと食べてる? セリ姉は疲れててもすぐ無理するんだからちゃんと休める時は休まなきゃダメだよ。ちゃんと寝れてる?」
セリちゃんと話しているレキサさんは、今まで僕が見てきたレキサさんとちょっと印象が違っていた。
レキサさんって、もっと落ち着いてて穏やかで大人っぽい人だと思ってたけど、今のレキサさんは僕とそんなに変わらないくらいに見えた。
「あはは。ごめんね心配かけて。レミケイドと合流してから自分に治療するのも止めたし、何かあれば助けてくれる人が傍にいるってだけでだいぶ楽になってね、なんとか今はこんな感じで落ち着いてるんだ。
……あと、メティさんにはしこたま怒られたけど、フォリナーさんも呼んでくれたから……」
「フォリナー叔母さん? そっか……良かったね……」
なぜか二人の笑顔が微妙に硬い。思わず僕は話に割って入ってしまった。
「なんか二人とも、あんまり良かったねって顔じゃないみたいだけど……」
僕の質問には苦笑いしたレキサさんが答えてくれた。
「フォリナー叔母さんは、母さんとはあんまり仲が良くなくてね……。叔母さんが来るとディマーズの中がなかなか大変な空気になるんだ。……もう叔母さんは帰ったんだよね?亅
レキサさんはセリちゃんに念を押してから僕に説明を続けた。
「母さんとは考え方とか好き嫌いも正反対で、そのせいなのかは分からないけれど、フォリナー叔母さんには母さんの能力を無効化できる特殊能力があるんだ」
「え? それって毒を復活させるってこと?」
「ううん。治療で衰弱した人の体力を回復させることができるんだ……けど……あれ……? もしかしてできるのかな……?
叔母さんの性格だと、本当はできるけどあえて黙ってるとかありそうで怖い……」
だんだん顔が深刻になっていくレキサさんにつられて、セリちゃんまで険しい顔になってきた。
「……ねえレキサ、前にゼルヤから聞いたんだけどさ、若いころのメティさんって、フォリナーさんが標的を回復させられるのをいいことに、地獄の苦痛治療を連日連夜食らわせ続けて苦しめたって話……あれ、本当なの?」
「え? セリ姉なにそれ。僕初耳だけど? しかもそれ、今のディマーズ治療規定に引っかかるよ」
「まあゼルヤの話だから、嘘半分、誇張半分って思っててもいいとは思うけど」
「んー? おれがなんだってー?」
なんだかすごくタイミング良くゼルヤさんが現れた。




