piece.25-10
「おっや~!? 悪名高き指名手配犯、ブラっちを発見~! ってか、ほっつき歩いてて怒られないのか? さては隔離部屋から脱走してきたな! 強制送還してやる!」
大きな声でセリちゃんに近づいてきたのはマイカの街以来のゼルヤさんだ。
だいぶ制服が汚れてくたびれているし、旅の格好のままだ。いま戻ってきたばかりらしい。
アダリーさんやレキサさんの姿は見えない。戻ってきたのはゼルヤさん一人だけみたいだ。
「それは私にじゃなくてここのみんなに言って。さっそく夜通し3階の見張り番にされた挙句に、食事抜きでお産の手伝いまでさせられて、私もう倒れる寸前。そろそろ休ませて」
「休ませてほしいのはこっちだよ! ……ん? 今お産っつった? おいおい誰だよ収容者を孕ませたやつは! おいしい思いしやがって! レミケイドさんにバレたら始末書じゃ済まねえぞ〜!」
「そういう思考になるのはゼルヤだけだから。もともとご夫婦なの。旦那さんが先にここに来てて、身重の奥さんが旦那さんと一緒にいたいからって、泥棒してまでここに入ったんだってさ。
まあそんなで、奥さんの方はいつここを出てもいいくらいの人だったみたい。もともと入る必要もないような人だったし……」
そういえば、食事してるときも誰かが言ってたな。
僕みたいに人に会うためにわざと悪いことをしてここに入った人がいるって。
つまりその人が、さっきの照れ屋な古傷さんの奥さんだったってことか。
たしかにその話をしながら、あの女の人たち面白そうにどこかをチラチラ見てたしなあ。
古傷さん、きっと恥ずかしかっただろうなあ。
「なんだよそりゃ、愛だねえ……なんて言うとでも思ったか。そんなわがまま叶えちまう甘ちゃんはどこのどいつだ! オレが規律ってもんを指導してやる! 例外を許可してたら規範がなくなるってな!」
「メティさんだってさ」
セリちゃんの返事に、ぶーっとゼルヤさんが唾を吹き飛ばした。
「……え……ボスなの……? じゃあオレ……なんも言えない……。てかブラっち、ボスはボスって呼ばなきゃダメだって……怒られても知らねえぞ」
ディマーズのボスは、とても強くて怖い人らしい。
レッドたちも結構怖がっていた。
なんてったって、セリちゃんの保護者のモンスターさんと戦って街を壊してしまうくらいだから、きっとそのボスさんもモンスターみたいな人なんだろう。レキサさんを見てても全然想像つかないけれども。
「ねえゼルヤ? それよりレキサとアダリーは一緒じゃないの?」
「あ、そうだった。3階の大部屋に何人ぶちこめるか先に見て来いって言われてたんだった。入りきらないなら2階も使うし、それでもきついなら1階の軽いやつらを何人か解放しろってさ」
「わあ、大漁だね」
ニコニコ笑顔で返事をしたセリちゃんの胸ぐらに、不穏な笑顔を張り付けたゼルヤさんがつかみかかった。
「……ひ・と・ご・と・みたく言うなよなブラッド・バス? お前のせいでこっちは激務続きだったんだぞ? 通常業務も回しながら、あふれた子どもらをみんな保護して親元返したり、親がいないのはこっちで引き取り手探したり……」
顔は笑っているけれど、絶対に心中は穏やかではないゼルヤさんの不満を、あろうことかセリちゃんは耳に指を突っ込んで聞く気0のポーズだ。
「はいはいそれね。それ昨日も散々みんなに言われたからもう言わなくていいよ」
「言・わ・な・く・て・いいよ☆ じゃねーんだよ! そこで聞いてるお前! お前だって分かるだろ! オレらがどれだけ毎日大変な……! ん? あれ? お前……なんでさらっとここにいるわけ?」
ゼルヤさんがようやく僕に気づいてくれた。




