piece.24-9
当たり前と言えば当たり前だけど、僕はディマーズのメンバーたちに完全に包囲されていた。
気を失ったセリちゃんを抱えたままでは逃げるわけにもいかず、僕はあれよあれよという間に逃げられなくなってしまった。
完全な袋のネズミっていうやつだ。
セリちゃんとシロさんの戦闘の気配を感じた二階の見張り番の人が、こっそり増援を呼んでいたらしい。
満を持して登場したレミケイドさんを目にして、僕は怒られる覚悟をした。
……怒られるとかいう生易しいレベルじゃないとは思うけど。
「ずいぶんとふざけた真似をしてくれた。誰の入れ知恵だ」
手持ちランタンの灯りに下から照らされたレミケイドさんは凄みが増してて怖かった。
そしてディマーズの制服を着ているレミケイドさんは、着てないレミケイドさんに比べて三割増くらいに威圧感が増強している。つまりすごく怖い。
だけど、ここで怯むわけにはいかない。
「僕一人で考えました」
「侵入も一人か」
「はい」
まっすぐレミケイドさんの目を見ながら答える。レッドたちは絶対に巻き込まない。そのつもりだった。あと、一応シロさんも。
「彼女は君を、ディマーズと関わらせたくないと考えていた。
ディマーズには敵が多い。アスパードのような手合いがまた現れるとも限らない。君の命を守りたかった。君にもしものことがあれば、彼女は完全に壊れてしまう。そこまで説明しなければ理解できなかったか」
静かに、抑えるような、レミケイドさんの目と声――。
レミケイドさんの言いたいことは分かってるつもりだった。
もしディマーズと関わることで、僕に何かの危害が加えられることがあれば、セリちゃんが傷つく。
これ以上セリちゃんの心に傷をつけたら、本当に毒に支配されてしまうかもしれない。
僕だってそんなのは嫌だ。
だけど離れたくない。どうしても傍にいたかった。
だから――。
だから僕は切り札を出す。
潜入に失敗したら、次に成功する保証はない。
もし見つかったら、もうきっと次にセリちゃんと会える保証はない。
だから、もし見つかった場合は、ここから追い出されないための手段を使うつもりでここに来た。
その先にどんな苦しいことがあったって、どんな痛いことがあったって、耐えてやるつもりだった。
「僕はここから出ません。ここにいます」
僕はレミケイドさんをまっすぐに見つめて、はっきりと告げた。
レミケイドさんの目が冷たく細められる。
「それはできない」
「そんなことはありません。僕をここから出せないはずです」
レミケイドさんの言葉にかぶせて、僕は言い切った。
切り札を――使ってやる。
「僕も毒持ちです。
だから捕まえてください。僕にはアスパードの毒がうつってます。治療しなければ、僕はきっとアスパードみたいになるかもしれません」
アスパードの名前を出した瞬間、この場の空気が一変したのが分かった。
もう後戻りはできない。
僕もここに囚われる。
ディマーズと関わりのある人物ではなく、ただの危険な毒持ちとして。
それならセリちゃんの近くにいられる。
これが僕の切り札だった。
第24章 不撓の黒
<HUTO no KURO>
~infiltration~ END




