piece.24-2
欲を言わせてもらえば、1階からではなくいきなり3階から侵入したいところだけど、そうそう都合よく上から侵入させてくれるような経路は見当たらない。
収容者の脱走を防ぐ意味もあり、出入りできそうな場所は正面入り口のみのようだった。
姿が見えなくても、扉の向こうには門番くらいいるだろうというのは容易に想像がついた。
門番交代のタイミングでもつかめればいいんだけれど……。
これ以上の深入りは中止して、あとは観察だけにしておこうかな……そんなことを考えていた矢先、人の気配が近づいてきたので僕は物陰に身を隠した。
何かを抱えた男が建物の正面玄関をノックし、声を殺して呼びかけていた。
「おーい、夜食のお届けもんだぞー。バレたら怒られるぞー」
やはり門番がいたらしく、すぐに扉が開いた。顔を出した門番は、夜の訪問者の手に持っている袋をのぞき込んだ。
「……はあ? 夜食? そんなん誰が頼んだんだよ。バレたら怒られるだろうが」
明らかに不審そうな声で問いただす門番。
でも話し方が気安いし、警戒してる感じでもない。ということは、走ってきた男もディマーズのメンバーなのだろう。夜食を持ってきた方の人は、小声で急かすようにしゃべった。
「そんなの知るかって。至急っていうから持ってきてやったのに。
こんなん持ってんの、こっちだって見つかりたくないってば。
頼むから受け取ってくれって。すぐ戻んなきゃ。非番なのにこんなとこに立ち寄ってんの誰かに見つかったら、怪しまれて怒られるっての」
夜食を強引に押しつけると、すぐに駆け足でその場を去っていく。
「あ、おい! 夜食なんて誰が……!
あ……まさか……ブラッド・バスか? ホントにあのお騒がせ女は……」
セリちゃんがここにいる――!
夜食を受け取り、背を向ける男の言葉を僕は聞き逃さなかった。
足音を消して駆け出す。
扉が閉まる前に指をかけ、足を突っ込んで閉まるのを防ぐと同時に、驚いて振り返った門番の首をつかみ、強く親指を押し込んだ。
数秒で意識が落ちるはず――!
しかし、意識が落ちるどころか抵抗されてしまう。
声を出されたら終わりだ。
相手の体を全身で押さえ込み、声を出されないよう口も押さえつけながら、何としてでも意識を失わせようと格闘する。
あれ? おかしいな。なんでうまくいかないんだ?
やばい。マズいぞ。これもしかして大ピンチかも――!
僕が侵入失敗を覚悟したそのとき――。
「場所がずれてんだよ。20点」
耳元で低い声が聞こえたと思った瞬間、ふわっと体から力が抜けて、僕は尻もちをついていた。
顔を上げると僕が苦戦していた相手のすぐそばに、真っ黒な影が絡みついていた。
僕がまばたきをしたほんのわずかな間に、男の人は影に魂を吸い取られたみたいにぐったりと崩れ落ちていく。
黒い影が今度は僕に近づいてきて手を伸ばす。ヒヤッとした感触が僕の首に貼りついた。
「押さえんのはここだよここ」
強く喉を圧迫され、僕の意識も飛びかける。僕は必死で声を絞り出した。
「シ……シ……! シロさ……っ! ギブ……! ギブ!」
僕は落ちる寸前のところで解放してもらった。
そう。
シロさんだった。
僕の目の前にはシロさんがいた。
うんざりしたような、あきれたような……いや違うな。
僕を馬鹿にするような意地悪な半笑いを浮かべたシロさんが、僕の目の前にいた。




