piece.20-4
日が暮れる前に、なんとか街道沿いの休憩所に到着し、僕たちは無事に宿も確保することができた。
たくさん歩いたから腹ペコだ。
食堂で食べ物を注文して待っている間、僕はずっと感じている視線のことが気になっていた。
――誰かに見られている。
そわそわして、僕はなんだか落ち着かない。
だけどセリちゃんはよく寝れたおかげなのか、とてもリラックスした表情で食堂のメニューを眺めている。周りを警戒しているような素振りは全くない。
レミケイドさんはといえば、無表情すぎて何を考えているか全然分からない。
……僕の気のせいなのかなぁ?
「ねえねえカイン、もし私が食べきれなかったらさ、残り食べてもらってもいい?」
いいよ、と僕が答えようとするより先にセリちゃんに答えたのはレミケイドさんだ。
「残さず食べろ。ただでさえ衰弱してる。速やかに最大限の栄養を摂れ。これは君の仕事だ」
セリちゃんが口を尖らせてレミケイドさんを睨んだ。
「仕事って……。
あーもう、なーんか急に食欲なくなってきたなあ」
ほっぺまで膨らませて、まるで子供みたいだ。やっぱりセリちゃんは怒った顔もかわいい。
「んもう、セリちゃんったら。
そんな子供みたいな……」
僕がそこまで言いかけたときだった――。
「やっぱり! どこかで見た面だと思えば!
この女、賞金首だ! 【皆殺しのセリ】だ!」
食事をしていた男が突然立ち上がって大声を上げた。
しまった! またやっちゃった!
つい普通にセリちゃんって呼んじゃった!
もう! いい加減学習しろよ! 僕のバカ!
一方、指をさされている当のセリちゃんは、ほんのちょっとだけ目をまんまるにして頭をかいていた。
「……あ、しまった。普通にフードかぶるの忘れてた。
レミケイドがいるから自分がお尋ね者になってたことすっかり忘れてたよ」
そんなセリちゃんは、あせっている僕とは正反対で、まるでなんてことないみたいに呑気なもんだ。
「それは俺のせいか?」
レミケイドさんが面倒そうにため息をつくと、席を立った。
「おい、全員でとっ捕まえて賞金を山分けってことでどうだ?」
男が声高に周りへ声をかけると、腕に覚えがありそうな男たちが次々に参戦してきた。
大変だ。セリちゃんを守らないと――!
僕もあわてて戦闘態勢に入る。
僕だって戦える。僕だってセリちゃんを守れる――!
今こそシロさんとの特訓で覚えた技を出す時だ。
見せてやる! 必殺の――……!
……? ……ん? ……必……殺?
"必"の"殺"……?
いやいやいやいや! 殺したらダメじゃん!!
「カイン?」
ダメだよ! 殺はダメ! 必の殺も殺の必も両方ダメ! ダメ絶対!
アスパードはさすがに絶対に殺さなきゃって思って、めちゃくちゃ覚悟決めて殺してやるって思ったけど、こんな通りすがりの人たちはいくらなんでも殺しちゃダメだよね! うん! 絶対にダメ!
だってほら! シロさんも言ってたし。
『この伝説のただの棒を受け継ぎし者は、殺し=罰ゲーム』って!
そんなことしてたら会う人会う人、みーんな殺してかなきゃいけなくなるじゃん。なにそれ。どれだけ罰ゲームしなくちゃいけないのさ!
そんな罰ゲーム地獄されたら僕のほうが絶対に死ぬって!
えーと、必殺じゃないやつってなんかあったっけ? えーと、えーと……。
「カイン? カイン~?」
……あれ? おかしいな?
もしかして僕、シロさんから一撃必殺技しか教わってない……?




