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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第19章 再起の黒 〜derivation〜
195/395

piece.19-2



 リリーパス。


 ディマーズのギルドがある街。


 セリちゃんがアスパードのせいで、毒に飲まれてしまった場所。

 セリちゃんの大切な子供たちが、殺されてしまった街――。


「そ。ディマーズの本拠地があるおっきな街。死なないようにするには、そこに戻らなくっちゃ」


 ディマーズに戻らないと死んでしまうってこと? つまりそれは――。


「毒の治療を……するってこと?」


「というより……」


 説明しかけたセリちゃんが、軽く咳こんだ。

 レミケイドさんがセリちゃんの言葉を引き継ぐ。


「彼女の場合は治療のし過ぎだ。すでに過度の治療による末期症状が出ている。これ以上の治療は死に直結する。

 彼女に必要なのは毒から完全に隔離した場所での休養だ。そんな場所はディマーズの拠点内にしかない」


「……休めば、治せるの……?」


 僕はすがるような気持ちでレミケイドさんを見つめた。

 レミケイドさんの冷たい眼が、僕を静かに見つめ返した。


「死ぬ気で休めば」


「レミケイド……その冗談……面白くない……」


 セリちゃんが咳をしながらも、しっかり口を挟んでくる。そんなセリちゃんをレミケイドさんは完全に無視だ。すぐに部屋を出て行く。


「行動は早い方がいい。馬車を調達する。君の足に合わせていれば、リリーパスに着く前に確実に死ぬだろうからな」


 部屋を出る直前にレミケイドさんが残していった容赦ない宣告は、僕を震え上がらせるには十分だった。


 だけど――。


「……馬車でリリーパスか……。懐かしいなあ……」


 なぜかセリちゃんは笑っている。


 あまりにも穏やかな笑顔に、僕は心配になった。


「セリちゃん……。ねえ、どうしてそんなに普通にしてられるの?

 死ぬの……嫌じゃないの……?」


「あ、ごめんごめん、心配させちゃったね。もちろんまだ死にたくないよ。

 ……人の命をたくさん奪ってきた私が、こんなこと言える立場じゃないんだけどね。

 普通にしてられるのは――そうだなあ……1番は、カインが傍にいてくれてるおかげかも」


 そう言って笑うと、セリちゃんは僕の頭をなでてくれた。


 セリちゃんに頭をなでてもらうのは、すごく久しぶりだった。


 胸がいっぱいになって、目の奥が熱くなる。

 このままじゃ泣いてしまいそうで、僕は歯を食いしばってなんとかこらえた。


「僕? じゃあ2番は?」


「んー……レミケイドが間に合わせるって言ったから、大丈夫なんだろうなあって」


 どうやらセリちゃんは、レミケイドさんのことをすごく信用しているみたいだ。


 もともとセリちゃんはディマーズのメンバーだったから、レミケイドさんとは仲間同士だ。

 きっとセリちゃんから見ると、レミケイドさんは怖い人じゃないのかもしれない。


 でも、いくらセリちゃんの仲間だと言っても、僕にとってみたらディマーズの人はやっぱり怖い存在だった。

 エヌセッズのロキさんと比べると、全然雰囲気が違う。


 僕はレミケイドさんのことが怖かった。

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