piece.19-2
リリーパス。
ディマーズのギルドがある街。
セリちゃんがアスパードのせいで、毒に飲まれてしまった場所。
セリちゃんの大切な子供たちが、殺されてしまった街――。
「そ。ディマーズの本拠地があるおっきな街。死なないようにするには、そこに戻らなくっちゃ」
ディマーズに戻らないと死んでしまうってこと? つまりそれは――。
「毒の治療を……するってこと?」
「というより……」
説明しかけたセリちゃんが、軽く咳こんだ。
レミケイドさんがセリちゃんの言葉を引き継ぐ。
「彼女の場合は治療のし過ぎだ。すでに過度の治療による末期症状が出ている。これ以上の治療は死に直結する。
彼女に必要なのは毒から完全に隔離した場所での休養だ。そんな場所はディマーズの拠点内にしかない」
「……休めば、治せるの……?」
僕はすがるような気持ちでレミケイドさんを見つめた。
レミケイドさんの冷たい眼が、僕を静かに見つめ返した。
「死ぬ気で休めば」
「レミケイド……その冗談……面白くない……」
セリちゃんが咳をしながらも、しっかり口を挟んでくる。そんなセリちゃんをレミケイドさんは完全に無視だ。すぐに部屋を出て行く。
「行動は早い方がいい。馬車を調達する。君の足に合わせていれば、リリーパスに着く前に確実に死ぬだろうからな」
部屋を出る直前にレミケイドさんが残していった容赦ない宣告は、僕を震え上がらせるには十分だった。
だけど――。
「……馬車でリリーパスか……。懐かしいなあ……」
なぜかセリちゃんは笑っている。
あまりにも穏やかな笑顔に、僕は心配になった。
「セリちゃん……。ねえ、どうしてそんなに普通にしてられるの?
死ぬの……嫌じゃないの……?」
「あ、ごめんごめん、心配させちゃったね。もちろんまだ死にたくないよ。
……人の命をたくさん奪ってきた私が、こんなこと言える立場じゃないんだけどね。
普通にしてられるのは――そうだなあ……1番は、カインが傍にいてくれてるおかげかも」
そう言って笑うと、セリちゃんは僕の頭をなでてくれた。
セリちゃんに頭をなでてもらうのは、すごく久しぶりだった。
胸がいっぱいになって、目の奥が熱くなる。
このままじゃ泣いてしまいそうで、僕は歯を食いしばってなんとかこらえた。
「僕? じゃあ2番は?」
「んー……レミケイドが間に合わせるって言ったから、大丈夫なんだろうなあって」
どうやらセリちゃんは、レミケイドさんのことをすごく信用しているみたいだ。
もともとセリちゃんはディマーズのメンバーだったから、レミケイドさんとは仲間同士だ。
きっとセリちゃんから見ると、レミケイドさんは怖い人じゃないのかもしれない。
でも、いくらセリちゃんの仲間だと言っても、僕にとってみたらディマーズの人はやっぱり怖い存在だった。
エヌセッズのロキさんと比べると、全然雰囲気が違う。
僕はレミケイドさんのことが怖かった。




