piece.18-7
『かわいい名前考えてくれないと、カインの質問に答えてあげないから』
めちゃくちゃな要求だ。
それにしたって、なかなか偉そうな剣だなあ。よくしゃべるし……。
これだけしゃべるのに、今まで僕が一緒にいたとき、よくずっと黙ってられたなあ。
おっと、それよりもかわいい名前か……。
ロバリーヌとかロバンペラとかは――――さすがにダメか。怒らせないほうがいい。
僕はものすごく真剣に、セリちゃんの剣を見つめた。
細身で、ちょっと緩やかにカーブがかかってて、きれいな装飾の鞘。
派手ではなくて、品があって落ち着いた感じ。
色はくすんだ感じの白っぽい色で、セリちゃんの雰囲気とよく似ていた。
「……三日月みたいだよね、色とか形が」
僕はなんとなく思ったことを口にした。
『ヤダ素敵! いいじゃない! なら月を思わせるような素敵な名前をつけてね』
おっと、注文が入ったぞ。
「えーと、じゃあルナ、とかは?」
『うわなにそれ! 安直〜! 芸がなーい!』
グサッと僕の胸に何かが刺さった。相手が剣だけに。
……あれ。いま僕、面白いこと考えちゃった?
『んー、もうひとひねり! あんまり他とかぶらないやつがいいの〜! カイン〜! おねがーい!』
もうひとひねり? なかなか面倒な注文をつけてくる剣だなあ。
仕方なく僕は頭をひねって考える。
月か……月……。
たしか……前に村で子供たちと一緒に文字を教えてもらっていたときに、月夜にしか咲かない花の話を読んだ気がする。
あの花の名前、なんてったっけ?
「エピ……? オキシ……あれ? なんだったっけ?」
『え? なになに?』
「月夜の晩にしか咲かない、すごく綺麗な花の名前。花びらが細長くて白いんだって。もしかしたら似てるんじゃないかなって思って……。
でもごめん、名前が長くて思い出せなくて……エピ……えーと」
『素敵! それ採用ね! じゃあアタシ、今から『エピ』でいいわ! エピーでもいいし。あ、エピーのほうがかわいいかも! うん! エピーね! エピーで決定!』
え? そんなんでいいの? 案外適当? ルナは安直だとか文句言っといて?
「……う……う……ん」
セリちゃんが寝返りを打った。
『あ、マズイわ。セリが起きちゃう。
いい? 私がカインとしゃべってたことセリに言ったらダメよ! バラしたらエピー、カインのこと切り刻んじゃうんだからね!
はいじゃあもうこれで会話は終了〜! バイバーイ!』
「――はいっ!?」
いやいやいや! ちょっと待ってよ!
僕はこんな茶番がしたかったんじゃなくてさ!
セリちゃんのことで大事な話があったから話しかけたんであってさ! 君の名前を考えるためじゃないんだけど!? しかも切り刻むってなに!? 怖っ!
剣だけに!?




