piece.18-4
セリちゃんのため息が聞こえた。
「……カイン……。ごめんね……私のせいだ。巻き込んでごめん……」
「違うよセリちゃん! 悪いのは僕のせいだよ。僕が油断して捕まらなければ……!」
「私のせいなの……私と関わらなければ……カインは……」
セリちゃんが顔を覆う。声が震えている。
「セリちゃん!」
僕は自分のベッドから降りて、セリちゃんの寝ているベッドに腰を下ろした。
動いたときに体中のあちこちが痛かったけど、セリちゃんが心配しないように、なんでもないふりをする。
顔を覆っているセリちゃんの手に、自分の手をそっと重ねた。
触れていないと、セリちゃんが消えてしまうんじゃないかって、すごく怖くなったから。
セリちゃんの指先を思わずぎゅっと握る。
セリちゃんが、いなくなってしまわないように――。
「そんなこと言わないでよ。僕はセリちゃんが一緒にいないとダメなんだ。
こんな怪我なんか、全然たいしたことない。
セリちゃんと会う前のほうが、もっとひどい目にあってた。セリちゃんがそこから僕を助けてくれたんだよ? 忘れたの?」
セリちゃんがほんの少しだけ微笑んでくれた。
目を細めたときに、涙のしずくが一筋流れていった。
「忘れてないよ……覚えてる……。
だけどね、あれは違うよ。私がカインを助けたんじゃない。
……あれはカインが……」
「……? 僕が?」
「ううん。なんでもない……足、痛いよね……?」
セリちゃんが手を伸ばして僕の足に触れる。
ふわっと包み込むようなあたたかさが広がる。
そして痛みが和らいだ。ざわざわする感覚も一緒に消えていく。
セリちゃんが、僕と初めて会ったときにしてくれたやつだ。
懐かしさで胸が苦しくなった。
「それ、『痛いの飛んでけの魔法』だよね?
ロキさんも使ってたよ」
ロキさんの名前を出すと、セリちゃんの表情が和らいだ。
「そう。昔ね、エヌセッズの人から教えてもらったの」
そうだ。エヌセッズで思い出した。
エヌセッズのメンバーの証である斧――セリちゃんの宝物を、ようやくセリちゃんに返すことができる。
「セリちゃん……はいこれ。
遅くなったけど、約束の斧……返すね」
僕は腰のバックルから鎖を外し、鎖ごと斧をセリちゃんに返した。
そして、ずっとずっと言いたかった言葉を口にする。
やっと、ようやく言える。
「おかえり。セリちゃん……」
セリちゃんの顔がくしゃくしゃに歪む。
震える手でそっと斧を受け取ったセリちゃんは、大切な宝物をぎゅーっと胸に抱きしめた。
毛布の中に顔をうずめたセリちゃんは、そのまま毛布の中で小さく縮こまった。
静かな部屋に、セリちゃんの押し殺した嗚咽が響く。
一人で泣かせてあげたほうがいいのかもしれない。
だけど毛布の中から伸びた手が、僕の服の裾をつかんでいた。
セリちゃんも僕と離れたくないって思ってくれてるのが伝わってくる。
すごく嬉しかった。
大丈夫だよ、セリちゃん。僕はちゃんとここにいるよ。
心の中でそう呟いて、セリちゃんの手に自分の手を重ねた。
僕だって、セリちゃんから離れたくない。
もう二度と離ればなれになんかなりたくない。
僕はずっとセリちゃんの傍で静かにしていた。
空気みたいに。
ここにはセリちゃんしかいないから、好きなだけ泣いていいんだよって、心の中でセリちゃんに伝えた。
セリちゃんが泣き疲れて眠るまで、僕はずっとセリちゃんの隣にいた。
ただずっと黙って、ただずっと静かにしていた。




