piece.18-3
バルさんの顔が輝く。
「お! セリも起きたか?」
バルさんが真っ先にセリちゃんのベッドに駆け寄った。
……くやしい。
僕が一番最初に駆けつけたかったのに。
痛みで動きが鈍った自分の軟弱さを呪った。
「大丈夫かセ……」
「――うわぁぁぁあっ!」
セリちゃんが悲鳴を上げてベッドから飛び起きた。だけど自分の体を支えきれず、そのまま床に転がり落ちてしまう。
「お……おいセリ! 落ち着け!」
すぐにバルさんがセリちゃんを助け起こそうとするけれど、セリちゃんは暴れて抵抗する。
だけど途中で、相手がバルさんだと気づいたらしい。
「……バル? なんでここに? え……? アスパードは……!?
……カイン!? ――カインは……っ!?」
再びパニックになりかけたセリちゃんのことをしっかりと押さえつけて、バルさんはゆっくりと言い聞かせた。
「落ち着けセリ。ここは安全だからとりあえず横になってろ。カインはそこにいる。それにアスパードって野郎なら死んでたよ」
「……死ん……だ?」
大人しくなったセリちゃんを抱えあげ、バルさんがベッドに寝かせ直す。
「ああ、間違いなく死んでた。
んで、俺がどうしてここにいるかって聞かれりゃあ、それはもう俺はセリを追いかけて……」
「バル! 頼みがある……っ」
セリちゃんが鋭い声でバルさんの言葉をさえぎった。でもその声はとても掠れていて、セリちゃんの声じゃないみたいだった。
「……なんだよ、改まって」
バルさんがちょっと残念そうに口をとがらせた。
「アスパードに逆らった人たちがこの町のどこかに監禁されてる。建物の地下とか、高い建物の上の階とか、怪しいところを片っ端からあたってほしい。
この町の中だけでも、何ヵ所かありそうなんだ。アスパードの仲間もまだ、それなりの数がいて……。
バル。頼んでいい?」
バルさんの顔がみるみる輝き出す。
「おう! 任せろ! 町の端から順に突撃して、手当たり次第怪しいやつをぶっ飛ばしてけばいいんだな?」
バルさんは嬉しそうに、自分の胸を叩いた。
「そう、お願い。あと……アスパードは本当に、死んでたの……?」
バルさんは静かにうなづいた。
「首を搔っ捌かれて死んでた。間違いなく本人だ」
な? とバルさんに視線で尋ねられて、オルメスさんもうなづいた。
「……誰が……アスパードを……?」
セリちゃんに返事をしたのはオルメスさんだ。
「俺らが騒ぎを聞きつけて合流したときには、一面が血の海だったからな。あんたがやったんだと思ってたぜ」
セリちゃんはオルメスさんの方へ顔を向けると、静かに首を振った。
「違う。……やったのが私だったら……きっと今、ここにこうしてはいないと思う……」
オルメスさんはたいして気にもしていない様子で「ふーん」と肩をすくめると、椅子から立ち上がった。
「さてと、俺はバルサールに同行しようと思ってるが……。
どうだい、負傷中のディマーズさん? ラスの護衛は必要かい?」
セリちゃんは疲れ切った表情でオルメスさんに答えた。
「もう私はディマーズじゃないから。ギルドに指示するような権限はないよ。
それに、アスパードが死んだのなら……護衛も必要ない。
どっちかというと、バルが関係ない町の人を間違ってやっつけちゃったりしないように見張ってあげてくれる?」
ほんの少しだけ笑って、セリちゃんが冗談を言った。すぐにバルさんが文句を言う。
「おいセリ! なんだよそれ!
俺のことバカにしてんのか?」
「前科があるだろお前は。忘れたのか?
ギルドの評判落とすなよな!」
バルさんとオルメスさんは、仲良く言い合いをしながら部屋を出ていく。
残ったのは僕とセリちゃんの二人だ。
部屋が急に静かになった。




