piece.16-6
街道を歩く道中、僕はまだ女装中だった。
ディマーズに見つからないように、マイカの街を出るまでは女装のままでいたんだけど――。
「もうそろそろいいよね? 女装やめても」
「いいじゃん、減るもんじゃねえし。もう少しそのままでいろって。
その方がバレなくて気が楽だろ?」
なんだかんだでシロさんが、僕に女装のままでいることを要求するので、着替え損ねてしまっている。
「次の休憩所ついたら着替えるからね」
「もったいねえ。愛想振りまいてりゃ、いろいろと得だろ? ずーっとそうしてろって。減るもんじゃねえし」
たしかに食事がちょっと安く食べれたり、頼んでないのにちょっと盛りを多めにしてもらったり、デザートをサービスしてもらえたりするのは、地味にありがたい。
買い物してもオマケしてもらえることも多い。
店の人が女の人ならシロさんの罠モードで。
男の人なら僕の女装おねだりモードで。
たしかに男女ペアなら効率がいいと言えばいいんだけど……。
この状況に慣れてしまうのは危険だと僕の本能が叫んでいた。
なんていうか……こういうことをしてたっていうのを、セリちゃんに知られたくないというか……何というか……。
「じゃあシロさんが代わりにナナクサやればいいじゃん」
「は? そんなしたらめちゃくちゃ目立っちまうだろうが。絶世の美女降臨でどこ歩いても男が寄って来ちまって前に進めねえよ。
お前くらいの程よく存在感が薄いくらいのがちょうどいいんだよ」
は? なにそれ自慢? それとも僕のことけなしてる?
くそ、絶対に次の休憩所で着替えてやる。
……別に僕の存在感が薄いとか、女装がシロさんより美女じゃないって言われたことが面白くないんじゃない。断じてそんなことなんかで腹が立つもんか。
女装を褒められたって嬉しくなんかないし。
別にプライドが傷ついたとかじゃないし。
だいたい女装でどっちが男にモテるかなんて、シロさんと競ったところでどうなるっていうんだろう。
勝てる気もしないし、もちろんこんなことで勝つ気もない。もちろん張り合いたくもないし。
しかし僕は次の休憩所についても女装をやめることができなかったのだ。
――バ、バルさんがいる……!
食事をしようと立ち寄った店で、僕はバルさんに遭遇してしまった。
バルさんと一緒にいるのは、前にいたアムローズさんではなく別の男の人だった。
たぶん、ばれないとは思う。
僕がまさか女装してるなんて、きっと思いもよらないはずだ。
でももしシロさんが僕のことをカインと呼んだらアウトだ。たぶん呼ばないと思うけど。
なんていうか……バルさんに僕が女装をしているのを知られたくない。
なんていうか……いろんなところで言いふらしそうだし。
万が一セリちゃんと会ったときに、僕が女装してたなんて話をセリちゃんには絶対にして欲しくない。
……絶対にばれるわけにはいかない……!
「あのでかいやつ、もしかして知り合いか?」
さっそくシロさんにばれた。大ピンチだ。
シロさんはわざとバルさんたちの席の近くに座ろうとする。
あーもう最悪だ。
本当にシロさんって、僕が嫌だなって思うことをする天才だと思う。
僕はうんざりしながらシロさんと向かい合わせでテーブルについた。




