piece.16-5
「ん? なんだなんだ?」
「仕事の相談か? 用心棒なら任せろ。安くしとくぜ」
僕は集まってきた男の人たちに事情を説明する。
「あの……この町に住みたいなって思ってるんですけど、良くない感じなんですか?
もし、どんな町なのか……知ってる人いたら、教えてほしいんですけど……」
僕は女の子の声で尋ねてみた。
「ん? その町……この前もどこかの女に聞かれたな」
誰かの声に、ドキッと僕の胸が跳ねた。顔がこわばったかもしれない。
落ち着かなきゃって思うのに、どんどん期待と不安が押し寄せてきた。
もしかして、その女の人って……。
すると、シロさんが僕の頭をなでながら甘い声で会話に入ってきた。
「街道から近いし、女からしたら良さげな町に見えるんだろ? 宿場町なら仕事もありそうだし、買い物もしやすいし、行商も通るからな。……お前だって、そうだろ? なあ?」
……やめて。僕にその『対女性用罠モード』の表情を向けるのは本気でやめて。
あと頭をなでるついでに耳をくすぐるの本気でやめて。最低。この店出たら絶対に怒る。
「こんなかわいい娘じゃないない! もっとヤバそうな女だった。陰気くさくて、死んでるみたいな目をした女!」
死んでるみたいな目……?
もう少しその女の人の特徴を聞きたかったけれど、また別の男の人が静かな声で会話に混ざった。
「……俺の知り合いが、その町を通過するルートで仕事に行って……少し前に死体で見つかった。
その町が原因かどうかは知らんが、その町のルート上で何かあったのは確かだ。
まあ、勘の良いやつではなかったから、長生きはしねえな、とは思ってたがな」
急に不穏な空気に変わる。
もしかして、殺されたって言うことなのだろうか。
「ん? そんなとこだったか? 俺は昔そこに寄ったことあるけど、普通の町だったぞ。たまたまなんじゃねえか?」
陽気な男の人が笑い飛ばした。だいぶ年上な感じのおじさんで、貫禄のある人だった。
「おいおい、お前の昔って何十年前だよ!」
「そんな歳じゃねえよ! 立ち寄ったのは数年前だよ数年前!」
そんな男の人たちのやり取りを眺めていたシロさんが、ふーん……とつぶやいた。
「つまり、ここ最近急にその町は雰囲気が悪くなったってことか。
残念だったなあ、条件的にはすごく良さそうだったんだけどなあ。
じゃあもう、すげえ寂れてて年寄りばっかの村にでも住むか。そうすりゃ俺以外にいい男もいねえし、浮気の心配もねえしな」
シロさんがどさくさに紛れてチューしようとしてくるのを、僕は必死で押さえつけて阻止した。
そこまで本気で演技しなくていいから! もう恋人同士のふりは十分だから! これ以上ふざけたらもう本気で怒るから!
僕とシロさんのやりとりを見て、酒場の人たちが盛り上がりだす。
「お! めでてえな! 祝い酒だ! 一杯奢ってやるよ! いいとこ見つけろよ!」
「あんたも元気な子産むんだぞ!」
「幸せにな!」
僕は仕方なく、その場の空気を読むことにした。
「……あ……ありがとーございまーす……」
僕は適当に酔っ払いの人たちと話を合わせながら、早く店を脱出するタイミングを探るのであった。




