piece.13-8
風が顔をなでていく。リズミカルな振動が体に響く。馬に乗るのは初めてだった。
いつもよりもずっと高い視点で、いつもよりもずっと速いスピードで自分の体が移動している。
本当だったらきっと、嬉しいとか楽しいとか、そんなことを感じたのかもしれない。
でも今はそんな気分になれなかった。
僕は馬から落ちないように、シロさんの腰にしがみつきながら尋ねた。
シロさんの体からは、甘ったるい香水の匂いがして、少しだけ頭がクラクラした。
「シロさんはさ、なんであんなにひどいことをするの?」
グートのときもそうだった。
相手の心が壊れてしまうまで。
気が触れてしまうまで。
ナナクサのときのシロさんは、相手を徹底的に苦しめる。
普段のシロさんは、たしかにひどいこともするし意地悪だけど、ここまで度を超えるようなことはしていなかった。
ナナクサのときのシロさんは、僕の知ってるシロさんじゃないみたいだった。
「前に言わなかったっけか? 殺してもきりがねえし、嫌ってほど痛い目に遭わせれば、もう二度と悪いことしようなんて気にならねえだろ?」
「それはさ……シロさんがしなきゃいけないことなの?」
シロさんが黙った。
馬の足が速くなる。
僕はあわててシロさんにつかまる腕に力をいれた。
きっと、この話はシロさんにとって、話したくないことなんだと思う。
だけど僕は知りたかった。知らなくちゃいけないと思った。
「シロさんやセリちゃんがいたキャラバンは、本当は何をするキャラバンなの?
踊りを踊るだけのキャラバンじゃないんだよね? こういうことを仕事にしてるの? 悪い人を懲らしめるギルドなの? ディマーズみたいなのと一緒?」
シロさんはまだ答えない。
「前に団長のナナクサは悪いやつを狩るのが好きだって言ってたよね?
『ナナクサの祟り』の話、してくれたよね? 本当はシロさんにも、その『祟り』があるんじゃないの?」
ナナクサの声を出すシロさんは別人みたいだった。
シロさんだということを忘れてしまいそうになるくらいに。
ナナクサが、シロさんを乗っ取っているんじゃないかって思ってしまうくらいに――。
馬のひづめの音だけが響く。
「シロさんはどうしてナナクサを名乗っているの?
もしかして、いつもナナクサと一緒にいて、お気に入りだったのは、セリちゃんじゃなくてシロさんの方だったんじゃないの? だから……」
「あーもーうるせー! 舌かむぞ! 黙ってろ!」
シロさんは馬のスピードを一気にあげた。僕は落ちないように必死で腕と足に力を入れた。
またかわされた。腹立つ……!
シロさんに本当のことをしゃべらせるのはすごく難しい。
僕はひとまず、馬から落ちないようにすることだけに集中した。
くそ。絶対にしゃべらせてやる。
僕は機会をうかがうことにした。




