崩れた町、腐った空気
また、爆音で目が覚めた。
もう驚きはしない。慣れたというより、驚くことに疲れたんだ。
天井のひびから砂埃が落ちてきて、咳が止まらない。
顔をこすりながら起き上がると、台所で母が缶詰を開けていた。
電気も水も、とっくに止まったまま。これが僕たちの日常。
「アスラン、食べなさい」
母はそう言うけれど、僕の胃はまだ眠っていて、何も入れたくなかった。
窓を開けると、肺に腐った空気が流れ込む。
外には、壊れた建物。焼け焦げた車。ゴミの山。
そして、沈黙。
——ここにはもう、子どもの声も、犬の鳴き声も、ほとんど残っていない。
昼になって広場へ行くと、同じ年ごろの子どもたちが集まっていた。
銃のまねをして走り回っている。
「バンバン!」と叫びながら笑うその姿が、僕にはもう笑えなかった。
「アスラン、おまえも兵隊になりたいだろ?」
誰かが声をかけてきた。
「なんで?」僕は聞き返す。
「だって……かっこいいじゃん。おれの兄ちゃん、兵隊でさ。敵をいっぱい倒したんだぜ」
少年は誇らしげに胸を張った。
でも、僕の父さんも医者から兵隊になった。
そして、帰ってこない。
敵を倒して、何が残る?
僕の家族は、ただ壊れただけだ。
「兵隊なんか、なりたくない」
そう言った瞬間、場が少し静かになった。
誰も言い返さなかったけれど、みんなの視線だけが重く刺さった。
空を見上げると、雲のすきまから光が差し込んでいた。
あの光の向こうには、別の世界がある。
清潔な服。あたたかい家。安全な学校。
僕はそれをテレビでしか知らない。
でも昨日、街に来た支援団体の女の人が携帯を見せてくれた。
小さな画面の中に広がっていた「外の世界」。
そこには戦争がなくて。
子どもが笑っていて。母親が安心した顔で料理をしていて。
地面に死体もなく、水は透き通っていた。
その光景を、忘れられない。
「なんで僕たちだけ、こんな世界に生まれたんだろう……」
誰に聞かせるでもなく、つぶやいた。
返事はなかった。
ただ、その問いだけが僕の胸の奥で何度も響き続けていた。
——僕はまだ知らなかった。
あの問いが、やがて僕の運命を変えることになるなんて。




