表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹の夢でまた会いましょう  作者: うたまる ひろ
第4章・前編 首都攻防戦 ~それぞれのリュテ~
76/99

ロベール・ジャメとの出会い

 ロベールを襲った三人は懐から取り出した小ぶりなナイフを手に取ると、アレンとロベールを取り囲み、じりじりと距離を詰めてきた。

「おい、てめぇには用はねぇんだ。余計な邪魔せずどっか消えるってんなら、こっちもどうこうするつもりはねぇ」

 男の内の一人がアレンに話しかけると、アレンは鼻息を鳴らしてそれをあしらう。

「その後、このおっさんをどうするつもりなんだ?」

「てめぇにゃ関係ねえだろうが!!」

 また別の一人、アレンに向かって怒声を上げる男を見て、アレンは大きくため息を吐いた。

「……今俺はめちゃくちゃ苛ついてるんだ。ぶん殴られたくなかったら、てめえらがどっかいけ」

「てめぇもぶっ殺してやらああああああ!!」

 激発した三人がアレンに向かって飛び込んできた。

 最初に飛び込んできた男をナイフで横にいなすと、腹部へと思い切り蹴りを叩き込んだ。

 蹴られた男は、その後ろに居た男もろとも巻き込んで、盛大に薄汚れた地面へともんどり打つ。

「おらあああっ!!」

 もうひとりの男がナイフを振りかぶり、アレンへと突き立てようとする。

 それを余裕をもって躱すと、膝蹴りを叩き込んで男を思い切り投げ飛ばす。

「うぐっ!」

「やろう!!」

 さきほど地面へと倒れた男たちが再びアレンへと向かってきた。

 男はめちゃくちゃにナイフを振りまわすだけで、アレンから見たら子供の駄々よりも簡単にあしらえる攻撃だ。

 一瞬の隙をついて男の手元にナイフを走らせると、その刃先から赤い血の跡が引く。

「うおぉああ!?」

 鋭い痛みにナイフを取りこぼした男に『黒玉』を吸い込ませると、『ギフト』を発動させた。

 黒玉を吸い込んだ男は、先程アレンが投げ飛ばした男の方へと吹っ飛んでいく。

「ぐわっ!」

「うげ!?」

 立ち上がろうとしていた男と衝突し、短い悲鳴を上げて地面に転がる。

「な、なんだ、こいつ!?」

 あっというまに二人共のされてしまい、驚愕に目を見開く男。


 その首に後ろからナイフが当てられた。

 男が「うっ!?」と呻いて動きを止める。


「……この焦ってる時になにやってるんですかアレン?」


 幾分苛立ちの募る声でククがアレンを糾弾した。

「わりぃ、道を歩いてたらなんだか知らん内に巻き込まれてた」

「勘弁してくださいよ。今の状況分かってるんですか? 早くカロルを見つけないといけないのに」

「分かってるよ! 俺は巻き込まれた側なんだからどうしようもないだろう!」

 ククとアレンが言い合っていると、さきほど吹き飛ばした二人がよろよろと立ち上がった。

「てめぇ、よくも……!」

「まだ諦めてねぇのかよ……もういい加減にしろよ……」

 怒気を孕んだ声音でアレンが呟いていると、不意に遠方から少年の叫び声が聞こえてきた。

「おまわりさん、こっちです! こっちで殴り合いの喧嘩ですよ! 早く、早く!」

 その声を聞いた暴漢三人の顔に焦りの色が浮かぶ。

「で? お前らどうすんだ? 俺は別に警察の事情聴取に付き合ってもいいがな?」

 アレンが男たちにそう言うと、男たちが悔しげに唇を噛み締めながら、ナイフを懐にしまった。

「くそっ! てめぇら覚えてやがれ!」

 そのような捨て台詞を残し、暴漢達は這々の体でその場から走り去った。

「絵に描いたようなチンピラだな……」

 アレンがナイフを収めながらそんなことを呟く。すると建物の影からパーシーがひょこりと姿を現した。

「奴らは行きましたか?」

「ああどっかへ消えた。悪いな夢男」

「なんの、お安いご用」

 パーシーの姿をした夢男がニヤリとした笑みを浮かべる。

「……で、アレン。あの男は一体誰ですか?」

「あ? ああ。今の暴漢達にナイフ持って追いかけられていたおっさんだ」

 ククが地面に手をついているロベールを見ながらそう声をかけると、アレンと夢男もつられたようにロベールに目線をやった。

 さきほどからぽかんと三人のやりとりを見守っていたロベールがハッと気を取り戻し、慌てふためきながら地面から立ち上がった。

「す、すまねぇ。助かったよ、アンタがた!」

 そう言うとロベールはアレン、クク、夢男と順々に目線を送り、握手を求めた。

「俺はジャーナリストをやってるロベール・ジャメってもんだ。命の恩人達よ、名前を聞かせてくれ」

「俺はアレン・ゴードン。旅のものだ」

「クク・マクマジェルです。アレンに同行しています」

「私は……えー……」

 アレンとククが握手に応じる中、一人夢男がパーシーの顔を困らせながら、名乗りに詰まる。

「パ、パー……『パーシヴァル・フェザーストン』、です」

「パーシヴァル君。君にも感謝を」

 ロベールは夢男が適当にでっち上げた偽名をウンウンと頷き受け入れる。夢男のどこか空々しい笑顔を見て、アレンとククは複雑な気分になる。

 短い自己紹介が済んで、アレンがロベールへと向き直る。

「それでロベールさん、さっきの奴らは何者なんだ?」

 アレンの質問に対し、ロベールは「あいつらはだな……ウン……」と何やらモゴモゴと口ごもり、答えるのに少し躊躇する素振りを見せた。

「アレンさん、パーシヴァルくん、君たちは名前から推察するに……テルミナ出身かな?」

「? そうだが、それが何か?」

 その質問の意図が掴めず、アレンは困惑したような声音で返答する。

 ロベールはその様子を見ると今度はククの方をちらちらと気にする。

 この男は一体何を気にしているのだろうと三人が疑問を抱いていると、その空気を察したロベールが後頭部を掻きつつ「いや、まぁ、なんだ」と気まずそうな声を上げる。

「あんな風に襲われたもんで、ちょいと疑心暗鬼になって用心しちまうのは勘弁してくれ。……うん、まぁアンタラ外国人だしな、多分大丈夫のはずだ……」

 そう言うと、ロベールは気を取り直すかのように、ウォッホン、と一つ大きな咳払いをした。

「あのチンピラ共は、『デパルトの旗を立てる者たち』っていう極右組織の下っ端連中で……」

「『旗持ち』だって!?」

「なんだ、知ってるのか?」

 アレンが大声を上げると、意表を突かれたロベールが驚きつつも、少し拍子抜けしたような表情を浮かべた。

「ああ知ってる。この国に来てからこっち、奴らには散々な目に合わせられてるからな……」

 アレンがしみじみとした怒りの胸の内を吐露していると、共感するようにロベールがウンウンと頷く。

「特に奴らはテルミナ出身の奴らを目の敵にしているからな、アレンさんもパーシヴァルさんも散々苦労なさったろう。あんな奴らはこの国のほんの一握りで、大半は友好的な人間であることを分かって欲しい」

「ああ、勿論。まだこの国に来て日は浅いが、世話になった人たちも沢山いる。ちゃんと分かってるさ」

 アレンのその言葉を聞いてどこかほっと胸をなでおろしたロベールが笑みを浮かべる。

 アレンが続けて質問する。

「それで、なんでロベールさんは奴らに追いかけられて?」

 ロベールが少し答えにくそうに、歯で空気を擦るようなスーッという音を立てて息を吸い込む。

「ちとでかいネタを追ってる最中でな、それで色々と調べ回ってたところ、奴らに襲われた」

「そりゃ物騒な話だな……どんな危ないネタを追っかけたらそんなことになるんだ?」

「それを話すのは勘弁してくれ。飯のタネだからってのもあるが、本当に危なそうなネタなんだ、命の恩人とは言え、おいそれとは話せねぇんだ」

 気まずそうな顔で言い渋るロベールにアレンが首を振った。

「いや、こっちも踏み込みすぎた、悪かった」

「気を遣わせて悪いな。いや、それはともかくだ」

 そう言ってロベールが力強くアレンの肩を握る。

「さっきは本当にありがとう。アンタがたに出会わなければ、今頃俺はベレーヌ川にぷかりと浮かんでたとも限らねえ。何か困ったことがあれば何でも言ってくれないか。アンタがたの助けになりたい」

 ロベールが力のこもった目でアレンを見つめる。

 そういうことであれば……という気持ちで、アレンは今切実に困っている問題について、のぞみ薄とは思っていたが念の為聞いてみることにした。

「今日リュテ市内で、銀髪の娘を見かけたりしなかったか?」

「銀髪の?」

 ロベールがキョトンとした顔になった。アレンが頷く。

「17、18くらいの娘だ。理由あって、その娘が俺達からはぐれちまった。今日一日ずっと探しているんだが全然見つけられずにいて困ってる」

「銀髪の若けぇ娘……いやぁ、悪いがそういう娘は見かけてねぇな」

 ロベールのその答えにアレンは「そうか……」と落胆する表情を見せる。

 パーシーの能力によって連れ去られている以上、多分、この市内にカロルの姿を目撃したものなど誰も居ないだろう。

 分かっては居た。分かっては居たが、やはり気落ちはしてしまうものだ。

 なんとなく気まずい空気に包まれていると、夢男が唐突に声を上げた。

「今日に限らず、顔を見かけたことはありませんかね? こういうお顔の方なんですが……」


 そう言って、夢男がカロルの姿に変身する。


「うおぉ!?」

「驚かせてすみませんねぇ、これが私の『ギフト』でして」

 目を見開いて驚くロベールに、カロルの顔をした夢男がどこか無感情で違和感のある笑みを浮かべる。

「お、おい、ちょっと!?」

 夢男の突然の行動にアレンが泡を食って詰め寄る。

「突然なにやってるんだよ!?」

「いやなに。言葉だけではピンと来なくても、こうやって現物を見せれば案外何か思い出すかも知れないと思いましてね」

 涼しい顔をしながらそう宣う夢男に、幾分真剣味を増してアレンが注意する。

「もう少し慎重になってくれよ。……一見無関係そうに見えても」

 何か思い当たることは無いかと首を捻りながら唸るロベールに、アレンはこっそりと視線を向ける。声をより一層潜める。

「……本当のところ、ロベールさんが奴らと無関係かどうかは分からないんだ。うかつな行動はよしてくれよ」

「しかし多少リスクを被っても、情報を得られるチャンスは逃さない方が良いですよ、アレンさん」

 大理石のようにつるりとした冷静な顔で、夢男がほんのりと微笑む。

 夢男がそっとアレンの手を自身の肩から外した。アレンはそうされて初めて夢男の肩を無意識の内に掴んでいたことに気付く。

「それに、恐らく彼は奴らとは無関係でしょう。ジャーナリストである彼が極右組織である旗持ち達に狙われてしまうようなネタ。それってどんなネタでしょう?」

 夢男が意味深な問を発する。

「……いや、分からん……」

「多分、政治スキャンダルの類だろう、ってことが夢男の言いたいことでは?」

 どうにも苦手なジャンルの話を振られ、アレンがムムッと閉口していると、横で聞いていたククが話に割り込んできた。

「旗持ちは、要は政治結社ですから。旧体制の頃から存在する国王支持勢力、その内の急進派連中が今の旗持ちの源流です。そんな彼らに命狙われてしまうような大きなネタ、と言ったら……」

「……王室とか、それに関連するスキャンダル絡みのネタ、ってことか……?」

 アレンが恐る恐る答えると、夢男が我が意を得たりと頷き返す。

「まさに。王室を持つ国出身ですと、こういうところ話の飲み込みが早くて助かります」

 アレンの出身国であるテルミナ連邦にも王室が存在する。

 アレンは政治には疎いが、ククの言葉が呼び水になって理解が繋がった。

 夢男が続ける。

「そしてそうならば、ロベールさんは国王陣営側の人間ではないということになります。なにしろ国王の不正を追っている人間なわけですから、立場的にはむしろ私達に近い所にいます。ならばこちらも出せる情報は出して、彼の持つ別の情報を引き出すことにメリットがあります」

 そこまで夢男がしゃべったところで、アレンが反対意見を出す。

「お前の言うことも分かるけどな。ロベールさんが国王や特務機関とは無関係でも、彼が関わる別の人間が無関係とは限らないじゃないか。もしここで俺達が色々動いていることがバレて、カロルに何か危害が加わるなんてことになったら……」

 アレンがその万が一のリスクに躊躇していることを見て取ると、夢男が少し困ったように眉根を寄せる。

「それは少し考えすぎでは? 彼らにとっても、カロル嬢は世界樹の本と並ぶ重要な存在です。カロル嬢に危害が加わることを恐れているのは彼らも同じ。カロル嬢の身の安全という意味では、私は心配しなくて良いと思いますがね」

「いや……しかし……」

 アレンがその言葉にも納得しきれず口ごもっていると、夢男が「そしてもっと言うと……」とさらに主張を加える。

「私達の動きが奴らに補足され、その結果彼らに何かしらの動きが見られたのならむしろそれは好都合じゃないですか?」

「相手の反応から奴らの内部の動きを推測するってことですか?」

「ククさんの仰るとおりです」

 夢男の言わんとする事をククが要約すると、夢男はそれに同意した。どうにも納得しかねるアレンが再反論した。

「そんなこと素人の俺達にできるのか? カロルに害が及ばないってのも確実には言い切れないだろう?」

「ではどうしますか? 今日一日あちらこちらと駆けずり回って、何の情報も得られなかったんですよ? もう情報を得るとか何も考えずに王宮にでも突入してみますか? 囚われの姫を救い出すために絶望的な戦いを挑む三人、まるで悲劇の英雄譚のようですね。大変に格好よろしいかと思いますよ? 私達の散り様を語り継いでくれる方がいればいいですね?」

「ちょ、ちょっと、二人とも。そんな言い争いしたところで何の意味も……」

 次第に険悪なムードに包まれ始める三人の耳に、突如ロベールの「ああああ!!」という大きな叫び声が飛び込む。

「その顔、思い出した! 何か見覚えがあると思ったんだ!!」

 カロルに変身している夢男を指し示しながら、ロベールが歯をむき出しにして興奮している。

 呆気に取られた三人は思わずぽかんとしてしまう。

「その顔、カロル・エレオノール・ド・ラ・シャロン嬢だろ!」

「おや? やはりご存知でしたか。ジャーナリストの方ということですから、もしやと思いましたが」

「毎年の革命記念祝賀行事で、何度か見かけたことがある」

 夢男の言葉にロベールが頷き返す。

「え、ってことはだよ? アンタがた、シャロン家の第一令嬢と一緒に行動しているってのか!? シャロン卿の不可解な死後、豪壮な屋敷もほったらかしにして、謎の逃避行を見せているっていう例のご令嬢と!?!?」

 興奮しきりのロベールが、思わずと言った様子でドカドカと歩み寄ると、夢男の肩を乱暴に掴んだ。夢男が非常に珍しく「うわっうわっ!?」と驚き慌てふためく。

「おい! おいおいおい!! こいつは……なんてこったぜこれは……」

 カロル(に変身した夢男)の顔をまじまじと覗き込み、打ちのめされたかのように手で頭を抱えフラフラとよろめくと、稲妻のように素早く懐からメモ帳を取り出した。

「頼む!! 謝礼は弾むからアンタ方の話を聞かせてくれないか!?」

「待ってくださいその前に、カロル嬢の姿はリュテでは見かけていないということでよろしいですか?」

 先の質問も忘れ勢い込んでこちらへと顔を近づけてくるロベールに念のための確認を取ると、ロベールは馬のように激しく頭を振った。

「見てない。むしろいるのか、このリュテに!?」

 夢男が残念そうに頭を振った。

「私達も彼女の行方を知りたいのです。ですからお聞きしたいのです。何かこのリュテで『彼女を狙う怪しい動きがある』などの情報はありませんか? この際うわさ話などでも構いません」

 夢男がロベールにそう言うと、ロベールは顎に拳を添えて考え込む。

「……いや、そういうのは知らねぇな。しかし、アンタがたの話を聞かせて貰えれば、何かピンとくる情報もあるかもしれない」

 そこまで言うとロベールは突然歩き出した。そしてふと三人の方へ振り返ると、親指でくいと自分の方へ向けて『付いてこい』というジェスチャーをした。

「俺も知ってることは全部話そう。俺の良く行く店がある。そこで話しをしよう」

 そう言って道の奥へとずんずん歩みを進め始めた。

 アレンたち三人はお互いに顔を見合わせた後、こうなった以上はこちらもロベールから得られるだけの情報を得ようと決心し、彼の後を追い始めた。


次回更新は 2020/11/16 朝6時更新予定です。


【作者Twitter】https://twitter.com/hiro_utamaru2


評価・感想は小説家になろうにアカウント登録するとできるようになります。

作者の励みになりますので、よろしければ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ